華麗なるブラインドタッチ
「私の主人の『西岡』の本屋は……まぁなんと言いますか、泣かず飛ばずのなんとか閉店は免れている……といった感じなのですが……」
なるほど。つまりは経営が困難なわけだな?
「続けてください」
「はい。それでですね? 西岡は高齢で……訪れてくる人もほとんどおらず、店の奥の和室で本を読み、時たま唯一の友人の『柳沢』と囲碁をうつだけの毎日を送っておりまして……」
「ほうほう」
本を読み、時たま囲碁をうつのだけが楽しみな孤独な老人か……なんだかせつニャイな。
「そんなただでさえ元気のない西岡が最近ますます元気がないのです」
「はぁ。それはなぜ?」
「おそらく……万引きのせいかと……」
「万引き?」
「はい。ある日、西岡と柳沢が囲碁をうっていたら……突然大きな音がして……」
『君たち! なにをしている!?』
『やっべ! ジジィきたよ!』
『テツヤがでかい音たてるから!』
『うるせえよ! だってシューヤが……』
『バカお前ら! 早く本もってずらかるぞ!』
『こら! 本を……本をもっていくな!』
「……ということなんです。それ以来西岡は呪文のように『ホンヲトラレタ。ホンヲトラレタ……』と和室で呟いているのです」
「ふむ」
彼女は実に記憶力のよい猫である。
あとで彼女が聞いた人語のやりとりをニャームズに訳してもらおう。
『ホンヲトラレタ』は『本がない』という意味だろうか? 私もニャームズと付き合うようになってからずいぶん賢くなったものである。
「それではとりあえず書類を作ってしまいますね?」
「はい」
肉きゅうの見せどころである。
私はニャーソナル・コンピューターの前に立ち、ニャーボードをブラインドタッチで叩いた。
カタカタカタカタ……
さぁ見てくれ! この華麗なブラインドタッチを!
「ふっ!」
ツッ! ターーン!
私はエンターキーを力強く叩いてドニャ顔でナタリーを見た。
「……」
引いてた。




