「まだ他の……隠し要素ですか?」
「それじゃ沙南さんは、またお父さんと一緒に暮らせるようになったんですか!?」
そうナーユちゃんが聞いてきた。
【沙南の攻撃】
【GMナーユを倒した】
「うん! すぐには無理だけど、お父さんの都合がついたら帰ってきてくれるんだ~♪」
「そうなんですか。おめでとうございます。良かったじゃないですか」
「うん♪」
そう。お父さんがうちに来て、ちゃんとお母さんにごめんなさいをしてから話し合った結果、また家族で暮らせる事に決まった。
今すぐってわけじゃないけど、またみんなで一緒に暮らせるんだ。それが何よりうれしかった。
【沙南の攻撃】
【GMナーユを倒した】
「というか、ナーユちゃんごめんね。こんな何回も殴っちゃって……」
「いいんですよ。仕方のない事ですから」
私とナーユちゃんは、現在プラクティスバトルを繰り返していた。
このゲームに実装された、『神化』というシステム。これを使いこなすためにはこうしてバトルを繰り返さなくてはいけないから。
神獣の化身:絶技・獣神咆哮牙を習得し、使用回数を一定以上にする。さらにその状態で戦闘不能になると低確率で暴走状態に陥る。アビリティ、神獣化を取得する。
「今後、プレイヤーバトルは神化による戦闘がメインになります。絶技が使えるメンバーはできるだけ早く神化できるようになった方がいいでしょう」
そう言って、ナーユちゃんはすぐに私にプラクティスバトルを飛ばしてきた。
プラクティスバトルは戦績に記録されない練習試合。これなら戦績を下げずに神化を発動することができるはず。
……まぁ、プラクティスバトルで発動するのかはわからないんだけど。
【沙南の攻撃】
【GMナーユを倒した】
私は右手でナーユちゃんを攻撃しつつ、逆の手でコマンド画面を弄っていた。
「沙南さんは何を見ているんですか?」
「あ、うん。神化したときに修得した称号やアビリティの説明を読み返していたんだ。なんかちょっと気になることがあって……」
「気になるって、何がですか?」
【沙南の攻撃】
【GMナーユを倒した】
攻撃の手を休めないようにしながら、私は考え込んでいた。
「ううん。私が勝手に気になってるだけだから……」
「沙南さん前もそんな事を言って神化に一番乗りしたじゃないですか。沙南さんがゲームで気になる事は大抵的を得ているんですよ! 教えてください」
本当に確信がないから思い過ごしかもしれないんだけどなぁ。
でもナーユちゃんは真剣に話を聞きたがっていた。
「えっとね。私が神化したときの能力にね、『神化していない相手の能力を無視することができる』、みたいなのがあったんだ。でもこれって大変な事じゃない?」
すると、ナーユちゃんもまた考え始めた。
「確かにその能力はマズいですね。今まで強くなるために課金ガチャで能力を獲得してきた人にしたら、その能力が全部使い物にならなくなる訳ですから……」
「うん。これからは神化してのバトルがメインになるんだとしたら、通常時の能力じゃやっていけないと思う。それだけ神化してからのアビリティが強すぎるんだよ。私の特技に『獣神滅砕牙』っていう技が追加されたんだけどね、これがまた強力なんだ。なんてったって相手のステートを奪っちゃうんだからね」
「えっと……ステート?」
ナーユちゃんが首を傾げていた。
そっか。ステートなんて言葉、格闘ゲームをやってたって聞き慣れない言葉だよね。
「簡単に言うとね、相手の動きを完全に止めちゃうんだ。効果は『タイムストップ』とほぼ変わらないと思う」
「え!? それって強すぎませんか!?」
「強いよ。相手は動けないから、『デッドリーキャンセラー』も、盾士の『完全無敵』も使えないと思う」
するとナーユちゃんは慌て始めた。
「そ、そんな! 勇者様……このゲームの開発者はみんなが楽しめるようにとバランスにはかなり気を使っていました! いきなりそんな課金者を切り捨てるようなバランス崩壊システムを組み込むなんて思えません!」
そう。問題はそこなんだよね……
「うん。私もそう思う。運営さんならそんな事は言われなくても分かると思うんだ。だから、まだ何か他にも隠している要素があるんじゃないかな?」
「まだ他の……隠し要素ですか?」
「そう。一気にバトルの質が向上する神化システム。だけど、これまでの能力も決して無駄にならないような、そんな戦闘要素が……」
それに、気になっているのはそれだけじゃないんだ。もう一つ気になる事があって、むしろそれこそが確信がないけど重大な要素に絡んでくるんじゃないかと疑っている。
あの神化したときに得た称号の説明欄。あれは……
【沙南の攻撃】
バチ……バチバチ……
突然ナーユちゃんの体に電流がほとばしり始めた。
「あ、これって!!」
バチ……バチバチバチバチバチバチバチバチ!!
光に包まれて、ナーユちゃんの体がフワリと浮かび上がる。
そして――
【GMナーユは新たな称号を手に入れた。紅の化身】
【GMナーユのアビリティが発動。紅化】
電流と光が治まって、地面に足をつけたナーユちゃんは見事に変身していた。
髪は紅色に染まり、瞳の色さえ綺麗な深紅だった。
肌には薄く文様が浮かび上がり、いかにも威厳のある雰囲気を醸し出している。
「こ、これが神化……」
ナーユちゃんは困惑しながらも、自分で自分の体を見下ろすように観察していた。
するとその時――
――バチ……バチバチ……
「え……? ちょ、沙南さん!? 体が!」
「へ?」
バチ……バチバチバチバチバチバチバチバチ!!
なんと私の体も電流がほとばしり始めた。
「沙南さん!? 大丈夫なんですか!?」
ナーユちゃんが心配そうに声を荒げる。
「う、うん。なんともないよ。けどこれって一体……」
次第に電流も治まりかけて……そして――
【沙南は新たな称号を手に入れた。神獣の覚醒】
シャキーン! という効果音と共に、そんなログが書き込まれるのだった。




