北方ワンぞうはイタズラ好きの少年
「このニャーロック・ニャームズのニャー冒険はニャトソン先生自身をモデルとしており、私からみた彼は物語の中の彼より遥かに明晰で勇敢で……」
「やめてください! ああ! 恥ずかしい! ニャームズは実在するんです! 駄目だ! 緊張と恥ずかしさで死ぬぅ!」
「……と、このようにニャームズ先生はとても謙虚でもあり……」
「話を聞いてくだ!……あっ、力を入れすぎてオナラがでちゃった! すいません!」
……私の晴れ舞台は終始こんな感じだった。
ワンぞう氏が私をべた褒めし、テンパりにテンパった私がおかしな言動をとり、会場が大爆笑。
早く終わらせようと私がマイクの前に立ち、「とにかくありがとうございました!」とお辞儀をしたらマイクに狭い額をぶつけ、また爆笑……
この日の出来事がいい思い出に変わるのは大分時間がかかった。
「やあ」
「やあ……じゃないよ。なんで出てきてくれなかったんだ?」
一段落した私をニャームズが海岸に呼び出した。
「僕はああいうのは苦手だ」
「私だってそうだ……ん?」
あ……れ? ここで私の脳がスパークした。
ニャームズはあの日……『北方ワンぞう氏は僕も面識があった。いたずら好きで茶目っ気のある愛すべき犬だった』と私に言ったのだ。
ワンぞう氏が彼と面識があるなら私をニャームズだとは思わないはずだ。
これはおかしい。
私はそれをニャームズに尋ねた。
「ああ……それはね……つまり」
20××年。
「さあ! こい! チュンこいっ!」
少年(子猫)がスズメ採りの罠をしかけ、まさにスズメがカゴに入る瞬間……少年は紐を引く……ところをオスネコに止められた。
「なんだよ!」
「またイタズラかい? そんなことより本でも読めと言っただろう?」
少年の親が経営する小さな宿『民宿ニャーオータニ』に長期宿泊しているオスだ。
「本なんてつまらないよ」
「そんなことはない。人生(猫)で経験できることは限られている。本はその足りない経験を補ってくれる。損はない。僕のオススメを貸そうか?」
「えー……わかったよ。そのかわりまた新しい遊び教えてよ?」
「いいとも」
少年は彼を慕っていた。
彼にいろいろ教わり読書にもハマった。
いずれ作家になりたいと夢見た。
……そして彼が宿を去る時はニャンニャンと泣いた。
「お別れだ。ワンぞう君。いつか君が立派な大人になったらまたここで会おう」
「俺は作家になる! このニューオータニだって三つ星ホテルにしてやる! 先生さよなら! またあおうね!」
彼の名前は覚えていない。
ニャー……
にゃーむ……?
「……イタズラ好きな少年だったって事さ。僕はワンぞう君との約束を守れて嬉しい」
ニャームズはそう言って焦がしタマネギを口にくわえて香りを楽しんだ。
……私にはにゃんのことだかわからない。
2015年『このミステリーがネコイ!』書き下ろし。
『まだらの紐』
完。




