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第11話 白黒彼女はクラスマッチでも白黒付けたい 前編

迎えたクラスマッチ当日。

雲一つない青空で野球日和の天気だ。

朝のHRを終えた僕たちは運動場に集まっていた。


「いやぁ、晴れてよかったよかった!雨天中止だったら泣いちゃうとこをだったよ」


隣にいる凛が元気に話しかけてくる。

中止なら中止でうれしいが、中途半端な雨で泥だらけの中試合をしたくないから晴れるに越したことはない。


「千尋はぐっすり眠れた?私は今日が楽しみで6時間しか寝れなかったよ」


「普通に寝たよ。ってか十分寝てるじゃないか」


「私は毎日8時間睡眠しないとダメなの!成長期なんだから」


そういって凛はなぜかクラスメイトと比較しても控えめな胸を揉む。

え?僕も一応男なんだけど。


「茉白さんは8時間以上寝てるね、私にはわかる」


近くにいた茉白さんがビクッと震えて見えた。おおよそ聞き耳を立てていたのだろう。


「凛、たぶんそんなに寝てないと思うぞ」


実際昨日もゲームに付き合わされていたしな。


「えーそうかなー。じゃあ千尋はなんであんなに大きいと思う?」


「そんなに大きいのか?まあ少なくとも凛よりは大きいと思うけどもーーぐぇ」


「ノンデリめ!第一私じゃなかったらセクハラだよ?まったくこれだから幼馴染の私が見張っておかないと!」


凛の強烈なひじ打ちが僕のみぞおちを襲っていた。ちょっとは加減してくれ、呼吸が一瞬止まったぞ。


「いい?茉白さんのサイズはーーむぐう」


「な、なんのお話をされているんですか?」


茉白さんは背後から凛の口を手で押さえ込んでいた。

その仕草があまりにも自然すぎて、僕と凛は思わず固まってしまった。


「……へ、変な話じゃないよ!」


凛は手を外されると慌てて言い訳する。

だが時すでに遅し。茉白さんの目が冷たい。


「朝からそんな下品な会話をして……クラスマッチの日にふさわしくないと思います」


「ひ、ひぃっ……!」


普段から飄々としている凛も、このときばかりは縮こまっていた。

茉白さんの無表情気味な声が、なぜか一番効くのだ。


「……あの、僕も巻き添えくらったんですけど」


「灰原くんは……まあ、仕方ありませんね」


なぜか僕だけは許された。なんでだ。


そのとき、遠くから笛の音が響いた。先生が集合を促しているらしい。


「やばっ、そろそろ試合始まっちゃうじゃん!」


凛が慌てて体操着の裾を整えながら走り出す。


「いくよ千尋!茉白さんも!」


僕らは運動場の端に設けられた野球グラウンドへ向かった。


「うわぁ……クラスマッチって本当にやるんですね」


茉白さんが少しだけ緊張した声を漏らす。

普段は落ち着いている彼女だが、こういう行事には緊張するのかもしれない。


「ま、安心しなよ茉白さん!私がぜーんぶフォローしてあげるから!」


「……それが一番不安です」


「ひどっ!」


凛と茉白さんのやり取りを横目に見ながら、僕は深呼吸する。

さあ、いよいよクラスマッチが始まる。


野球といえどさすがに9回まではない。

3回まででしかも時間制限付きだ。

引き分けならチームの代表メンバー3人によるジャンケンによって勝敗を決めることになっている。

なんとかそうなる前に点をとって試合に勝ちたいところだ。


早速僕たちのクラスの試合から始まる。


代表として凛がジャンケンをし、後攻となった。

凛はマウンドにたち肩、主に肩甲骨をぐるぐるまわしていた。マエケン体操というやつだ。


「よーし、みんなしまってこー!」


凛が大きな声を出し、みんなの士気を上げていく。僕もそれに釣られて大きく「おー!」と声を出していた。


先生審判の試合開始のコールを受け、試合が開始した。


(まずは手始めにアウトコース低めからいきますか)


僕はそう思い、予め決めておいたサインを凛へと送る。

凛はこくりと頷き、大きく振りかぶって投げた。


シューーッ。


バチン。


ボールは風を切る音を鳴らしながら正確に僕のミットにおさまった。

おそらく野球部であろう坊主頭のバッターが驚いた顔をしていた。

わかるぞ、僕も驚いてるから。


「ストライク!」


「ナイスボール、凛!」


「今日は絶好調だからね!」


そして2球目を振りかぶって投げた。

しかし次はバットに当てられファールボール。さすが野球部といったところだろうか。


速いといっても女子が投げるにしては速いというだけで男子からすれば、ましてや経験者なら打つことも可能な速さだ。


僕は凛にサインを出した。

凛は一瞬驚いた顔をしていたが、こくりと頷いた。

そして3球目を振りかぶって投げた。


ボールは真っ直ぐ来ているように見える。

バッターもバットを振り初めた。

僕はボールの到達点より低めにミットを持っていく。


バッターも異変に気づいたようだが、バットをほとんど振りぬいているので止まれない。

そう、あくまで真っ直ぐ来ているように見えただけだ。

ボールは起動を変えてストンと落ちていく。


フォークボール。


凛がこっそり動画を見て覚えた変化球だ。

バットは空を切り、ボールは僕のミットへ。


「ストライク!バッターアウト!」


三球三振という最高のスタートで試合は始まった。

さすがに変化球を連投できるほど体力はないため、野球部以外には直球だけで勝負した。


ヒット性の当たりを三遊間に打たれたが、茉白さんがそつ無く捌いて抑えた。

無論応援しているクラスメイトからは歓声が上がり、茉白さんは照れくさそうにしていた。


そして僕らの攻撃へ。


相手チームは野球部がピッチャーをしているらしくボールは速そうだ。

茉白さんは2番、凛は4番を打つことになっている。ちなみに僕は3番だ。


1番打者が三振してアウトになり、茉白さんの番へ。

茉白さんはバッターボックスに入る前に僕に話しかけてきた。


「灰原くんは打てそう?」


「うーん、どうだろう。ボール速いし…」


僕が曖昧に答えると茉白さんは端的に告げてバッターボックスへ向かった。


「なら私が白黒つけてあげる。君なら打てるよ」


カキン。


茉白さんは初球を捉えてツーベースヒットを打っていた。どうやら女子だから舐めてかかっていたようだ。まぁ、パワ〇ロやり込んだだけの女子に打たれるとは思わないよな。


そして僕の番が来た。


「千尋ー!打てよー!」

「灰原くん!打てるよ!」


ネクストバッターズサークルから凛が、2塁ベースから茉白さんが応援してくれる。

応援してくれるのはありがたいことだが、ピッチャーが目の敵のごとく僕を見てくるのだが。僕あなたに何かしましたか?


初球を打ちにいったが、バットは空を切る。

明らからにスピード上がってやがる。


「ピッチャービビってる!ヘイヘイヘイ!」


凛が楽しそうに声を上げて言っている。

いやむしろビビってるのは僕の方なんだけど。

むしろピッチャーやる気というか殺気に満ち溢れてるんだけど。


2球目は体に向かってボールが飛んできた。

何とか避けたけどワザとだ。


(さすがに危ないだろ…)


ちょっとカチンときた僕は3球目を強振した。

カキンと音がなり、ボールはぐんぐん飛んでいく――わけなかった。


いきなり上手くなるわけないのだ。

ボテボテのサードゴロ。

全力で走り、何とか塁に出ることに成功した。

内野安打ってやつだ。


灰原さんはちゃんと進塁していて1アウト1・3塁だ。


「2人とも歩いて返してあげるねー!」


凛はバッターボックスから自信あり気に声をあげた。

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