ケント
「この頃アディ・フライシティでは『暗黒の家』という怪談話が流行っていてね……しまった!」
ここで僕は『暗黒の家』事件はコッコのような子猫に聞かせるような話しではないことに気がついた。
あれはとても奇怪な事件だ。
「大丈夫だニャームズ。ごらん。疲れて寝てしまったよ」
コッコはニャトソンの肉きゅうに包まれスヤスヤと寝ている。
よかった。
「さすがニャトソンだね。
僕の頭の中を推理するとは」
「推理なんてものじゃない。ただ傍若無猫に見える君が実は心の優しい繊細な猫だというのを知っているだけさ」
「ふむ……」
ニャトソンにしてやられた。
「そう照れるな」
「照れてなんかいないさ」
照れてはいた。
実は僕はお世辞に弱く、ほめ続ければ大概の頼みはきいてしまうオスだというのは彼に悟られないようにしよう。
いや……彼はもう気づいているかもな。
「それでニャームズ。『暗黒の家』とは?」
「暗黒の家……あれは現在の日本にもある恐ろしい場所さ」
「暗黒の家は日本にもある場所なのか?」
「うん。世界中にある。あれは地獄だ。猫が招かれる事もある。暗黒の家自体生まれないようにするのもニャー探偵の大事な仕事さ」
「駄目だ。私にはなにを言っているかさっぱりわからない。じらさないで教えてくれよ」
「じらしているわけではない。エンターテイメントには宣伝文句がつきものだろ? これは暗黒の家に導かれた悪魔とその場所を清めし天使の物語……」
「いい加減にしたまえ」
ニャトソンがヒゲを撫で始めた。
そろそろ限界だな。
イライラしだすとまた『タマネギ』がなんだのという話をしだすからな。
「暗黒の家は仲間内でのホラー話だったんだが……」
「それでな……」
夜のニャー……僕は『ガブリエル』『指輪の男』『図書館に向かう青年』について考えていた。
マイクロネコは『観察すればわかる』といったが……
「おいおいきいてるのかよ? ニャームズ?」
「えっ? なんだって? ケント?」
どうやら彼は僕に話をしていたらしい。
紹介が遅れたが彼は僕の『ニャンキー』時代の悪友で『ケント』。
いつも夏場でも特効服を着ていたし、ニャーゼントは床につくほど長い気合いの入った猫だ。
どうしたのだろう? そんな彼が脅えている。
「もう一度頼む」
「やっぱりきいてなかったのかよ! もう一度ってどれからだ?『宙に浮く生首』か? それとも『真っ黒な人間』? 『地面を動き回る心臓』?」
「プッ!」
どれこれもよくありそうな
怪談話のタイトルだ。
僕は思わずふきだした。
「なに笑ってんだよ! マジなんだぞ!」
夜の校舎窓ガラス割って歩く彼がこんな怪談話に脅えるとは……僕は一応話を聞くことにした。




