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ゲーマー幼女 ~訳あって攻撃力に全振りする~  作者:
第三回イベント『勝ち抜きトーナメント』編
123/147

「び~すとふぁんぐの沙南、破れたり!」

【くぅのアビリティが発動。アルテミス化】


 結局は沙南に転身ルートを進ませてしまった。

 今の戦いではっきりと実力の違いを見せつけられて、もう勝てる気なんてしなかった……


【沙南がスキルを使用した。神獣転身】


 だけど……それでも……挑戦する! 最後まで諦めたくない!

 もしものためと思い、対策だって一応は考えてきたんだから!


『さぁ、沙南選手が転身ルート。くぅ選手が暴走ルートで神化バトルに突入です! 沙南選手はこれまで転身ルートで無類の強さを誇っていますが、くぅ選手は対抗できるのでしょうか!?』


 そう、基本的には沙南に転身させた時点で状況は絶望的。それだけ神化した時の能力が優れているし、沙南自身もとんでもないスペックを秘めている。

 ここからはもう、負けるのを覚悟でぶつかるしかない!


「さてと、どこまでやれるかしら……」


 私は沙南に向かって走り出す。まずは一つ目の神技、牙抉がえつを潰す。

 あの技は得体が知れないから、こっちから向かおうが相手から来ようがとにかく接近するのが怖い。だから真っ先に潰す!

 とりあえずは腕の動きに最善の注意を払う。腕を上げるというモーションの少ない動きで広範囲を攻撃できる爪薙そうなぎはかなり厄介な技だから。


「やああああああっ!!」


 どうやら今回は爪薙を使わないらしい。私が迫るのをジッと待っていた。

 それはそれで都合がいい。沙南に攻撃を仕掛けるギリギリのタイミングでスキルを使う!


【くぅがスキルを使用した。偽装幻夢ぎそうげんむ


 このスキルは幻術を使って自分の分身を生み出す技。この分身に攻撃をさせて、私は一気に後方へ飛び退いで逃げる!

 そうして分身が沙南に攻撃を振るうと、瞬時に周囲が暗転する。


【沙南が大技を使用した。神技、牙抉】


 やった! 引っかかった!!

 今のうちに攻撃したいけど、本体である私まで動けなくて攻撃できない……

 沙南は腕を上下に広げ、獣が獲物を噛み砕くように腕を交差する。

 ――グシャアァ……

 分身は牙に噛み千切られて霧散する。そうして煙のように消えていった。


「ええ!? 偽物!?」


 沙南が困惑している。正直言って私も困惑している! この今のスキルで牙抉が発動する確信なんてなかったのだから。

 とにかく、これで牙抉は潰した。つぎは爪薙をクリアしないと……


「ほ~ほっほっほ! こんな簡単な仕掛けも見破れないなんて、案外大したことないのねぇ~」

「む、むぅ~!!」


 頬を膨らませて怒っている。そう、挑発に乗って爪薙を使ってきなさい!

 私は弓矢を構えて沙南を狙う素振りを見せる。本当に攻撃を仕掛けるわけではなくて、あくまでも爪薙を誘発させるための演技だ。


「さぁ、これで終わりよ! 覚悟しなさい、沙南!!」


 いかにも神技を使いそうなセリフで沙南を誘う。

 すると、沙南の右腕がスッと動いた!

 そこには何もないのに、引っ掻くように腕を振るう!

 今だ!!


【くぅがスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】

【沙南が大技を使用した。神技、爪薙】


 ガシャーン!

 ガラスが砕け散るような音が鳴り響く。目に見えない何かが砕け散り、うっすらと光を反射させてキラキラと輝く塵となった。


「ふわ~!? 爪薙が~!」


 やった!? よっし!! よしよしよしよし!!

 デッドリーキャンセラーも、沙南の持つ『神獣の爪』という効果で効かないかもしれないと思っていた。けどなんだ、やれるじゃない!

 これで牙抉と爪薙をクリアした! 信じられない。私、本当に転身した沙南に勝てるんじゃないかしら!


「ふ、ふふふ……ほ~ほっほっほ! び~すとふぁんぐの沙南、破れたり! もはやあなたに残された手段はないはず!」


【くぅがスキルを使用した。兎躍】

【くぅがスキルを使用した。空中浮揚】


 少し高い位置まで跳び上がると、その場に浮遊する。これが狩人の真骨頂。空中から相手を一方的に狙撃する事ができるのよ!

 もうここからは私の独壇場! 爪薙のリキャストタイムが回復する前に矢の雨を降らせて決着をつける!

 もはや沙南には、この私の遠距離攻撃をどうこうする術はない!


【くぅが大技を使用した。神技、ラグナロクアロー】


 私のさらに上空に、無数の矢が出現する。おびただしい数に上空が真っ黒に染まっていくほどだ。

 勝った! 私の勝ちよ! これを凌ぐ事なんてもうできない! 私の完全勝利よ!!


「……やっと神技を攻略してくれる人が出てくれた……」


 突然、沙南がそんな事をを呟いた。

 なんですって? それではまるで、今までは早く乗り越えてほしくてすぐに使っていたみたいじゃない。世迷言よまいごとを。追い詰められて気が動転しているのかしら?

 私の神技が完了する。上空には真っ黒な矢の壁が出来上がっていた。これを落とせば私の勝ちよ!

 沙南は足を広げ、前傾姿勢となる。クラウチングスタートのような恰好だ。

 なるほど。ソニックムーブを使うつもりね。助走をつけて跳べばここまで届くかもしれない。

 けどそんな事をしても無駄よ。私くらいの実力になると、ソニックムーブの動きにすら対応できる。それで接近したとしても、いとも簡単に避けることが可能なのだから。

 どうあがいても私の勝ちは揺るがない!!


「……ナーユちゃん直伝、ソニックムーブ改、『獣突じゅうとつ!』」


 その瞬間に、沙南の姿が消えた……

 そして、バアァンという大きな衝撃音が鳴り、私の視界は上を向いていた。

 何が起こったのかわからない。記憶にあるのは、ほんの一瞬だけ、沙南が目の前に現れたような気がしたという事だけ……

 そして視界はグルグルと回る。

 ……もしかして私、ソニックムーブを使った沙南に体当たりをされたの……?

 だとしたら、今のスピードは何? まるで沙南が瞬間移動したような速さだった。ソニックムーブはあんな速さが出せるスキルだったっけ……?

 わからない。今、何が起きたのか全く理解できない……

 ドサッ。

 宙をグルグルと回っていた私の体が地面へと落ちた。


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】

【沙南の攻撃】

【くぅに1702万3744のダメージ】


 ログを見ると、それだけが記録されている。


『な、なんという攻撃でしょうか~!? 沙南選手、目にも留まらぬ速さでくぅ選手を跳ね飛ばしてしまいました~!!』


 あぁ、原理はわからないけれど、本当に私は体当たりをされたんだ……

 悔しい。せっかくここまで追い詰めたというのに……

 全てが終わったことを悟り、体の力が抜けていく。

 そうして私は、静かに目を閉じるのだった……

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