三つ目の信号
当時は今のような1万分の1の地図もなく、当然ナビなども無かったので、大型トラックで行き先の住所を頼りに貸し切り便を走るのは中々大変だった。
荷物を積んだ時点で配達先に電話をかけ、大型車が入れるかどうかの確認をする。
もし入らなかったら近くの支店で四トン車に積み替え依頼をしなければならず、そうすると運賃の一部を譲らなければならないので、何回切り返そうが入るなら無理矢理にでも大型車を入れた方が給料は良くなる。
また住所だけを頼りに走っていくので地図に乗っているような大きな会社だとたどり着けるが、そうでないと近くまで行って地元の人に聞きながら走ることになる。
ある時、東北の畑が広がる田舎町にある小さな工場に配達することになった。
住所を頼りに近くまでは来たが、その住所も何丁目何番地とかの表記ではなかったので、中々たどり着かない。
トラックを止めて、道を歩いている人に聞くと、さすが田舎町。
工場の名前を告げるとすぐに場所は分かったようで、教えてくれる。
『この道を北に真っ直ぐ行って、三つ目の信号を右に曲がると、じきに見えてくるよ。』
と言うようなことを方言で伝えてくれた。
その人によれば、すぐ近くだということだった。
そして北に向かって走ること10分。
信号二つは越えたが、三つ目が中々見えてこない。
『え?あの人信号三つ目って言ったよな?すぐ近くって言ってたから、三つ目の交差点の間違いか?』
段々不安になる。
信号もなく渋滞もない道なので、10分も走ればかなりの距離だ。
それから20分。
まだ三つ目の信号が表れない。
『もしかして信号見過ごしたのか?』
そう思っていると、三つ目の信号があった。
半信半疑で右折する。
近くだと言われたのにこれだけ走ると、さすがに間違ってると思っていた。
『また誰かに聞かなきゃ……』
すると、目指す工場が見えてきたのだ。
田舎の人の『近く』って……
恐るべし!
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