もう飲みにはいけない
「僕の調べた結果だが……笹絵の今まで付き合ってきた男は医者の卵に若手俳優にプロ野球の二軍選手……共通点は『自分に合うアクセサリー』になる可能性のある男だね……聞いているのか?ニャトソン?」
「……」
それどころではない。
ロープの上を綱渡りし、ロープの反動で回転ジャンプする鱒男。
コーナーポスト最上段からムーンサルトで回転して場外に飛ぶ穴子……ふむふむ……これは本当にサーカスのようだな。
目が離せない。
「……まあいい。笹絵にとって男とは『アクセサリー』だったのさ。できるだけ高級で見栄えのいいものを身につけて周りに見せびらかしたかった……出世してアクセサリーとして値上がりする可能性がなくなったらポイだ」
ニャームズのメス嫌いは相当なもので偏見もかなりのものらしい。
「女性というのは体外男をアクセサリーか財布としかみていない。そして男は性の対象としかみていない。滑稽じゃないか? 君はおかしくないのか? ニャトソン?」
と言った。
やれやれ……男女というのは簡単に語れるものではない。
少なくとも私は去勢されているし、ナタリーは私を一匹の猫として愛してくれている。
これなのに私の元に届くファンレターのほとんどがニャームズ宛て、しかもメスばかり。
ニャームズの女性ファンの皆さん。
目を覚ましてほしい。
「穴子はこの試合に勝てば年間プロレスMVP確実と言われていた……日本一のレスラーになれば彼女のアクセサリーとしては合格だろうから必死だったろうね」
試合は二十分を超えていた。
二人ともスゴいスタミナだ。
「しかし……穴子は首に古傷があった……とても試合なんてできる状態じゃなかったが彼は笹絵のためにリングにあがった」
「あれ?」
映像のなかの穴子が鱒男のバックドロップをくらってから、しきりに首を気にしだした。
動きも鈍い。
「……そして悲劇は起きたのさ」
鱒男……ドラゴン仮面はタイガー仮面……穴子の腕を攻めながら小声で話し始めた。
「穴子君……君、首が……?」
「気づいたかい? 吹田くぅん。そうさぁ……僕の首は限界さぁ……」
「どうしてそんな身体でリングに!?」
「笹絵さんのためさぁ……ふんっ!」
穴子は無理やり鱒男を持ち上げリングに叩きつけた。
「ぐっ……君はバカやろーだ! 穴子君! 首は命に関わるぜ! レフリーにストップを……」
「とうっ!」
「うっ!」
穴子の美しいドロップキック……素早く追いかけ鱒男の首を絞めた。
「吹田くぅん。僕たちはレスラーだよぉ? そんなしょっぱい終わらせかたしたら客がしらけちまうよぉ……『ショットガン』でスリーカウントを取れぇ」
「なにっ!?」
『ショットガン』……鱒男の必殺技。
顔面へ膝蹴りを何度も放ち、最後は助走をつけて相手の後頭部に膝でフィニッシュ。
「バカな! この試合の脚本は君の勝利だろう!? 脚本を破るのか!? 勝てばMVPだぞ!?」
「僕が勝ちたいのは……山々だけどねぇ……もう動けないんだぁ……吹田くぅん。お願いだよぉ……」
穴子の息が荒い、脂汗もひどい。
「……わかったよ穴子君……」
鱒男は穴子の腕を振りほどき、強烈な平手を穴子に浴びせた。
がっくりと膝を突く穴子……
「ありがとう……吹田くぅん……君は最高の親友だよぉ……」
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
鱒男は穴子の顔面に何度も膝蹴りを叩き込んだ。
穴子の意識が薄れる。
鱒男は助走をつけて走り出した。
「穴子くーーん!!!!」
「……吹田くぅん。笹絵さんを……頼んだ……」
鱒男のショットガンが穴子をとらえた。
レフリーが試合を止めた。
観客の大歓声。
担架で運ばれる穴子……
鱒男は呆然としていた。
「あっ……」
観客席をみると笹絵が鱒男を鬼のような目でみていた。
鱒男もまた睨み返した。
「笹絵さん……」
「この数分後、穴子は息を引き取った。笹絵は最高のアクセサリーを失ったわけだ」
「おお……なんということだ!」
「リング上の事故は罪に問われないんだ。文字通り彼らは『命を懸けて』あの四角い舞台に立っているのさ」
ニャームズは玉ねぎをくわえた。




