ブラキオサウルスとプテラノドン
「俺が見たのは……『ブラキオザウルス』だよ」
リッキーはカタカタと震えながら語り出した。
「ブラキオサウルス……首の長いキリンのような恐竜だね?」
「そうだよ……よく知ってるな? ブラキオサウルスがよ。『アンコー像』を喰おうとしてたんだ」
「アンコー像を?」
アンコー像はこの街の山の頂上に高い柱のてっぺんにつけられたモニュメントである。
「夜になると提灯が光る……あのアンコー像かい?」
「そうだよ。そのアンコー像だよ。ブラキオサウルスがアンコー像を喰おうとしたんだがよ。あと少しで届かずに諦めて消えていったがな……」
「ええと……見間違いではなく?」
僕がそう言うとリッキーは不機嫌になった。
「お前まで! そう言うのか!? 見間違いじゃない! あれは間違いなく『ブラキオサウルスそのもの』だったんだ! 本で確かめたんだぜ!?」
僕はリッキーの肩に肉きゅうを置いた。
「オーケー悪かった。君を疑ったわけじゃない。あくまで確認だよ。キリンや機械ではなく『ブラキオサウルスそのもの』だったんだね?」
「……そうだよ。恐ろしかったね。ブラキオサウルスがうなり声をあげながらアンコー像に首をのばしていたんだ……」
リッキーはガタガタと震えてもう話せそうになかった。
「……その話を聞いたときは俺も嘘だと思ったよ。だけどな」
震えるリッキーに代わり今度はトーマスが語り出した。
「次の日……俺も見たんだ。恐竜を……」
「ブラキオサウルスを?」
「違う……プテラノドンだよ」
「プテラノドン!?」
ブラキオサウルスにプテラノドン……これはまさに、ファンタジーだ。
「念のために確認させてくれ。それは鳥ではなかった?」
「違うな。鳥じゃない。『プテラノドンそのもの』だよ。俺も確認したよ。プテラノドンがアンコー像の光る提灯の周りをギュンギュン飛んでた……あの光は恐竜を呼び寄せるのかな……?」
『そんな馬鹿な』と思ったが黙っておいた。
しかしブラキオサウルスにプテラノドンか……
僕が肉きゅうを口元に置くとマスターがため息をついて口を開いた。
「くだらない。お二匹とも酔ってらしたのですよ。今夜もそれぐらいになさったらどうです?」
「「!?」」
二匹がマスターをジロリと睨みつけた。
「うっ……まあまあ。不思議な話といえば……私もこんなことがありまして……」
たじろんだマスターは話を変えた。
「不思議な話ですか?」
「そうです。そうです。恐竜の話に比べたらずいぶん地味な話なんですがね?」
「是非聞かしてください」
マスターはグラスを棚に戻し、手を拭きながら語った。
「この間、人間のお祭りがあったでしょ? アンコー・ストリートで」
「あったね」
「これはお祭りの日、私がお酒を仕入れに裏路地を歩いていた時の話なんですが……」
マスターの話は不思議だが、実に地味な話だった。




