ロング・タイム・グッニャイ
彼とのお別れを書く時がきたようだ。
私は今でもこの日のことを思い出すと肉きゅうに涙がポタポタ落ちてきてしまう。
ニャームズの異変に気がついたのは彼と散歩しているときだった。
随分歩くのが遅くなった。
杖をつかってゆっくり歩く。
私はこれも彼のダンディズムからくる行動なのだろうと放っておいた。
この時、病院にでもつれていけばと悔やまれる。
『おやおや、いくら何でもおかしい』
……と思ったのは彼が『四つ脚』で歩き始めた時だ。
彼は二本足で歩くことを好んだ。
「いったいどうしたんだ?ニャームズ?」
「どうだっていいじゃないか。そんなことよりニャトソン。彼はどうしているだろうね?『生命と廃棄物の間』事件の時に保健所から逃げ出したボブだ。彼は賢い犬だから間違いを起こしてはいないだろうが……」
彼は私が健康面について尋ねると巧みに話しをすり替えた。
「きっとどこかで生きてるさ」
「生きてるならいい。生きてるのが一番さ」
彼はそう言って口を閉じた。
そしてその日以来彼が外出をする事はなくなった。
「町はどうだ?ニャトソン?」
ニャームズは自宅とこの丘の上の広場を猫用電動車椅子で往復する毎日をおくっていた。
この日もニャームズは丘の上のハンモックに揺られて気持ちよさそうにまどろんでいた。
私は彼が心配になり、毎日通ったが一時間も話をするとニャームズは無言になり、スヤスヤ寝てしまうのだ。
どうやら1日のほとんどを寝て過ごしているらしい。
この日は比較的意識がハッキリしているように思えた。
私はニャンダイチの活躍とコッコの成長、今日も鰹が丘は平和だと語った。
「もう大丈夫だね」
「何が?」
「この町がさ。ニャンダイチとコッコに伝えてくれ、君たちさえよければ僕亡き後好きにニャームズの名前を語るといいと」
「え……縁起でもない事言うな。まるでもうそろそろ死んでしまうかのように……」
「いつかの話だ。遠い未来の……」
「……」
ニャームズはそう言うと寝てしまったので私ははだけた毛布をかけ直してやった。
「おい。顔色が悪いぞ」
「う……む」
ニャームズは突然
(みんなを集めてバーベキューパーティーでもしよう)
と言い出した。
この日は庭にたくさんの猫や動物たちが集まった。
事件で関わった猫、飛び入りで参加した猫…もう大騒ぎだ。
「日本晴れというのだこういう日を」
「うん。確かに今日はいい天気だ」
なにかよいことが起きそうな……気持ちの良い晴れの日だった。
「太陽に酔ったかな?僕は丘の上で少し休む」
「そうか……なんだよ?」
ニャームズは私をジッと見つめて……そのあと庭に集まったみんなに目線を移した。
思えば彼はこの時、全てを目に焼き付けていたのだと思える。
「本当に日本晴れだ」
彼はそう呟いて電動車椅子で丘の上に登っていった。
夕暮れ時、そろそろ外で寝るには寒かろうと私は丘の上に向かった。
「全く……風邪をひくぞ」
ニャームズはハンモックに仰向けになって寝ていた。
寝てるときまで姿勢のいい奴だと思った。
「ニャームズ。そろそろ家に戻れ。おい。……ニャームズ?」
彼の体がひどく冷たい。
「……!?」
息をしていない。
「死んで……る?」
ニャームズらしい最期だった。
ニャームズの墓は丘の上に建てられた。
数え切れないほどの動物が連日集まってテレビでもニュースになった。
世界中から人間たちも集まってニャームズの墓に手を合わせた。
私は彼の親友として集まってくれた一匹一匹、一人一人に感謝の一礼をした。
私のこの姿もニュースになったらしい。
この日最後の来訪者は黒人の男だった。
「君の犠牲は無駄にしない。モリニャーティーは僕が倒す」
「……!?」
驚いたことに彼は猫語でそう言ったのだった。
そして私の方を向きこういった。
「君がニャトソンだね?僕の名前は……『ダン』」
ダン……?どこかで、どこかで聞いた名前だった。
アメリカ……
私は『フィリップ・ニャーロウ』ニャー探偵をしている。
「……」
この夜、困った客がやってきた。
痩せた犬なのだが部屋に入ってから一言も話しやしない。
「……ニャームズさんが」
「ニャームズ?」
ニャーロック・ニャームズ……ドーサツ、探偵なら知らぬものいぬ名前だ。
「ニャームズさんがどうしました?まずあなたの名前をお聞きしたいものです」
痩せた犬は呟いた。
「……ボブ」
やれやれ。
今夜はもう飲みに行こうと思っていたのに……どうやらギムレットにはまだ早すぎるようだ。
カクヨムでも本作連載始めます。
カクヨムに投稿→なろう。の順番になると思います。
全く同じでなく、少し違ったものにしたいと思っています。
物語は第2部へ?
グッニャイ。




