「もう次は喰らわん!」
【GMナーユがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】
全力で地面を蹴る。戦闘機が加速するその上をさらに走る感覚で、ぐんとスピードを乗せていく。
音速の壁を突き抜けて、私は両手の短剣を振るった!
――キイィィン!
金属音が一つ響く。どうやら左手の攻撃を防がれてしまったらしい。
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
「ぐぅ……だが、わかったぞ。もう次は喰らわん!」
ニヤリと嬉しそうに笑う彼を流石だと思った。
一度見せた動きに即座に対応してくるあたり、やはりトップクランのマスターだと言える。
……でも、そんな事を含めて私は逃げずにここへ残ったんだよ。必ずこの人を越えてみせる!
「流石ですね。ですが、次もうまく防げるでしょうか」
「くくっ、やってみればいい」
では遠慮なく。
私はいつものように、両方の短剣を目の前で構えて腰を落とす。
「ソニックムーブ改・残視!」
そして全力で地を蹴る!
目に映る一瞬の彼は動かない。それどころか私の動きすら捉えきれていない。
斬っ! と横を通過する際に連撃を入れて初めて彼は反応を示した。
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
「がはっ!? な、何ぃ!? バカな!?」
恐らく彼には私の姿は止まって見えていたと思う。それもそのはず。『残視』は私の残像を見せる技だから。
構えた格好と出来るだけ同じ状態で動く事により、その場に残像を残す。これによって私の姿を一瞬でも見誤れば、繰り出す斬撃には反応できない!
「ぬぅ、今のは残像……か? もう覚えたぞ。もう次は喰らわん!」
だろうね。あなたは簡単に倒せるほど甘くない。そんな事はわかってる。
だから、出し惜しみ無しで行くよ!
「ソニックムーブ改・飛燕!」
ギュンと跳び上がると、彼の頭を飛び越えて後方の壁に足を付ける。そのまま一気に背中目がけて急降下を開始した。
その動きは高い所から狙撃する弾丸の如し!
地面に突き刺さる勢いで刃を振るう!
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
「ちぃっ! また別の動きだとぉ!?」
空中からの奇襲に彼は困惑している。だけどこれで驚くのはまだまだ早いよ。
瞬時に次の技に切り替える!
「ソニックムーブ改・舞龍」
音速を越えたスピードで左右に動きながら迫っていく。
その動きはまるで、ドラゴンが体をうねらせながら突っ込んでいくように見えるはず!
「ぐっ!? 右か、左か!?」
左右のどちらを通過するか、それを惑わすのがこの技の目論見だ。
相手は見極めて防御をするか、回避をするか、はたまた思い切って攻撃を仕掛けるかの選択を強いられる。だけどその判断が遅れた時点でもうすでに手遅れとなる。
判断が遅れると言う事は体が動かないと言う事。迷いを生み出すのもこの技の狙いなのだから。
だけどそんなのんびりと考える暇なんて与えない。私のスピードについてこれなければ容赦なく切り刻むだけだよ!
斬っ! と私の刃は確実にヒットしていく。
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
ハルシオンさんのHPは約20万。あとどれだけ当てればHPを0にできる?
いや、考えるのは止めて、全ては自分の繰り出す動きに集中する!
「ソニックムーブ改・御雷!」
地を蹴り直進した瞬間に、90度直角に方向を変える。そしてまた急激な方向へと向きを変える。その動きは地面に落ちるまで不規則な軌道を描く稲妻の如し!
前後左右どこから突き刺さるかわからない、電光石火の一撃をイメージして作り上げた。
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
私の攻撃が確実に彼のHPを奪っていく。
だけど、正直に言うとこの技はまだ未完成だ。あまりのスピードに私自身が制御できていない。
不規則に動く稲妻を連想させる技だけど、簡単に言えばランダムで動き続けているだけ。当然、私が考えて動いている訳じゃない。
というか、このスピードを維持しながら考える余裕なんて全く無い。とにかく止まらずに動き続けるだけなんだ。
視界に一瞬、彼の姿が映り込んだ。私は反射的に武器を振るう!
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
適当に動き続けて、その際にこの刃が届く範囲まで接近したら腕を振るう。それが未完成でもある『御雷』の現状だ。
だけどそれ故に動きは読まれにくい。なぜなら私の意思とは関係無くランダムに動き続けているから。
【ハルシオンに1万5000のダメージ】
また一発当てた! いける! このまま押し切れる!
あと一秒、ソニックムーブを追加で使用する。ランダムに動き続けて、壁にぶつかりそうになりながらも、堪えて、堪えて、堪えて、チャンスを待って……
目の端に彼が映った時、私は反射的に短剣を振りかざした。
「そこかぁーー!!」
予想外にも、ハルシオンさんが私に向かって剣を正確に振るってきた。
止まる事はできない。私は突き抜けるように突撃をして刃を振り抜いた!
斬っ! と鈍い音が耳に残り、私は衝動的に足を止めた。
――ガクリ。
体が揺れて、私は地面に倒れ込んでしまった。
けれど、彼もまた同じように倒れ込むのを、私は目の端に捉えるのだった。




