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ゲーマー幼女 ~訳あって攻撃力に全振りする~  作者:
第二回イベント『バトルロイヤル』編
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「ば、ばかな!? 二つの技を組み合わせただと!?」

【GMナーユに102万6520のダメージ】

【ハルシオンに1万5000のダメージ】


 相打ち……かぁ。いくら不規則でランダムな動きだとはいえ、長い間見せ続けたせいで反撃の糸口を与えてしまったんだわ。

 長い間といっても、実際には2、3秒くらいだけど……

 やっぱりこの人には同じ技は通用しない。もっとシビアに攻めなくちゃ!


【GMナーユの命の欠片が砕け散った】

【ハルシオンの命の欠片が砕け散った】


 立ち上がる。

 同時に立ち上がって武器を構える。


【GMナーユがアイテムを使用した。回復薬】

【ハルシオンがアイテムを使用した。回復薬】


 回復薬の回復量は最大HPの50%。

 命の欠片でHPが1だけ残った状態で50%回復したから、私がソニックムーブを使えるのはあと五回だけ。この五回の間に、なんとしても決着を付ける!


「くくく。さすがはゲームマスター。大したものだよ。だがもう俺に通じる技が残っているかな?」


 そう、不意にハルシオンさんが笑い出した。


「何を言っているんですか? むしろ本番はここからですよ?」

「な、なんだと!? まだ技のレパートリーが残っているというのか!?」


 どうやら彼は、未だ私の底が見えていないらしい。

 私の技を嫌と言うほど見せると言ったはずなんだけど……


「ハルシオンさん、最初に言いましたよね? 私を倒すと称号が貰えるかもしれないって」

「あ、あぁそうだ。俺はその噂の真偽を確かめたい!」

「その噂が本当かどうか、私にはわかりません。けど――」


 武器を構えたまま、私は力強く言い放った。


「――仮に本当だとしても、簡単に得られる称号だとは思わないで下さい!!」


 疲弊していないと言えば嘘になる。だけど、こんな所で動けなくなるほど私の覚悟は軽くない!

 呼吸を浅くして息を整える。

 意識を集中させ、霞む視界をはっきりさせる。

 ふら付く足に力を込めて、無理やりにでもいう事をきかせる。

 私は……まだまだ戦える! 絶対に負けたりしない!!


「ソニックムーブ改、『残視』+『舞龍』……『残龍演舞!!』」


 力を込めて再び地面を蹴る!

 残像を残したまま、左右に揺さぶる渾身の足捌き!


「ば、ばかな!? 二つの技を組み合わせただと!?」


 困惑しながらも闇雲に武器を振るう彼の剣を見切り、私は両の刃を喰い込ませる!


【ハルシオンに1万5000のダメージ】

【ハルシオンに1万5000のダメージ】


 彼のHPはおおよそ20万。復活して50%回復したのならHPは10万という事になる。

 つまり、残りHPはあと7万。

 ブレーキをかける事もなく、私はそのままもう一度ソニックムーブを使用した。僅かな『一秒』。だけど果てしなく大きな『一秒』。


「ソニックムーブ改、『残視』+『飛燕』……『燕翔幻舞えんしょうげぶ!!』」


 地上から跳び上がり、壁を蹴り急降下を謀る。


「くっ! なめるなぁ!!」


 私が突撃するタイミングを見計らい、彼が剣をフルスイングをした。


【ハルシオンが特技を使用した。爆炎破斬】


 だが私は、その剣の真下を通過する。私の軌道を正確に捉えきれていないからだ。

 上から来る時、正確にその着地点が予測できなければ攻撃を当てることは難しい。ましてやこのスピードで、且つ急降下の直前に残像まで残せば大抵は捉えることなんて不可能だ。

 彼の一歩手前に着地した私は体勢を低く保ちながら一気に彼の横を通過する!


【ハルシオンに1万5000のダメージ】

【ハルシオンに1万5000のダメージ】


 これでHPはあと4万。三回攻撃を当てれば私の勝ちだ。

 ソニックムーブを使える回数も残り三回。なんとしても当てる!


「ソニックムーブ改、『残視』+『御雷』……『雷光朧月らいこうおぼろづき』」


 残像を残しつつ彼の周囲を回り続ける。

 彼は動かない。剣を目の前に構えたまま、ジッと様子を伺っている。

 私は自分の踏み込めるタイミングで攻撃を仕掛けた。

 ザシュッと、両手には確かな感触が伝わる。


【ハルシオンに1万5000のダメージ】

【ハルシオンに1万5000のダメージ】


 あと一発。あと一発で決着が付く。ソニックムーブを追加で使用して、このままの勢いで押し切ろう!

 もう一度、残像を残しながら周囲を駆け巡る。そして足を地面に踏みしめて、最後の一撃を振りかぶった。


「見切った!」


 ――ギイィィン!


 私の攻撃は彼の剣に阻まれてしまった。

 もうこの動きに対応してきた!?

 あえてジッと立ち尽くし、私の攻撃を受ける事で僅かなリズムを感じ取ったのかもしれない。やっぱりこの人はセンスが飛び抜けて良い。天才的だといっても過言じゃない。


「そこか!」


【ハルシオンは大技を使用した。秘技、真空破斬】


 スッと私の目の前に真空の刃が飛び交った。だけど私は空中に逃げる事で攻撃をやり過ごす。

 攻撃を見て判断したんじゃない。彼が武器を構えた瞬間に先読みをしただけだ。

 私の体に染みついた戦闘の勘が警鐘を鳴らしていた。だから空中にこの身を移動させたんだ。


【GMナーユがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】


 ラスト一回を使う。一か八か、この空中で勝負に出る!


「……+『飛燕!!』」


 さらに技を掛け合わせる。そうでもしないとこの人には勝てないから。

 もはや今の私にとっては全てが足場だ。

 廃ビルの壁を蹴り、地面を蹴り、鉄柱を蹴り、大木を蹴り、瓦礫を蹴る。

 まさに空から落雷する稲妻の如く、空中から地面まで落ちてはまた駆け上がる。上も下も、重力も慣性もなく動き続けた。


「……これは、また動きが進化しただと!?」


 まだ未完成だとか、そんな甘い事は言ってられなかった。

 この場で完成させ、進化させなくては勝てないと感じた。

 限界なら、その限界を超えるしかなかった。

 極限なら、その極限を突き抜けるしかなかった。

 今、そびえ立つ大木に足を付け、一気に彼に向かって突撃するために力を込める!

 まだスピードが足りないかもしれない。はっきりとそう思う。けどそんな思考は抑え込む。

 恐怖だってあるけれど、そんなものは自力で麻痺させる。

 頭のネジなんてものは、二、三本外すくらいで丁度いい!

 だから……私は……。

 体を回しながら、全力で突撃をした!

 もっと速く!  もっと鋭く! この刃を届かせるために!

 そのためには回転をして推進力を得ようと思った。理屈も根拠も何もない。本能がそうさせた。

 弾丸よりも速く、そう、一筋の光のように、突き刺さるような閃光になれ!!


「いっけええええええ!!」

「そこだああああああ!!」


 彼も私に向けて剣を振るう。

 大丈夫、もはや恐怖心は遥か後ろに置いてきた。

 そして私と彼はすぐ近くを交差した。


 ――ズサアアァ……


 地面を滑るようにブレーキをかけて、私はようやく動きを止める。その右手は振り抜いて、彼もまた武器を振り抜いたまま硬直していた。

 少しの間、静かな時間が流れていく。

 だが、まず体勢が崩れたのは私だった。


「あ……くっ……」


 両膝を付き、体を支えるために両手を付く。

 顔もあげられないほどの息苦しさを感じていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 もはや限界だったんだ。ゲームの体は疲れを感じない。だけどリアルの脳は常に動いてる。当然、ここで無茶をすればその疲れはダイレクトに脳へと伝わる。

 私は無茶な動きを続け過ぎたんだ。

 そう、決してダメージを受けた苦しさじゃない。なぜなら――


【ハルシオンに1万5000のダメージ】


 ――そうログには記されていたのだから。


「が……あ……ごふっ!」


 ついにハルシオンさんがよろめいて、うつ伏せに倒れ込んだ。

 私はまだ四つん這いの状態で、ログを見続ける。

 お願いだから、これで終わって!

 そう心で呟きながら、ログを見続ける。


【ハルシオンを倒した】


 やっとだ。やっとそう表示されて、私はゴロンと仰向けになって倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……ふぅ」


 疲れがドッとあらわれて、目の前がチラチラと見えなくなるほどだった。


「ふ、ふふふ。見事だったぞ。ゲームマスターよ」


 そうハルシオンさんの声が聞こえた。

 霞む目で見ると、光になって消えていきながらも、満足そうな顔をしていた。


「ここまで限界ギリギリで熱くなったのは久しぶりだ。楽しかったぞ」


 それだけを言い残して、彼は完全に光となった。

 私は震える手を伸ばしてクランチャットを開いた。


瑞穂:みんなに報告! なんとモフモフ日和が協力してくれることになったわ! 一緒に地下ダンと戦ってくれるって!!


シルヴィア:本当ですか!? 実はこっちからも朗報です。以前に共闘関係を結んでいたフラムベルクがやっと動いてくれる事になりました! 地下ダン殲滅に協力してくれます!


沙南:今、お父さんと決着が付いた。私、勝ったよっ!!


 そしてメンバーからのお祝いのメッセージがいくつも続いていた。

 そう。沙南さん勝ったんだ。良かった……


GMナーユ:こちらも地下ダンのクランマスターと決着が付きました。なんとか勝てましたよ。


 それだけを送信して、私は大の字になった。

 もう本当に、ピクリとも動けない状態だった。

 視界はチラチラと砂嵐のように見えにくく、体が重くて地面に貼り付けにされているような感じだ。


「このままじゃ私、誰かに倒されちゃうかも……」


 派手に戦ったせいで、誰かがここへ来てもおかしくない。正直、もう立ち上がることすらできないのだから。


「おい、誰かが倒れてる! び~すとふぁんぐって表記されてるぞ!」

「マジか!? すぐに回復魔法をかけろ!」


 少し遠くに、そんな声が聞こえてきた。

 仲間……かしら? もしかしたら、チャットに書いてあった共闘してくれているクランかもしれない。


「おい、しっかりしろ。もう大丈夫だからな!」


 どうやら、なんとか助かったみたい。

 だけど、もう目を開けている事も辛くて、安心しきった私はそっと目を閉じて休むのだった。

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