第八十九話 スーパープレイ
リナ視点から始まります。
いよいよ、イベント本番。
サニアさんが前に出て、拡声器を通して叫ぶ。
「じゃあ、ここからはゲームのトーナメント大会、始めるわよーっ!」
「おおーーっ!」
お客さんから、大きな声が上がる。
さっきよりもノリが良くなっているのは、開発者たちの映像を見たおかげかな。
「まずはスタ2の予選第一試合よ。出番のお二人は、指定された席についてね!」
サニアさんの進行で、大会の日程が始まる。
事前に応募登録した二人のプレイヤーが、ドカリとアーケードの席に腰かけた。
そして、対戦相手とバチバチと火花をまき散らす。
これ、比喩表現じゃなくて本当に魔力がほとばしってるんだよね。
「ルールをおさらいしておくわよ。魔術による相手への妨害は一切禁止!
マナー違反も失格になるから注意してね。
では、はりきって第一試合いってみましょう。ラウンドワン、ファイッ!」
対戦が始まると、映像が大モニターに表示される。
お相撲さんとチャイナガールの戦いが始まった。
「いいぞ、そこだっ」
「やっちゃえー!」
お客さんたちはモニターを見上げ、歓声を上げて楽しんでいる。
勝者が決まると、すぐに次の試合に向かう。
第二試合に出てきたニニアちゃんは、かなり緊張しているようだった。
だが彼女が操作するリウは見事に躍動し、大人相手に見事勝利を収めていた。
ぷやぷやの試合も交互に進められ、連鎖の声が会場に響く。
『えいっ、ふぁいおー、あいすすたーむ、だいあきーと、くれいんだむとー』
さすがに大会に出るだけあり、プレイヤーの腕もそこらの人とは違う。
少女が速攻で五連鎖を仕掛けると、男性が崩れ落ちた。
「やったー! ニニアちゃん、勝ったよ!」
あの子、ニニアちゃんの友達なのかな。
二人は共に初戦を突破し、手を取り合って喜んでいた。
一回戦は人数が多く、二時間ほどかけてようやく最終試合が終わった。
さて、ここでまた一つ見世物がある。
休憩モードに入った会場に、私は拡声器で呼びかける。
「みなさん、一回戦お疲れ様でした。白熱した試合でしたね。
さて、ちょっと大会は休憩して、お楽しみ映像の時間です。
今回は、地球人のゲーマーによる『ゼルドの伝承』スーパープレイ映像をご覧いただきます」
「ち、地球人のスーパープレイだとっ」
私の宣言に、観客がどよめく。
すると、巨大モニターにゼルドの映像が流れ始めた。
丘の上に立った主人公が、空へと飛び出していく所だ。
高い所からグライダーで滑空していくのは、ゼルドのスタンダードな楽しみ方である。
だが、これは普通のプレイではない。
プレイヤーは二つの爆弾を出し、爆風を利用して主人公の体を空に吹き飛ばす。
そのスピードを利用してグライダーを出すと、凄まじい速度で滑空する事ができるのだ。
「な、なんだあの技は!」
「信じられないスピードで飛んでいくぞ!」
ゲーマーなお客さんたちは、手に汗を握りながらモニターを見守っている。
主人公は一気にラスボスの根城に降り、異様な素早さと手際で城を駆け上がっていく。
「わ、私が100時間かけて辿り着いた最後の城に……!」
「初期ステータスのまま、10分そこらで突撃している……。なんてプレイだ!!」
マルデアの観客たちは言葉を失っているようだ。
ゼルドを体験したプレイヤーたちには、その異常さがよくわかるのだろう。
これは、タイムアタックと呼ばれる種類の動画だ。
ゲームをいかに早くクリアできるか。
それをネット上で延々競い続けている人たちがいる。
彼らはゼルドの世界で、いかに効率的にゲームを進めるかという技術を磨き続けている。
発売から二年以上を経て発見される技もある。
千万人を超えるプレイヤーの中から、たった一人が見つけたテクニック。
文字通り変態技である。
主人公はあっという間に最深部に辿りつき、拾った武器でラスボスを倒してしまう。
ゼルドという大作が、30分にも満たない時間でクリアされてしまったのだ。
「すさまじい技術だ……。地球のプレイヤーのレベルは尋常じゃないぞ!」
「あんなプレイを実現できるなんて、ゼルドってどれだけ奥深いゲームなの……」
コアファンの集いだけあり、その凄さを理解した人もいるらしい。
ゼルド世界の物理法則は、プレイヤーたちの変態的なプレイすら許容する。
ビデオゲームが持つ底の深さに、マルデアのファンたちは静かに見入っていた。
スタ2少女のニニアちゃんも、映像に目を奪われているようだった。
------ Side ニニア
私は、友達のラナと一緒に年末のゲームイベントに参加していた。
その内容は、思っていたより凄かった。
スタ2を開発した人の声が聴けたし、色んな展示物も見れた。
試合はかなり緊張したけど、私もラナも一回戦を突破する事ができた。
だが、その後に紹介された動画が凄かった。
ゼルドの物理法則を利用して、二つの爆弾を使ったスーパープレイ。
あんな技を考え付く人がいるのか。
そして、あの技が実現できるほどゼルドは奥深い世界だったのか。
私は、これまでのゲームの概念を根本的に覆された気分でいた。
プロゲーマー。
地球に存在するというその職業に、漠然とした憧れを抱いていた。
ゲームを軽んじる母に怒りを抱いた。
そんな私ですら、ビデオゲームという世界をまだ『軽く見ていた』。
そう思わせられるほど、あのプレイは凄まじいものだった。
やり込みのレベルが違う。
一体どこまで遊び込んだら、あの領域に達する事ができるのか。
私は、手に汗が溢れるのを感じていた。
「ニニアちゃん。ゼルドのやつ、凄かったね」
「うん」
いつも明るいラナも、神妙な様子でモニターを眺めていた。
異様な速度で空を滑空する主人公は、とてもかっこよく見えた。
「ニニアちゃん。ゲームって凄いね」
「うん。私が思ってた何倍も奥深かった。でも、その分やりがいはある」
「ふふ、そうこなくちゃ」
私たちが頷き合っていると、二回戦の試合が始まったようだ。
戦っているのは、猫の姿をしたニャムル人だ。
国外からもプレイヤーが来ていて、ぷやぷやでもネズミっぽい種族が参加していた。
ネズミさんはアーケードに初めて触れたのか、一回戦で敗退してたけど。
このニャムル人は違う。
「にゃにゃにゃっ!」
彼が操るダルサムは間合いの取り方が上手く、長いリーチを使って試合を優位に進めていく。
あの肉球で、どうやってレバーを操作してるんだろう。
「あの猫さん、強いね」
「うん……」
彼はきっと、日ごろからアーケードを遊び慣れているのだろう。
華麗な肉球捌きで、軽やかに勝利を掴み取っていた。
舐めてたら、間違いなく負ける。
私の胸に、敗北という名のプレッシャーが襲い掛かってきた。
----- Side リナ・マルデリタ
第二回戦が終わり、ちょうど日程通りにお昼になった。
参加者のみんなも、少し疲れてきたかもしれないね。
私は魔術拡声器を使い、会場にアナウンスする。
「みなさん、お疲れ様です。ここでお昼休みにしたいと思いますが。
せっかくですので、みなさんにわが社から地球の料理を振舞わせて頂きたいと思います!」
昼食サービスの案内に、会場から歓声が上がる。
今回は、ガレリーナ社の一階にあるモント食堂の夫婦に協力を仰いだ。
地球からもらったお土産が沢山あったので、それを使って地球料理を作ってもらう事になった。
用意したのは、もちろんゲームに関わるものだ。
ゼルドでは、焚火と鍋があれば料理をすることができる。
いろんな食材を使って食べ物を作れるんだけど。
その中で、マルデアのプレイヤーたちから多数疑問が出たメニューがある。
「カレーライスってなに?」
この質問、通話でも結構多かった。
マルデアにはもちろん、多種多様なスープ料理がある。
でも、あんなにドロドロで米と一緒に食べる辛いスープはない。
「今回食べて頂くのは、ゼルドに出てくるカレー料理です!」
「おおっ、あのカレーか」
「一度食べてみたいと思ってたのよねえ」
会場のゲーマーたちから、喜びの声が上がる。
やっぱり気になってたみたいだね。
モント夫妻が、鍋に用意した熱々のカレーを持ってやってくる。
「香ばしい香りだな」
「あれがカレーなの?」
匂いに寄せられて、マルデア人たちの行列ができる。
私たちは大皿に米とカレーをよそって、一人ひとりに配っていく。
早速、一番乗りのゲーマーがスプーンを口に運ぶ。
「おお、これは辛いっ」
「ええ、ヒリヒリするわね。でも食が進むわ!」
「なるほど、ゼルドの主人公はこれを食って元気をつけていたのか」
ゲームに出てくる料理の体験に、みんな喜んでいるようだ。
味も彼らの舌に合ったのか、止まる事なく食事を進めていた。




