1/6
ep.1 ある少女の望み
少女ーーー少女は一人、何の目的もなくただ街を歩いていた。
今日は一年に一度訪れる“父の日”。
普段あまり口にすることの出来ない感謝の思いを、父に伝える大切な日だ。
街中で周りを見回せば、父親と手を繋ぎながら楽しげに買い物をする親子の姿が、少女の目に頻繁に映り込んで来る。
「ーーー父親、か」
親子の姿を哀しげな目で見つめながら少女は呟く。
少女は父を幼い頃に病気で亡くし、母と2人助け合いながら生きてきた。
幼い頃のおぼろげな記憶は、父の顔すらはっきりとは写さない。
「…会いたいな」
叶うはずもないその願いは、誰にも聞かれることなく夕暮れの空に消えて行くのだったーーー。




