第九十四話 プロモーションビデオ
ゲームの名称などを多少変更しております。
マルデア星。
研究所から出ると、空はまだ明るかった。
まだ新年明けて間もなく、大通りは賑やかだ。
と、アーケードを置いてある店があった。
「お父さんが道を作ってやるから、後ろからついてくるんだぞ」
「うん!」
親子がフェイナルファイツを協力して遊んでいる。
なんとも微笑ましい風景だ。
少しずつマルデアにも、ビデオゲームの文化が浸透し始めているらしい。
まあ、まだまだ首都中心だけどね。
オフィス街に出て、ガレリーナ社のビルに入る。
二階に上がると、フィオさんの通話対応の声が聞こえてきた。
「いえ、ドラゴンFantasiaではありません。Finalクアストでもないです。
クロナ・トルガーです。
ええ、別に二つのタイトルが合併したわけではありませんので……」
新作のタイトルに対する問い合わせらしい。
ゲームイベントで発表した内容が、回りまわって変な形で拡散されているらしい。
「ただいま戻りました」
みんなに声をかけると、早速入荷した本体を確認に入った。
「七万台か。これで品薄を解消できそうだな」
「すぐに発送していくわよ」
ガレナさんやサニアさんは、すぐに輸送機を持ってワープ局へと向かっていった。
そして発送が終わった後。
さっそく営業陣が集まり、新作の戦略会議に入った。
『2Dゲームオールスターズ3』
そう書かれたパッケージの表紙には、クロナやゼルド、マザーズのキャラクターがひしめき合っている。
「今回もすさまじいラインナップですね」
フィオさんが、戦慄するように震えながらパッケージに触れる。
「名作ばっかりっスよ。間違いなく売れるっス!」
自信を持つメソラさんだが、サニアさんは苦い顔をしている。
「まあオールスター第二弾並みの初動は間違いないと思うけど。
でも、初回で6万本は簡単じゃないわよ」
「うむ。マルデアにおけるスウィッツの普及台数は現在27万台程度だ。
その中で六万人を初動で買わせるのは並大抵ではないぞ」
ガレナさんも真剣な表情でデータを眺めている。
今回はマルオのタイトルがないため、子どもたちの飛びつきには期待できないかもしれない。
「クロナがどこまでの爆発力を持っているかですね……」
「うむ。初動はそれに左右されるだろうな」
私とガレナさんが頷き合っていると、フィオさんがおずおずと手を上げる。
「それについてなんですけど。ネットで今、ある動画がバズってまして……」
彼女はテーブルにデバイスを置き、件の動画を再生する。
それは、年末イベントでクロナが発表された時の映像だった。
動画のタイトルは、『新作発表! ドラクア×Final Fantasiaのドリームタイトル!』
巨大モニターに映し出されたクロナのプロモーションムービー。
そして、ファンたちの熱狂が映し出されてる。
動画の下部には、ファンたちのコメントが大量についていた。
『やばい、これは凄いタイトルになるぞ!』
『停戦だ。RPG論争はもう終わりだ!』
『時を越えて謎を解き明かすなんて、ワクワクが止まらないわっ』
『キャラクターは確かにドラクアっぽい』
『世界観はFinal Fantasiaに近いものを感じる……。確かに二大RPGの合体だ!』
『音楽も凄いな。この会場で発表を見たかったよ』
『もう近所の店で予約してきた』
『早く発売してくれええええっ!』
私たちはしばしコメント欄を眺め、沈黙した。
「これ、相当売れちゃうんじゃないですか?」
「……。そうね、思ったよりすごい反響だわ」
どうやら私たちは、クロナの力を舐めていたらしい。
「ふむ。やはりイベントや映像での新作発表は効果的なようだな。
ファンたちが予想以上に盛り上がっている」
ガレナさんが腕組みしながら呟くと、フィオさんが頷く。
「そうですね。ネットでゲームの映像を見せて、予約に走ってもらえば。
販売店からの発注も自然に来ると思います」
プロモーション映像による宣伝は地球でも定番だ。
ある程度のファンベースが出来てきた今のマルデアなら、このやり方が成立するかもしれない。
「なら、六万本のためにもう一押しよ!」
何か思いついたのか、サニアさんが嬉しそうに手を上げる。
「もう一押し、ですか」
「ええ。ファンを予約に走らせるための、最高のプロモーション。
それは、リナのデビュー曲だわっ!」
バシンとテーブルを叩きながら宣言するサニアさん。
これは、何か嫌な予感がするよ。
「そうっス! ゲームで主題歌なんてマルデアじゃ初めてなんスから。
そこを売り出していくべきっス!」
メソラさんもノリノリで乗っかってくる。
ああ、やっぱりイジられるんだね……。
まあ、宣伝のためならしょうがない。
私たちは、ティルスを使った戦略について話し合う事になった。
内容は、そう複雑ではない。
ティルスのオープニングアニメ。
ゲームプレイ映像。
そして、主題歌を歌う私の実写映像。
この三つを組み合わせて、プロモーションビデオを作るというものだ。
私の歌唱映像については、地球で撮影したものを使わせてもらう事になった。
動画編集に慣れたサニアさんが、映像をかっこよく切り取っていく。
三時間ほどで二分の動画が出来上がり、それを配信サイトの公式チャンネルにアップロード。
「いい感じっスね!」
「うむ、ゲームに引き込まれるな……」
PVを鑑賞したみんなが、口々に感想を言う。
なんか、ティルスのかっこいい映像の中で私が歌ってる感じになってる。
めちゃくちゃ恥ずかしいけど、確かにゲームに惹かれるPVに仕上がっていた。
「さて、プロモーションについてはこれでよしと。後は反響を待つだけね」
投稿を終えたサニアさんが息をつくと、メソラさんが頷く。
「そうっスね。あとは、この動画を販売店でも流してもらうといいっス」
「え、店で流すんですか!?」
驚く私に、みんなは何を今さらとばかりの表情だ。
「当たり前でしょ。プロモーションなんだから。
いいじゃない、ゲーム男子にちやほやされるわよ」
サニアさんの言葉は、個人的にはあんまり嬉しくない。
私は未だに男性に対して恋愛感情を持った事がないからね……。
ともかく、今日はもう終業時間を回ったし、これで帰ろう。
そう思ってカバンに手をかけると、サニアさんとメソラさんがコソコソと近づいてきた。
「ねえリナ、そういえばさ。頼んどいたブツは持って帰ってきたの?」
「どうだったスか?」
ブツというのは、その、クソゲーと言われる部類のものだろう。
この二人はほんとに、ゲームに対して貪欲だよね……。
「一応、持ってきましたよ。ただ、プレイは自己責任ですからね」
私はカバンから一本のファミコムソフト取り出し、デスクの上に置く。
「へえ、絵は見た感じ面白そうね」
「さっそくやるっス!」
有名な理不尽ゲームを手にしたサニアさんたちは、やる気満々の様子だ。
一応、名誉のためにタイトルは伏せておきたい。
まあ、やってればクソゲーと呼ばれる理由はわかるだろう。
ゲームを始める二人を後目に、私はオフィスを出た。
地球から日帰りするのってほんとに久しぶりだよ。
「ただいまー」
家に入ると、母さんがドタドタと居間から出てきた。
「ちょっとリナ、この歌! リナが歌ってるの?」
何かと思えば、さっきアップした公式ビデオをネットで見たらしい。
「う、うん……。まあね」
頷いて見せると、お母さんは感激したように手を合わせる。
「凄いわ! とっても良い歌じゃないの。それで、リナはいつメジャーデビューするの?」
「……。しないと思うよ」
まったく、お母さんは大げさだよ。
でも、明日からは腹をくくって営業しなきゃね……。




