「これからは我がクラン、フラムベルクが天下を取るのよ!!」
この回だけ5000文字超えてます。
「流れって……だからほら、戦闘不能になって、そしたらもう片方も戦闘不能にして……」
やっぱりそうだ。この人は神化バトルをするのが初めてなんだ。
そういえばルリちゃんも言っていたっけ。カオスワールドは少人数だって。だから神化できるのがアビスさんだけだったんだ。
「仕方ないなぁ。それじゃあ私が教えてあげるよぉ」
ゲーマーとして、こういう情報を教えてあげるのってなんだかちょっと優越感を感じられるよねぇ。
「アビスさんはさ、神化できるようになった時に得た称号の説明欄、ちゃんと読んだ?」
「ああん? そりゃ読んださ。あれだろ? 絶技の使用回数を一定以上にして戦闘不能になると、低確率で発動するってやつ……」
確かにそうなんだけどね。
「そこに『暴走状態で』って書いてなかった?」
「あ~……そう言われてみれば書いてあったな。って、それが何だってんだよ!?」
「暴走状態で神化するなら、正常な状態で神化するルートも当然あるって事だよね?」
「……なん……だと……?」
私は右手を伸ばす。自分の中にある力に向かって手を伸ばす。
そしてそのまま、大いなる力を掴み取った!
【沙南がスキルを使用した。神獣転身】
バチン! と、私の体がスパークした!
電気が弾けるような、そんな大きな音が鳴った瞬間に、私の体は変貌している……はず。自分では見えないけどぉ……
「な……な……」
そう。これが本来の神化バトルの流れなんだ。
最初はノーマル状態で戦い、先に相手を戦闘不能にして暴走状態で神化させる。するとこちら側にも神化の余波が流れ込んできて、正規の状態で神化できるようになる。
もちろん、正規の状態で神化した方が強力なので、ノーマル状態でのバトルも重要になる。これまで課金した能力も決して無駄にはならないという仕組みだ。
「なんだそりゃあ~!!」
アビスさんの鋭い目つきも、今は真ん丸となって驚いていた。
神獣の覚醒:神獣化を習得している状態で相手が先に神化する事により、その連鎖反応により魂が覚醒した。スキル、神獣転身を取得する。
神獣転身:相手が神化した時に使用可能。元のステータスにHP500万。それ以外は2万をプラスする。
「へ、へへへ。なるほどな。神化にそんな作用があったなんてなぁ……。けどよぉ、多少の有利不利があっても、絶対に覆せないほどじゃねぇんだろ?」
口角を上げながら、アビスさんがそう聞いてきた。
「もちろん。暴走状態だって、技術や作戦でいくらでも巻き返すことができるよ。そうじゃなきゃゲームにならないもん」
「ならもう講習は終わりだ。これからは実技の時間だぜ。この俺がてめぇを倒して、どのクランよりも勝る事を証明する!」
そうして二本の短剣を私に向けた。
「覚悟しろやぁぁぁ!! 沙南ぁぁぁ!!」
そう咆哮を上げながら、全力で彼は飛びかかってくるのだった。
* * *
――一方その頃。第31ブロック。
『決着ぅぅぅ!! なんという洗練された動きでしょうか! 芸術ともいえる鮮やかな身のこなしで、決勝ブロックを決めたのは、び~すとふぁんぐ所属のナーユ選手だぁぁぁ!!』
割れんばかりの大歓声に包まれて、私は二本の短剣を回しながら腰の鞘へと素早く収めた。
『さすがは運営と言ったところでしょうか。その動きは頭一つ抜けていたといっても過言ではありません! このゲームのありとあらゆる部分に精通しているかのようです!!』
「なっ!? 運営は関係ありません! 私は一人のプレイヤーとしてイベントに参加しているだけです! 開発者からはなんの情報も知らされていないんですからねっ! ぷぅ~!!」
誤解を招きそうな解説に、頬を膨らませずにはいられなかった……
* * *
――第72ブロック。
『勝負あり~~!! 勝者、モフモフ日和のクランマスター、モフモフ師匠~~!!』
歓声の中にクランメンバーの声も混じっているモフ。
正直、このブロックには強敵はいなかったから当然だモフ。
『圧倒的な強さでした! さすがはイベント上位常連クランのマスターです。風変わりな恰好と、その名を知らぬものはもはやいないでしょう! これは決勝ブロックに進んでも期待が持てます!』
「風変わりは余計モフ……。それに、決勝ブロックに進めた時点で上位報酬がもらえるのは確定。あとはいつ負けてもいいモフよ。頑張るだけ疲れるだけモフ」
『っと、本人は言っておりますが、それでも毎度勝ち上がってしまうのがこの人です! この脱力系マスコットは果たしてどこまでが本気なのでしょうか!?』
ドッと笑いが起きて和やかな空気になっていく。
本当に頑張る気はあんまりないんだけど……
まぁ、やれるところまではやろうという気持ちのまま、僕はフィールドを後にした。
* * *
――第99ブロック。
『勝負ありぃぃ!! シンギ選手のぉぉ勝ぉぉ利ぃぃ! トップクランの地下ダンジョン攻略部隊は未だ健在! 激戦を制して、決勝ブロック進出決定ぇぇぇ!!』
「ふぃ~……。もう課金はしないと決めたわけだが、今のところはまだまだやれるな」
力を抜いて一息つくと、対戦相手がむくりを起き上がった。
「うぅ~……まさか姫様のお父上と同じブロックになってしまうとは。ついてない……」
小狐丸。この子の事は刀剣愛好家にいた頃からちょくちょく目に入っていた。
自分の主に絶対服従で、護るためならその努力も惜しまない。現にレベルは900を超えていて、刀剣愛好家に所属していた頃はマスターである天羽々斬の右腕のような存在だった。
そんな彼女が、まさか沙南を主に選ぶとはなぁ。
「ほら、立てるか?」
「あ、はい。恐れ入ります」
手を差し伸べると、彼女は俺の手を取ってゆっくりと立ち上がる。
沙南、お前は無意識なんだろうが、かなりおいしい奴を仲間にしたぜ。こいつはお前がゲームを辞めるか、このゲームがサービス終了するかのどちらかまで、お前の事を守ってくれるはずだ。
「沙南はマスターとしてどうだ? 不満があるなら俺の方から言ってやるぜ?」
「い、いえ! 姫様は素晴らしいお方です! 優しくて、みんなの気持ちを考えてくれて、従者である私とも一緒に遊んでくれて、それから、それからぁ……」
こうして実際に話してみると子供っぽさが垣間見える。けどそれがまた沙南と合っているのかもな。
「これからも沙南の事を頼んだぜ。キミなら『懐刀』としてぴったりだ」
そう言うと、彼女の目がキラキラと輝きだした。
「懐刀……。なんかこう、姫様を常に守っている感じがしていいですね! 私、これからは姫様の懐刀として頑張っていきます!」
そうかなり意気込んでいる。まぁ、あいつは守られるってガラじゃねぇけどな。
さぁて、人の事よりも今は自分の事だな。神化もまだまだ分からないことが多いし、決勝ブロックはどこまでやれることやら……
* * *
――第188ブロック。
『ついに……死闘を得てここに決着ーー!! 事実上の決勝戦! まさかまさかの予選ブロック! イベントでは毎回一位と二位を争う地下ダンジョン攻略部隊とフラムベルクのマスターが、ここに激突ぅ!! 勝者は~……フラムベルクのくぅ選手だ~!!』
場内が沸く。歓声が心地いい……
ついに私は、悲願である地下ダンジョン攻略部隊に勝ったんだわ。
「ふ……ふふふ。ほ~ほっほっほ! ついにやったわ! このゲーム最強と名高いハルシオン破れたり!! これからは我がクラン、フラムベルクが天下を取るのよ!!」
ついに首位交代の時が来たわ。
私が……私のクランが、これからのイベントを独走する!!
「ふぅ。天下を取る、か。くぅよ、それはさすがに気が早いと思うぞ」
ハルシオンが起き上がって、そんな戯言を吐き捨ててきた。
何を言っているのかしら。所詮は負け犬の遠吠えでしょう。
「気が早い? いいえ事実よ。私のクランではこの一週間で神化の検証をずっと続けてきた。そしてその結果、『狩人』が最強だという事に気付いたのよ。能力も、戦術も、私の狩人に勝てる者はいない。レベルが高く最強と言われるあなたに勝った事が何よりの証拠! 気が早いも何も、純然たる事実じゃない」
しかしハルシオンは、そんな私を鼻で笑い始めた。
「いやいや確かにあなたは強い。それは否定しないさ。気が早いと言ったのは、別に俺が最強なんかではないという意味だよ。俺よりも強いプレイヤーはまだ他にもいる。そんなクランを差し置いて天下を取ろうと言うのが気が早いと思っただけさ」
レベル1200を超えるあなたが最強ではない?
何を馬鹿なことを……
「ではあなたから見て、誰が最強だというのかしら? どのクランが天下に近いというの?」
「……ふっ。び~すとふぁんぐ!」
その名前を聞いた瞬間に、私はハッとした。
「び~すとふぁんぐに所属するゲームマスター、少なくとも彼女は俺よりも強いぞ? 現に前回のバトルロイヤルで俺は完敗したからな」
「まさか……けどそれは、運営としての権限を使ったとか……」
「いや、彼女は我々と同じ一般プレイヤーとしての能力しか使っていない。常人離れした身体能力こそ彼女の最大の強みだよ」
聞いたことがあるわ。ゲームマスターを倒すと激レアな称号が貰えるという噂があって、それを欲して彼女に戦いを挑む者は多いけれど、勝てた者は一人もいないという……
「そう。なら分かったわ。私がゲームマスターを倒してみせる。そうしてその時こそ、私のクランが天下を取るのよ!」
「まぁ落ち着け。もう一人、気になっている人物がいる」
まだ居るというの?
まぁついでだし、聞いておこうかしら。
「誰かしら?」
「そのゲームマスターをクランに引き入れた人物。び~すとふぁんぐのクランマスター。その名前を沙南と言う」
沙南……。前回のバトルロイヤルで個人成績一位だった人物。
バトルロイヤルの時は地下ダンジョン攻略部隊に大ダメージを与えてくれたおかげで、私のフラムベルクが一位になる事ができた。だから多少は感謝していたけども……
そういえば、私が気に入っているシルヴィアもび~すとふぁんぐにご執心だったわね。
あのクランに何があるというの?
「あなたのクランで神化の検証をしたと言っていたが、メンバーの中に『武闘家』はいるのか?」
ハルシオンが続けてそんなことを聞いてきた。
「いいえ。武闘家なんて使っているユーザーはもうほとんどいないでしょう?」
「沙南はその武闘家を使いこなしているらしいぞ?」
「っ!?」
「武闘家の検証もまだなのに、最強を名乗るというのは気が早いのではないか?」
くっ!?
武闘家? 沙南? び~すとふぁんぐ?
いいわよ。やってやろうじゃない!!
「私が全員倒してあげるわ! ゲームマスターも、その沙南とかいう武闘家も!」
そうして私はハルシオンに背中を向けてフィールドを後にする。
び~すとふぁんぐ。私が全部まとめて潰してあげるわ! そうして私のフラムベルクも、狩人も、最強だという事を証明する!
首を洗って待っている事ね!!
――こうして、次々と決勝ブロック進出の強者が出そろっていく。
* * *
――そして、第7ブロック。
『け、決着です……。アビス選手戦闘不能。び~すとふぁんぐの沙南選手、決勝ブロック進出決定~……』
解説のお姉さんが歯切れの悪い説明をしていた。
『不詳わたくし、解説役として皆様に謝らなくてはなりません。たった今、瞬きをした瞬間に試合が終わっていました。一体何が起きたのか、理解が追い付いておりません……』
あ、そういう事。それなら仕方ないかな。
とりあえず、もう退場していいんだよね?
「おい、ちょっと待て!」
フィールドを去ろうとした時に、アビスさんが倒れている状態のまま声をかけてきた。
「お前は一体何をした!? 俺はなんの攻撃を喰らった!?」
本気で何が起きたのかわからない様子で、そんな事を聞いてきた。
だから私は、人差し指を立ててこう答える。
「それを考えて次に活かすのも、ゲームの醍醐味なんじゃない? 私は地潜りをそうやって攻略したよ」
「……っ……」
するとアビスさんは、体を震わせて笑い始めた。
「クックック……いいぜぇ! そうでなくちゃ面白くねぇ! 沙南、てめぇは俺の獲物だ! 俺が倒すその時まで誰にも負けんじゃねぇぞ! ぜってーだからな!!」
そんな言葉を胸にしまい、私は今度こそフィールドを後にした。
「沙南、お疲れ様」
場内に入ると、いつものようにルリちゃんが出迎えてくれた。
「楽勝だったね。心配する必要なかった」
「ありがと。でも地潜りを使われたときはうまく対処できるか不安だったよ」
そんな会話をしていると、ふとルリちゃんが心配そうな声を出してきた。
「でも沙南、よかったの? あんなに早く『爪薙』を見せちゃって。あれって沙南の切り札でしょ?」
う~ん。確かに爪薙はすごく強力な技だけど……
「違うよ。ルリちゃん」
私ははっきりとそう言った。
「爪薙は別に切り札とかじゃない。むしろ、これくらい簡単に見切ってくれないと全力は出せないよ」
「お~……沙南カッコいい~!!」
ハッと我に返る。もしかして私、今ものすごく粋がったしゃべり方しちゃった?
「うわ~……今のなし! お願いだから忘れてぇ。恥ずかしい……」
「なんで!? 強者の貫禄みたいなのが出てたよ?」
「それが恥ずかしいんだよぉ~……」
「私も使いたい。『これくらい簡単に見切ってくれないと全力は出せないよ!』」
「いや~! やめてぇ~!!」
私はルリちゃんと、そんなふうにじゃれ合いながら時間を過ごす。強者が出揃うその時まで。
そして……
決勝ブロック、ついに開幕!




