「てめぇだけが神化できると思ったら大間違いなんだよ!」
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『決着ぅぅぅ!! 沙南選手の~、勝ぉぉ利ぃぃ!!』
ワアアアァァァ!
歓声に応えるように手を振りながら、私は闘技場を後にする。すでに五回戦が終わってしまい、次が最後の戦いだった。
これまで手こずった相手は誰もいない。神化するプレイヤーもいない。
まぁ、神化の情報が出回ってからまだ一週間しかたっていないので、そこまで浸透はしていないのが現状なのかな。
とはいえ、色々と練習してきただけに、なんだか物足りなかった。
「う~……神化バトルしたいよぉ……」
フィールドから場内へ入り、設置されているベンチに座って足をバタバタさせていると……
「沙南、お疲れ様。すごくカッコよかった!」
ルリちゃんがやってきて、私の隣にちょこんと座った。
「えへへ~、ありがとう」
「次の相手だけど、まず間違いなくアビスってプレイヤーが勝ち上がってくる。こいつは他のプレイヤーよりもレベルが高いし気を付けた方がいい」
おお!? やっと神化できそうなバトルになるのかな。ちょっとワクワク……
「その人って強いの?」
「……嬉しそうだね。かなり強いと思うよ。『カオスワールド』っていうクランのマスターをしているらしいんだけど、このクランはうちと似ていて少数精鋭なんだんって。だけど一番ヤバいのは、このクランのメンバーは全員態度が悪いって言われている事かな」
「態度悪いのはいただけないね。ゲームが楽しくなくなっちゃう」
「うん。口が悪いし、揉め事になると全部バトルで解決しようとするクランなんだって。不良の集まりみたいなクランだってシルヴィアが言ってた」
なるほど。私もあまり目を付けられたくないなぁ。
そんな時だった。
『決着ぅぅ!! アビス選手の~、勝ぉぉぉ利ぃぃぃ』
場内まで実況の声が響いてくる。
「決勝戦だ。それじゃあ行ってくるね」
「うん。沙南、頑張って!」
ルリちゃんに手を振って、私は元来た道を戻っていく。
『それでは決勝戦を始めたいと思います。両者入場してください!』
もはや、そう呼ばれる前にフィールドに飛び出して中央まで駆けていく。
そうして、私はアビスさんと対峙した。
「ほう。お前が沙南か……」
身軽そうな布装備の格好で、目つきの鋭いアビスさんがそう言った。そして腰に携えた短剣を抜き、両手で素早く構える。
この装備、盗賊……かな?
「私を知ってるの?」
「ったりめーだ。前回のイベントで個人成績一位になりゃ嫌でも覚える」
そういえば一位になったんだっけ。でもあれは、あくまでも余興としてのランキングだったから別に報酬があったわけじゃない。
あ~あ。テストの点数でも一位になれたらなぁ……
「お前、地下ダンジョン攻略部隊にケンカを売って壊滅させたんだってな。そっちの噂もかなり広まってるぜ?」
「え~!? ケンカを売ったなんて人聞きが悪いよぉ。ランキングの順位で勝負をするために作戦を決行しただけだし!」
「はっ! 同じことじゃねぇか。実は地下ダンジョン攻略部隊は俺も狙ってたんだ。毎回イベント一位の座について調子乗ってっからよぉ。うまいタイミングの時に鼻っ柱をへし折ってやろうと思ってた」
そうなんだ。やっぱりトップクランにもなるとあちこちから狙われるんだね。
「だが、俺らが手を出す前にお前らがフルボッコにしちまった。だから俺は、お前をターゲットに切り替えたのさ!」
「え~!? なんで~!?」
「お前が調子に乗ってっからだ!」
「乗ってませんけど~! 謙虚に生きてますけど~!」
「うるせぇ! さぁ俺と勝負だ!!」
「この人ただ単にケンカしたいだけだ~!」
『それでは第7ブロック六回戦。沙南選手 VS アビス選手。試合ぃぃ開始ぃぃ!!』
ゴングの音が鳴り響き、観客の応援もひときわ大きくなっていく。
「このイベントは復活アイテムである命の欠片が使用禁止になっていやがる。嫌でも一発限りの真剣勝負よ。だから確実に仕留められる戦法でいかせてもらうぜ! 調子に乗ってるお前を倒すためにな!!」
「もうそれ口癖なだけだよね!?」
【アビスがスキルを使用した。地潜り】
ストンと落下する勢いで、アビスさんが地面の中に落ちていく。
これ、バトルロイヤルの時に見たスキルだ!
地面の中を移動して、好きなタイミングで飛び出すことができるやつで、その地面の中にいる時は目で見ることができない。音も聞こえない。気配も感じない……
感知するアビリティを持っていないと、完全にどこにいるのかわからない状況になってしまうというユニークスキルだ。
「沙南先輩! 右! 右の方から来るのです!!」
チコちゃんが必死に教えようとする声が聞こえる。
けどここは、私なりの攻略法で迎え撃つよ!
ゴロンとね。
『おお~っと!? 沙南選手、あおむけに寝そべってしまいました~!! これは戦いを諦めたのでしょうか~!?』
「ぎゃ~!? 沙南先輩立つのです!! 諦めちゃダメなのです~!!」
解説のお姉さんもチコちゃんも、私が戦闘を放棄したように捉えてるっぽい……
けどもちろんそんな事はない。これは私が考えた対処法だ。
これはゲームであって、現実の動きとは異なるものだ。ゲームにはゲームの決められた性質がある。私はそれを考慮してこの方法を思いついた。
まず地潜りは、地面の中にいる時は攻撃ができない。地面からちょっと顔を出して、こっそり攻撃することもできない。
攻撃をするには、地面の中から完全に出てこないとダメなんだ。
そう。だから私は寝ることにした。こうしてあおむけに寝ていれば、どこから出てきてもその姿が見えるのだから。
「てめぇ……舐めてんのかぁ~!!」
さっそくアビスさんが、私の頭の上から這い出てきた。まるでトビウオが水面から飛び出してくる勢いで、スポーンと現れてきた。
そしてそのまま、手に持つ短刀を私の顔面目掛けて振り下ろしてくる。しかし、立っているアビスさんと寝転がっている私とでは距離があるため、その動きの一部始終を見ることができた。
……つまりは、見切るのは簡単だって事。
私は振り下ろした短剣をヒョイっと避けて、その腕をしっかりと掴んだ。
「なっ!?」
「つ~かま~えた~♪」
地潜りは、誰かに触れられていると発動できない!
「くっ……逃げられねぇのはてめぇも同じだ~!!」
あとはいつも通り、もう片方の手で攻撃してくるタイミングで体を動かせば……
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
相手をのけぞらせることができる。
「思いっきり行くよぉ!」
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
【沙南がスキルを使用した。コンボプラス】
【沙南がスキルを使用した。気功術】
足を開いて両手を引く。
【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】
そして引いた両手を思いきり突き出した!!
【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】
【沙南のアビリティが発動。先手必勝+1】
【沙南のアビリティが発動。カウンター+2】
【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】
【沙南のアビリティが発動。状態異常打撲付与】
【沙南のアビリティが発動。プレイヤーキラー】
【沙南のアビリティが発動。スキルブースト】
【沙南のアビリティが発動。アビリティブースト】
【沙南のアビリティが発動。無効貫通】
【アビスのアビリティが発動。オートガード】
【アビスのアビリティが発動。威力逃し】
【アビスに2億8570万0496のダメージ】
「ごはぁっ!!」
衝撃で吹き飛んだアビスさんが両足でブレーキをかける。なんとか跳ね飛ばされた勢いを止めたけれど、その場でガクリと膝をついた。
「く、くく、くくくく……」
そして笑い始めたかと思ったら、バチバチと体から電流がほとばしり始める。
「かぁぁぁみぃぃぃかぁぁぁ!!」
バリバリバリバリバリ!!
【アビスのアビリティが発動。紅化】
アビスさんの体が変化していく。髪は紅色に染まり、その瞳もルビーのような輝きを放つ。
パリパリと未だ電流が放電して、その表情は生き生きとしていた。
「てめぇだけが神化できると思ったら大間違いなんだよ! さぁ、これからが本当のバトルだぜぇ!」
そう言って、再び短刀を構えて腰を落とす。
「次はてめぇが戦闘不能になって神化する番だなぁおい!!」
そう言って物凄いスピードで向かってきた。
って、あれ? この人何を言ってるんだろう?
私はバックステップを踏んでヒョイを攻撃をかわして距離を開ける。
「なに避けてんだよぉ! まさか、ノーマルの状態で神化した俺に勝てるとでも思ってんじゃねぇだろうな?」
「いや、それなんだけど、もしかしてアビスさんって、本当の神化バトルの流れを知らない?」
「……は? 本当の……流れ?」
そう聞き返したアビスさんの表情は、困惑に満ちているのだった。




