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第九十五話 行列!?


 翌日。

 私は、マルデア都内のメディアショップへと営業に向かった。

 店長に頼むと、快くモニターでティルスのプロモーションビデオを流してくれた。


「なにこれ、アニメ? ゲーム?」

「かっこいいじゃん」


 店に来る若者たちは、PVを眺めながら口々に感想を漏らす。

 新しいタイプのゲームの形に、興味津々のようだ。

 当然、私が歌うシーンもカットインしてくるわけで……。


「へえ、マルデアの子が歌ってるんだ」

「かわいい歌ね」


 ゲームの主題歌を歌う私に、お客さんは足を止めていた。

 めっちゃ見られている……。

 好評そうだからいいけど、恥ずかしいもんだよ。

 顔が熱くなるのを感じていると、店長が笑って言った。


「ははは、リナちゃんがついにゲームの歌手デビューか。

いや、めでたいね。発売日までずっと流しておこうか」

「ど、どうも……。あの、オールスターの発注はいかがでしょうか」


 こちらが本題に入ると、店長は試遊機を触りながら言った。


「この聖賢伝承は面白そうなキャラが沢山いるけど、どれが主人公なんだい?」

「全員ですよ。その六人から、主人公を自分で選べるのです」


 聖賢伝承3は、六人のキャラクターから主人公と二人の仲間を選んでプレイする事ができる。

 個性的なキャラクターたちの、それぞれの冒険と物語が楽しめるのが特徴だ。


「へえ。自分で主役を選べるゲームもあるのか。それは凄い……。

いや実を言うとね、クロナの反響で既に予約の入りが結構あるんだ。

発注も多めに取らせてもらっていいかい?」

「もちろんです!」


 マルオ無しでは渋るかな、と思ったけど、かなりの数の注文を取る事が出来た。

 嬉しい誤算だ。


 でも、これくらいじゃないと初動の六万本は捌けない。


 私は他の販売店を巡り、次々に発注を取って回った。

 色んな店に流れる自分の歌声に、羞恥心をえぐられながら私は仕事をこなしていった。



 ガレリーナ社に戻ると、みんな満足げな顔で集まっていた。


「どこもプロモーション効果で予約入ってるっス!」

「うむ。これなら、もしかして六万も行けるかもしれんぞ」


 みんな嬉しそう、だったんだけど。

 一人だけ、怒ってる人がいた。


「リナ。何なのよこのゲーム!

死んでばっかりで全然進めないし、操作もなんか変だし。

面白くも何ともないじゃないの!」


 そう言って、昨日貸したゲームを突き付けてくるサニアさん。


「いや、サニアさんがクソゲーをやりたいって言ったんじゃないですか」

「まあ、そうだけど……。そう、これがクソゲーなのね……」


 腑に落ちた表情ながらも、納得のいかなそうなサニアさん。

 まあ、そういうもんだよクソゲーってのは。




 実家に戻ると、うちの近所の子どもたちにもクロナの噂は広まっていたらしい。


「あんたといがみ合うのも、これで終わりね」


 Final Fantasiaファンのカレンちゃん。


「ああ。二つのゲームが合体しちまうとはな……」


 ドラクアファンのトビー君。

 二人は、手を取り合って和平協定を結んでいた。


 美しい光景だ。

 フェイナルファイツに取り組む二人の連携も、心なしか今までより息が合っているように見えた。


「ちょっ、あんた死ぬの早すぎっ」

「こっちに敵が集まったんだよっ!」


 うん。あんまり変わってないようにも感じるけど。

 まあ、頑張っているようで何よりだよ。


 他の子どもたちは、お母さんが出してきた新作オールスターのポスターに見入っていた。


「ねえ、あのゲーム。昔の魔術通話みたいなの使ってるよ」

「ほんとだ。変なの」


 子どもが指さしたのは、マザーズ2の主人公が古い黒電話を手にしている絵だ。


「あれはね。ママとパパに通話してるんだよ」


 私が説明すると、子どもは首をかしげる。


「なんで冒険しながらママに連絡してんの?」

「だって、主人公はまだ子どもだから。きみたちだって、たまには親の声が聴きたいでしょ」

「……、うん」


 少年は、照れ臭そうにしながら頷く。


 マザーズ2は、不思議な世界観を持つゲームだ。

 ゲームの状態をセーブするためには、パパに電話する必要がある。

 なぜか? それはわからない。

 でも、主人公はまだ少年だ。


 だから、冒険中はママとパパに連絡を入れて安心させてあげなきゃいけない。

 親に電話したら、自分も安心するかもね。


 子どもたちは、オールスターのキャラクターたちを一つ一つ指差し、話し合う。

 マルデアにまた、新しいゲームたちが降り立つのだ。

 耳をすませば、あの冒険のメロディが聴こえてくる。


「ふんふふふーん」


 ……、うん。母さんがティルスの曲を口ずさんでるね。

 今回は残念ながら、あんまり良いムードにはならなかったようだ。

 



 それから、発売までの一週間。

 私たちガレリーナ社は、営業に客対応に忙しく働き回った。

 予約はかなり好調で、発売までに四万本ほど小売に発送する事ができた。

 これはもちろん、今までで最高の数字だ。


 そして、発売日前日の夜。

 私は明日に備え、早めに寝る支度をしてベッドに入った。


 だが、その時。

 机に置いたデバイスが鳴り、一本の通話がかかってきた。


「リナ? ちょっといい? 今、大変なのよ!」

「はい? どうしました?」


 サニアさんの慌てたような声に、私はベッドから飛び起きる。


「行列よ。発売前日から、幾つかの店舗で開店待ちの行列が出来てるらしいのっ!」

「ま、まさか……!」


 なんでも、行列ができた店舗の中にはブラームス専門店も含まれているらしい。

 ブラームスさんは今回、気合を入れて物凄い数を入荷してくれた。

 突然の事に混乱してるかもしれないし、ちょっと放ってはおけない。


 私は慌ててパジャマを着替え、コートを着て一階に降りる。


「あら、リナ。もう寝るんじゃなかったの?」


 歯磨きしていたお母さんが、私の姿に驚いていた。


「ちょっと仕事で販売店に行ってくるよ!」

「そう。あんまり夜更かしして無理しないようにね」

「うん、行ってきます!」


 家を飛び出し、寒い夜道を行く。

 ワープステーションは、深夜でもちゃんと営業している。

 明るい駅に入ると、駅員さんがこちらを向いた。


「おやリナちゃん、どうしたの。まさか深夜便を使うのかい?」

「はい、ちょっと急用で」

「そうか。君もそんな年になったんだねえ……」


 感慨深げに頷くおじさんは、何か勘違いをしているのかもしれない。

 私は定期券で中に入り、すぐに目的地へとワープした。

 

 都外にある大通りの外れまでくると、そこにはかなりの人だかりが出来ていた。

 50人、いや、100人はいるかもしれない。


「クロナの冒険はもうすぐだぞっ!」

「早くゼルドがやりたいわ」


 ゲーマーたちが語り合い、店の前で盛り上がっているようだ。



 地球では、発売日恒例のイベントがある。

 行列を作ったり、当日には催しがあったり。

 ゲームが世に出る事をみんなで喜び合う、一種のお祭りだ。


 でも、そういうのはマルデアにはまだ早いと思っていた。

 ところがどっこい。

 新作の期待値が限界点を振り切れ、彼らをつき動かしてしまったらしい。


「何だいあの人だかりは」

「不良でも騒いでるのかしら」


 近所の人たちが、遠くから行列を眺めている。

 うん、秩序がないのはちょっとまずい。近隣に迷惑がかかるからね。


 とりあえず、私もプロモーションに出てるから騒ぎになるとまずい。

 帽子で髪を隠し、ブラームスさんに通話をかける。

 深夜だったけど、彼はまだ起きて店内にいた。


「マルデリタさん。わざわざ夜遅くに来てもらって、申し訳ない」


 裏口から中に入ると、ブラームスさんは少し疲れた様子だった。


「いえいえ、それにしても凄い事になりましたね」

「はい。まさかこんな時間から行列が出来るとは思いませんで。

どう対処したものかと迷っていた所ですよ」


 一人で困り果てていたらしく、彼は外の喧騒を心配そうに眺めやっていた。


「とりあえず、行列が出来てしまったものは仕方ありません。

ここは、地球の販売店のやり方に倣いましょう」


 私の提案に、ブラームスさんは大きく頷いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] >「リナ。何なのよこのゲーム! >死んでばっかりで全然進めないし、操作もなんか変だし。 >面白くも何ともないじゃないの!」 最弱キャラのスペランカーか、コンボイの謎か・・?
[一言] 物を売るってレベルじゃねーぞ!?(言いたかっただけ)
[良い点] 面白すぎて今日1日で読破してしまった…!! 続きが楽しみだぞーー!!!!
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