「これが僕の神技さ。止めることができるかな!!」
『さぁ~先に動くのはどっちかぁ~!?』
解説の声に反応するように、オロチさんはすぐに行動を起こした。
【オロチがスキルを使用した。兎躍】
【オロチがスキルを使用した。空中浮揚】
タン! と大きく飛び上がると、オロチさんの体はその空中に固定され、降りてこなくなる。
『な、なんと!? オロチ選手、空中に浮いています! これでは接近戦に持ち込めず、遠距離攻撃が得意な狩人の独壇場になってしまう~!!』
「ふえ~……空を飛べるなんていいなぁ~」
「……空を飛べるわけじゃないよ。あくまでもその場に浮くというだけ」
なるほどね。兎躍で高い位置に浮揚すれば、近接戦闘を仕掛けられることはなくなる。しかも遠距離攻撃を撃っても、狩人には二段ジャンプがあるから一度は回避することも可能って訳だね。
これが、狩人が神化したときのポテンシャル。
「さぁ、一気に行かせてもらうよ!」
【オロチが大技を使用した。神技、ラグナロクアロー】
オロチさんの周囲に再び矢が出現する。さっきの絶技に似ていて、その数はどんどん増えていく。
違うとすれば、その数だ。
絶技の時は蟻の這い出る隙間もないほどの量だった。けれどこれは、その比じゃない。
世界の終焉を告げるかのように、その矢は増えすぎて頭上を黒で染めていた。
真っ黒に染まった天井の、その一本一本が小さな矢。これらが降ってきたら、それは『降り注ぐ』なんて表現なんかじゃ決してない。『落ちてくる』って言った方がいい。
多くの矢が集まった、その天井が落ちてくるのと同じ事なんだ。
刺さるのではなく、押しつぶされるイメージしか沸いてこない。
「これが僕の神技さ。止めることができるかな!!」
そうしてオロチさんは、その『真っ黒な天井』を落下させた!
押し寄せてくる『それ』を見つめて。私はスッと右手を上げる。
野球選手がアンダースローで腕を振り上げるように、ただ、下ろしていた腕を持ちあげた。
【沙南が大技を使用した。神技、爪薙】
ズバァ!
その瞬間に、オロチさんは全身を引き裂かれて宙を舞っていた。
迫っていたの無数の矢も、薙ぎ払われてバラバラに散っていく。
解説のお姉さんも、歓声さえもピタリと止んで静かな時間が訪れていた。
爪薙:消費5000。巨大な不可視の爪で広範囲を攻撃できる。この技は相手の遠距離攻撃を弾く効果がある。攻撃力40倍。
【オロチに36億8134万5024のダメージ】
【オロチを倒した】
オロチさんのHPゲージがなくなって、そのまま地面へと倒れこむ。
戦闘が終了したことで、周囲に残っている無数の矢も消滅していった。
場内の空気は未だに重い。何が起きたのかわからないという空気だった。
私はこんな空気が好きではない。よく漫画やアニメで、主人公がチートな能力を使って無双する作品があるけど、あれはいい。爽快で見てて面白いから。
けどここでは違う。これはあくまでもゲームであって、プレイヤー同士の戦いなんだ。
あまりにも強すぎると、ズルいとか、バランス崩壊だとか言われてしまう。だからといって使わなければ、舐めプレイだと思われ印象が悪くなる。
だから私は真っ先に使うことを選んだ。
一番初めから使って、これらの技を乗り越えてくれる人を待っている。そうしてから初めて、こんな初見殺しのような特技に頼る事のない真っ向勝負が始まると思うから……
『し、試合終了~~~!! なんと沙南選手、右手を振るっただけでオロチ選手を切り刻んでしまいました~!! これは一体何が起こったというのか~!?』
次第に場の空気が元に戻り、ざわめきが大きくなっていく。
そんなフィールドを後にして、私は一足早くその場を去るのだった……
* * *
『これは驚きです! レベルの低く相性的にも不利だと思われていた沙南選手でしたが、結果を見ればなんと圧勝! これはとんだダークホースだぁ~!!』
な、なんなの……!? 今一体何が起きたというの……!?
今の戦いを見た私は、はっきり言って動揺を隠せない状態にあった。
「くぅ様、今のは一体!? ログに残っている爪薙という技はなんなのですか!?」
一緒に観戦していたフラムベルクのメンバーも困惑した様子でそう聞いてきた。
「そんなの私が聞きたいわよ! 私だって初めて見たんだから!!」
苛立ってそう怒鳴り返す。
こんなの想定外だわ。沙南も、ゲームマスターも、び~すとふぁんぐは全員倒して私たちのフラムベルクがこれからの天下を取る予定だったのに……
これが地下ダンジョン攻略部隊のハルシオンが気にしていた相手……。武闘家という未知数の相手だというの……!?
相手のオロチは私と同じ狩人だった。多少動きや判断が甘い部分はあるけれど、総じて私の最強戦術理論に沿っているようで、私はこの試合で沙南が負けると思っていた。
けど、あの爪薙とかいう神技は何!? 距離が離れた相手を一瞬で切り刻んだ。
なんらかの遠距離攻撃!? いや違う。腕を振るった瞬間にノータイムでダメージが発生した。
まるで……こう……飛び道具ではなくて、爪が伸びて攻撃されたような……
ああもう! 狩人が最強だと思っていたのに、これじゃむしろ天敵じゃない! あんな特技を持っているのなら、私が遠距離攻撃をしようと攻撃モーションに入った瞬間に狙われる!
何か……何か突破口を探さないと……
落ち着け。落ち着くのよくぅ! 大丈夫。私と沙南が当たるまであと二回も試合が見れんだもの。しかも今の試合で次に戦う相手も対処法を考えるはず。それを見て私も参考にすればいいだけの事よ。
ふっ、沙南。爪薙が強力だからと思って油断しているのね。追い込まれるまで隠しておけばいいものを、慢心してすぐに使うからこうして警戒されるのよ。
必ず付け入る隙を見つけて、その余裕に満ちた態度を後悔させてあげるわ!
「ふふ、ふふふ、ほーほっほっほ! 最後に勝つのはこの私よ!」
「おお!? くぅ様がいつもの調子に戻ったぞ」
――そんな思惑が交差する中、決勝ブロックは進んでいくのだった。




