「次のイベントはトーナメント形式だって」
そろそろネタがなくなってきたので、近いうちに完結となるかもしれません。
さて、どうしたものか……
「沙南。バトルロイヤルの報酬は何にするか決めた?」
ダンジョンの中を歩きながら、ルリちゃんが私にそう聞いてきた。
「うん。ちょっと悩んだんだけど、『スキルブースト』っていうアビリティにしたよ」
現在地下11階。
今日はルリちゃんと二人でダンジョンを攻略していた。
「スキルブーストって攻撃力を上げるアビリティだよね? 沙南はまだ攻撃力を上げ続ける気なの?」
「うん。私ね、バトルロイヤルでお父さんと戦った時、攻撃が通じなかった場面があったんだ。物理防御力特化にされると、私の攻撃力じゃまだまだなんだよ。だからもっともっと高めないと!」
「そうなんだ……。沙南の攻撃力でも足りないなんて事あるんだね」
ルリちゃんは体をプルプルと振るわせて怯えていた。
スキルブースト:スキルを使用して自分に掛けられたバフの数に応じて攻撃力が増加。三つで1.5倍。さらに一つ増えるごとに+0.5上昇する。
そんな会話をしていると、ボスの部屋にたどり着く。
「ところで沙南、来週に開催されるイベントは聞いた?」
「ううん。聞いてないよ。もうお知らせがきたの?」
「お知らせは来てないけど、シルヴィアや狐が予想してた。今までのパターンだと、次のイベントはトーナメント形式だって」
「トーナメント?」
門を通ると、その奥から巨大なドラゴンが現れる。
「そう。次のイベントは勝ち抜きトーナメント形式になるだろうってさ」
「へぇ~。って事は個人戦だね。今まではクランのみんなと協力してばかりだったから、ちょっと心細いよぉ……」
私が攻撃をすると、ドラゴンは一発で動かなくなる。
「……沙南は強いから心配する要素が何もない気がする……」
「え~そんな事ないよぉ~」
【沙南は新たな称号を手に入れた。グランドドラゴンを屠る者】
【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】
いつも通り、ボスを倒した後の称号とガチャチケットを手に入れる。
ここの階層のレア魔物も倒したし、今日の攻略はここまでかな。
「今日はもう帰ろっか。なんだかすんなり倒せたし」
「ん……神化できるようになった沙南なら、もう地下30階だって行けると思う。むしろ今の沙南にクリア出来ない階層があったらかなりヤバいよ?」
確かに、ゲームがインフレを起こしたら難易度がガラッと変わるんだよねぇ。
それもまた、いつのネットゲームも同じかもしれない。
「それじゃあ沙南、明日はどうするの?」
街へと転送されながら、ルリちゃんは予定を聞いてきた。
「それなんだけどさ、ほら、来週はテストがあるよね?」
「あ~、そうだね。沙南は勉強するの?」
「うん。だから今週はログインを控えようと思うんだ。入れたとしても、神化してからの練習かな? 使い慣れてないと困るし」
そう。これからのプレイヤーバトルは神化がメインになる。少しでも自分の戦い方を見つけておかないと、いざというときに遅れを取る事になる。
「そっか。それなら私もインを控える。沙南に出来るだけ勉強を教える」
「ほんとに!? それは助かるよぉ。ルリちゃん大好き!」
「!?」
テストの点数が下がったら、このゲームをしているせいだと思われてゲーム厳禁にされるかもしれないからね。お母さんにはちゃんと勉強もやってるってところを見せなくちゃ!
だから勉強ができるルリちゃんが教えてくれるのは凄く助かるよぉ~。
「わ、私、沙南のために頑張るから!!」
ルリちゃんがほっぺを赤くして意気込んでいる。
やる気満々だね! 頼もしいよぉ。
「えへへ。ありがと~」
嬉しくなった私は、つりルリちゃんに抱き着いて頬ずりをした。
するとボフンと頭から煙が上がり、カタカタと小刻みに震えながら動かなくなってしまった。
「わぁ!? ご、ごめん。ルリちゃん優しいから、つい甘えちゃった」
「はっ! 謝ることなんてない! もっと甘えてくれてもいい! 沙南は私が導くから!」
良かったぁ。迷惑だとは思われなかったみたい。
「あ、そうだ。ガチャを引いていこうかな。明日からはダンジョンにもいかないから、貯めておくこともないし」
そうして私たちはガチャ屋さんまで足を運んだ。
「へいらっしゃい!! 今日はどのガチャを引くんだい?」
いつも通り、ねじり鉢巻きのおじさんは元気がいい。
「沙南。ガチャのラインナップが更新されるみたい」
ルリちゃんがお店のお知らせを読みながらそう教えてくれた。
「へぇ。何が変わるんだろう? 今は引かない方がいいのかな?」
「……ん~、でも中身が更新されるのは来週。つまり次のイベントまでは変わらないから、今使ってもいいと思う」
そっか。このタイミングで更新のお知らせが出るってことは、いよいよ運営さんが神化専用のガチャを出してくるのかもしれない。
とりあえず、一回引いておこう。
「スキル、アビリティガチャで!」
「あいよっ! それじゃあ回してくれい!」
私はガチャのハンドルを握り、そのままルリちゃんの方を向いた。
「ルリちゃん。私ね、ガチャって運だと思うんだ」
「……? そりゃあ運なんじゃない? 出てくるものはランダムなんだから」
「そして、運は波があるものだと思うんだ」
「……? 波?」
「そう。運がいい時もあれば、逆に悪い時もある。運ってそうやって収束していくものなんだよ」
ルリちゃんが考えるように難しい顔になる。
「その波を読むことができれば、ガチャに活用できるんじゃないかなって思うんだ」
「……? 具体的にはどうするの?」
「まずは今日一日の運を振り返るんだよ。今日、私は学校で宿題のプリントを忘れて怒られた。これは運が悪い事だよね」
「……それは沙南の確認不足じゃ……いや、なんでもない……」
「授業中、先生がやたら私を指名してきた。これも運が悪い事だよ!」
「今日の日にちと沙南の出席番号が一緒だっただけじゃ……いや、なんでもない……」
「帰り道、石に躓いて転んじゃったりもしたよね!」
「足元を見てなかっただけじゃ……いや、なんでもない……」
ルリちゃんが何かを言いたそうだけど、この理論には自信があるよっ!
「今日は運が悪かった。つまり、これから確率は収束して良い方へと向かっていくところだと思うんだ。つまり、このタイミングでガチャを引けば良いものが当たる可能性が高いんだよ!」
「……そういうものなの……?」
そういうものなんだよっ!
「これからのガチャは、ただ漠然と引くんじゃない! 計算して引く時代なんだよ! さぁ、いざ勝負!!」
私は勢いよくハンドルを回す!
ガチャガチャ……コロン!
出てきたのは金色の玉だった。
「沙南、金だよ!? これは当たり?」
「えっと、当たりかな……? けど中身が被るかもしれないし……。開けてからだね」
そうして玉を突くと開封されて、能力が書き込まれる!
【沙南は新たなアビリティを習得した。マルチブースト】
マルチブースト:パーティーを組んだ人数に応じて攻撃力が増加する。三人で1.5倍。最大で3倍。
「どう? 沙南、これは当たり?」
ルリちゃんが緊張した面持ちで聞いてくる。
正直に言うと私は虹が欲しかった。デッドリーキャンセラーとかが欲しかった! というか、また攻撃力上昇系の能力なんだよね……
いや、いいんだよ? 私の育成方針は攻撃力特化だもん。さっきもルリちゃんと話したけど、まだまだ攻撃力が足りないって思う場面もあったさ。もっともっと上げるべきだと思うよ。けど……
私、ここのガチャを引き始めてからこんなんばっかりな気がする! 攻撃力上昇ばっかりで他の能力は入ってないのって思いたくなるくらいなんだけど……。
たまにはちょっと変わった能力も欲しかったりするよっ!
そりゃ武闘家ってそういう能力が多いっていうけどさ、『タイムストップ』とか、『アンチタイムストップ』とか、『デッドリーキャンセラー』とかあるよね? これは運命なの?
「沙南、どうしたの? これはハズレだった?」
私が考え込んでいるとルリちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。
だから……私は……!
「当たりだよ。まだ持っていない能力なら、それは間違いなく当たりだよ! やっぱりガチャは奥が深いよね。これからも色々と試していく必要がありそう」
そう言うしかなかったりする……
「お~! さすが沙南!」
目を輝かせて称賛してくれるルリちゃんを微笑ましく思いながら、私はその手を取って駆け出すのだった。




