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第九十二話 新年あけまして!


 新しい一年の始まり。

 それは、喜びの朝だ。

 窓から差し込む光に目覚めると、隣の家から騒がしい声がした。


「やったーっ! スウィッツだあ!」

「うおおおおおおおおっ!」


 兄弟が叫びながら、ドタバタと走り回っているらしい。

 あの子たち、ずっと欲しがってたからね。

 親がプレゼントに買ってくれたんだろうね。

 私も昔、クリスマスにスーファムをもらってはしゃぎ回ったもんだ。


 ベッドから起き上がると、私のベッドにもプレゼントの袋があった。

 私もう社会人なんだけどね。


 照れながら袋を開けると、中には可愛らしいセーターが入っていた。

 それを持って、一階に降りていく。


「おはよう母さん。プレゼントくれたの?」


 声をかけると、母さんはニコニコ笑いながら振り向いた。


「えへへ。リナに似合うと思ってね。あったかいわよ」


 しょうがないので、私はパジャマを脱いでプレゼントのセーターを着た。

 ピンク色でちょっと派手だけどね。


「うん、可愛いわ。さすが私の子ね」

「もう子どもじゃないんだけどなあ……」


 まあ、嬉しそうな母さんを見ると嫌な気もしない。


 居間でゆっくり朝を過ごしていると、今度は裏手の店から賑やかな声がした。


「ねえ、お小遣いもらった?」

「ああ、ポケットにコイン一杯入れてきた。スタ2しようぜ!」


 店に出てみると、少年たちがアーケードに集まっていた。

 新年は、マルデアでも子どもたちの懐が温かくなるシーズンだ。


 トビー君とカレンちゃんも、朝から二人でファイナルファイツに挑戦していた。


「その鉄パイプ、俺が拾うやつだろ!」

「あんたはそっちの雑魚相手するんでしょ!」


 相変わらず喧嘩しながらのプレイ。まだまだ、先は長いようだ。


 と、そこへ。

 小さな光が二つ、近くに飛んできた。

 あれは、妖精のフェルクルだ。


「へーい、フェルクルーっ」


 声をかけると、彼女たちはこっちを指さしてキャッキャと笑っている。

 どうしたものかと思っていると、二つの光は空へと飛び去って行った。


 妖精と仲良くなるのは簡単じゃない。

 まあネズム国への展開はおいおい考えよう。


 その前にオールスターの新作を出さなきゃいけないし。

 今日はめでたい朝だ。


 のんびりゲームでもして過ごそうじゃないか。

 そう思い、私は二階に向かった。



 さて。

 昨年末はイベントもあってガレリーナ社はずっと忙しかった。

 そのため、年始は一週間ほどお休みになった。


 あんまり働きづめだと、休みのない酷い会社になっちゃうからね。

 社員のみんなにも、しっかり休養を取ってもらう事になった。


 私もゆっくりと休みを取ったけど、その間に一つ仕事をした。

 それは、年末のイベントで撮影した動画の編集だ。

 あの会場の様子は、地球人のみんなにも見てもらいたいと思った。


 マルデア人たちがマルオと触れ合う場面。

 トーナメントの盛り上がり。

 そして、最後の新作発表。


 その模様を30分くらいの動画にまとめて、yutubeにアップする。

 これには、地球側から凄い反響があった。

 投稿直後から、山のようなコメントが押し寄せてくる。


『おい、猫が喋ってるぞ』

『猫が格闘ゲームしてるわ!』

『しかも猫が優勝してる……』

『ネズミもパズルゲームやってたよ』

『まるで動物映画のようだな。

だが、リナのチャンネルだから現実の光景なんだろう……』

『ああ。マルデアには喋る動物がいるらしい』

『動物も凄いが、最後の発表は凄い盛り上がりだったな』

『ああ。クロナ・トルガーがもし当時イベントで発表されていたら。

こんな感じだったのかもしれないな』

『夢のプロジェクトか……。懐かしいロマンだな』


 やはりというか、猫さんにかなりの注目が集まっていた。

 ゲーマーたちは、懐かしいクロナの発表に浸っているようだ。


 クロナが地球で発売された1995年当時は、インターネットも普及していない時代だ。

 あの頃のゲームファンは、雑誌などで書かれた断片的な情報を見てワクワクしていた。

 でも実際のイベントで大々的に発表されてたら、もっと凄い盛り上がりになったと思う。


 私はそんな過去の夢を、この星で実現してみたいと思っていた。

 イベントで発表してみたら、マルデアのみんなは大喜びだった。


 今年も、やりたい事は沢山ある。

 そのために英気を養って、また再スタートだ。

 だから、休みの間はゴロゴロしながらゲームしててもいいよね。

 うん。


「ちょっとリナ。もう年頃の女の子なんだから、はしたない恰好しないの」


 たまにお母さんに怒られたりしながらも、私は正月をゲーム漬けで過ごした。



 そして、一週間後。

 休み明けのグータラした体を起こし、私は朝から会社に向かった。

 オフィスに入ると、やっぱりフィオさんが朝から通話対応に追われていた。


「すみません。そろそろ次の入荷があると思いますので……」


 年末年始の間、ずっとスウィッツは品薄状態だ。

 買えなくて不満を持つお客さんも多い。


 そんなわけで、地球側も次回分の生産を急いでくれている。

 オールスター第三弾も、今月中には発売する予定だ。


 本体と新作ソフトを早めに受け取ってこなきゃいけない。

 年明け早々、私の仕事は山積みだ。


 ガレナさんはスケジュールを確認しながら言った。


「リナ。今回は他の国に寄っている時間は無いんじゃないか?」


 確かに、休みをとった事もあって日程に余裕がない。

 新しい国に訪問していたら、日本に着くまで三日はかかる。


「そうですね。今月は最初から日本に直行しましょう」


 久しぶりに前世の母国へまっすぐワープだ。

 魔石は、日本から国連に渡してもらえばいい。


「ふふふ、京都へ直通ワープか。腕が鳴るな」


 ガレナさんは楽しそうに笑いながら、日本の地図を眺めていた。

 私はその日のうちに五万五千の魔石を調達し、輸送機に詰め込んでおいた。



 そして翌日。

 私は支度をして魔術研究所へと向かった。

 今回は身を隠す理由もないので、素のままの恰好だ。


「さて、今回は一発で届けて見せるぞ」


 やけに気合の入ったガレナさんは、転送の準備も万端らしい。


「頼もしいですね、ガレナさん。

では、新年一発目のワープです。よろしくお願いします」

「うむ。健闘を祈るよ」


 ワープルームに入ると、私の体は光に包まれていくのだった。




 さあ、新しい年の始めはどこに落ちるかな。

 と、降り立ったのは土の上。


『一番、バッター……』


 耳に響くアナウンスの声は、前世のテレビで聞き慣れたものだった。

 周囲を見渡すと、大勢の観衆が見えた。

 そして、ユニフォームを着てグラウンドに立つ選手たち。


 どうやらここは、野球場みたいだ。

 今回のオールスターに野球ゲームは入ってないんだけどね……。


「お、おいあれ。ピンク色の髪の子が突然出てきたぞ」

「もしかしてリナ?」


 騒ぐ観衆の中、私はどこにも逃げようがない。

 キョロキョロしていたら、私の顔が巨大モニターに表示されてしまった。


「あれは、リナさんです!

なんと甲子園球場の新春イベントに、リナ・マルデリタさんが降りてきましたっ!」


 テレビっぽい実況の声がする。

 甲子園って事は、京都にはすぐ行けそうだけどね。


「リナちゃん、来てくれたんかいな!」


 と、関西弁で声をかけてきたのは……、監督さんかな。


「す、すみません。いきなりお邪魔して。試合中でしたよね」

「ええよええよ、イベントやし。そうや、記念に始球式していくか?」


 気楽な調子で、監督はそんな事を言った。

 まあ、これも何かの縁なのだろう。


 五分後、私はユニフォームを着てマウンドに立っていた。


「さあ、リナ・マルデリタ投手の記念すべき第一投です! みなさん、しっかりとご覧ください!」


 実況の声に、観客の目が集まっているのを感じる。


 私はふりかぶって、思い切りボールを投げた。

 さりげなく魔術を使い、ボールをストライクっぽい所へと誘っておく。


「ストライーク!」


 バッターがお約束の空振りをして、審判がコールを決める。

 すると、実況が再びゴキゲンに語り出す。


「しっかりとストライクゾーンに入った見事な投球でした!

さすがはマルデアの魔術師といったところでしょうか?」

「ええ。球の軌道が奇妙で、二回曲がっているように見えました。

もしかしたら本物の魔球かもしれません」


 解説の人が私のボールについて熱を上げて語っていた。

 まあ、魔術を使ったから魔球なのは間違いないけど。


 私は苦笑いしながら、観衆にペコリと頭を下げた。

 さて、京都に行かないと。


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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭のところで、ゲーム機をプレゼントされて大喜びする子供達の動画集を思い出した
[良い点] フェルクルとの今後の話、楽しみです♪
[良い点] 扱われてるゲームの世代なので、あの頃を思い出せて懐かしい。 自分の息子も今Switchでマリオにハマってるので、 今も昔も子供の反応が一緒で、改めてゲームはすごいと認識させられた。 また…
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