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第八十八話 年末イベントはじまるよ!



 末の日。

 今日は、マルデアの一年で最後の日だ。


 私は朝早くから家を出て、イベントが行われる場所に向かっていた。

 やってきたのは、とある学院の敷地内。

 ここの多目的ホールを借りて、イベント会場として使わせてもらう事になっている。


 ホールに入ると、まず目に入ってくるのはズラリと並ぶアーケード機だ。

 奥には巨大モニターが用意されている。


 見れば、サニアさんがもう来ていたようだ。

 朝早くから接続のチェックを行ってるみたいだね。


「おはようございます、サニアさん」

「おはようリナ。ついにこの日が来たわね」


 二人で会場を眺めると、なかなか華やかな景色が目に映る。


 壁際には、これまで売ってきたゲームのポスターやグッズを並べて展示している。

 キャラクターフィギュアも多数持ってきたので、見ごたえはあるだろう。

 欲しがる人がいれば物販もする予定だ。


「ここ、借りれてよかったですね」

「ええ。末の日に一日いっぱい借りるのは大変だったわ」


 ゲームイベントのために場所を貸してくれる施設は、なかなか見つからなかった。

 学校関係にも問い合わせてみたら、ゲームに理解のある担当者がいて何とか話が通ったのだ。


 さて、今日はメソラさんが大役を担っている。


「ど、どうっスか?」


 控室から出てきたのは、マルオの大きな"着ぐるみ"に身を包んだメソラさんだ。

 日本から借りてきたイベント用のやつだから、出来は凄く良い。

 等身大のマルオそのものだ。


「あはは、似合ってますよメソラさん。

イベント中はなるべく喋らないように、マルオとして振舞ってくださいね」

「わ、わかってるっス!」


 メソラさんはマルオらしく、元気に拳を突き上げていた。


 と、そこへ。

 見知った顔が会場に入ってきた。

 ゲーム専門店のブラームスさんだ。


「おはようございます、マルデリタさん。

いやあ、アーケードや展示物がこんなに沢山集まるとは、凄いですな。

そちらはマルオの着ぐるみですか。ははは、賑やかで楽しそうだ」


 彼は嬉しそうにメソラさん演じるマルオに手を振りながら、ホールの様子を観察していた。


 それから少しすると、一般のお客さんも入り始める。


「おおっ、すげえ! これがゲームイベントか!」

「アーケードがいっぱい、それに展示物も凄いな」

「何あれ、マルオがいるわよ!」


 お客さんたちも、私たちが作った場の雰囲気を喜んでくれているようだ。

 みんなメソラさんマルオとハイタッチして、早速ゲーマー同士で交流を始めていた。

 広い場所を借りて本格的にやるイベントは初めてだからね。


 朝から集まってきたお客さんは、百人以上にはなるだろうか。

 親子連れもいる。


「うわあ、ママっ。マルオだよ!」


 子どもは、初めて見る等身大マルオに大はしゃぎだ。

 大人たちはというと、展示場に集まっていた。


「このゼルド人形は素晴らしい出来映えだな……」

「ドラクアの勇者だ! 家に飾りたいぜ」


 どうやら、フィギュアに目を奪われているようだ。

 まだイベント開始前だけど、会場はなかなかの盛り上がりだ。



 そんな一般客の和やかなムードとは逆に、トーナメントの参加者たちは真剣そのものだ。

 彼らは設置されたアーケードで事前練習に励み、火花を散らし合っていた。


 その中には、まだ学生くらいの少女もいる。

 あの子、ニニアちゃんだっけ。

 彼女もスタ2の台に腰かけ、手を慣らしているようだ。



 他にも、外国から来たのか異種族の姿もあった。


「にゃにゃっ、今日も調子がいいにゃっ」


 どう見ても猫の姿をした彼は、ニャムル人だろう。

 彼は肉球を使って、アーケードのレバーを器用に操作している。


 それを見たブラームスさんが、感心したように呟く。


「ガレリーナさん。国外にもスウィッツを出荷しているんですか?」

「いえ。海外はまだ障壁が多くて、後回しになっています」


 市場の壁。

 種族としての壁。

 国外には様々な障壁がある。


 そんな中、会場にまで来た外国人たちはどうやってゲームと出会ったのだろうか。

 少し気になる所だ。


 私は試しに、近くにいたネズミっぽい種族の人に声をかけて見る事にした。


「あの、すみません」

「何だチュウ?」


 うん、おっきなネズミが普通に喋っている。


「あの、ネズム王国の方ですよね。私、ガレリーナ社の者です。

どうやってビデオゲームを知ったのか、お尋ねしてもよろしいですか?」


 私が質問を投げかけると、彼はこちらに振り返る。


「うちの国では、ゲームは売ってないチュウ。

でもネットでぷやぷやを見つけて、凄く面白そうだったチュウ。

それで、マルデアから仕入れて遊んでたチュウ」


 やっぱりネット経由で知ったみたいだ。


「このイベントの事もネットでお知りになったんですか?」

「そうだチュウ。年末は休暇だったから、思い切ってマルデア国まで来たチュウ。

アーケードに触れるのは今日が初めてで、感激だチュウ!」


 彼は満面の笑みで、ぷやぷやの台を撫でていた。


 サニアさんの元に戻ると、彼女はなんだか嬉しそうだった。


「コアなゲームファンは、国外にもいるのね」

「ええ、ありがたい話ですね」


 マルデアでゲームが始まったこの年。

 ファンたちが最後の日に、素敵な時間を作り上げようとしている。


「主催者として、しっかりやっていきましょう」

「もちろん。私が司会なんだから、絶対盛り上げるわよ」


 サニアさんは拳を上げて、意気込んで巨大モニターの前に向かう。


「みなさん、おはようございます! ガレリーナ社の攻略担当、サニア・ベーカリーです!

公式チャンネルで私の事見てくれてるって人、いるかな?」


 サニアさんが右手を上げると、会場にいる全員が一斉に手を上げる。

 さすがはイベントに来るコアなファンたちだ。

 サニアさんも、この知名度には面食らっていた。


「わあ、ありがとう! 私ほんとに嬉しいわ。

今日はマルデアにビデオゲームが上陸した記念すべき年の、最後の日。

最高のイベントにしていきましょうね!」


 元気な司会の声に、ゲーマーたちが歓声を上げる。

 さあ、イベントの始まりだ。



 今日はゲームのトーナメント大会が中心になるんだけど。

 もちろん、それ以外にも見世物を用意している。

 まずは、私の出番だ。


「おはようございます。リナ・マルデリタと申します。

これからメインのゲーム大会に入るんですが、その前に一つ。

私から地球で撮影した映像をご紹介したいと思っています。

それでは、こちらをご覧ください」


 私の合図で、フィオさんがデバイスを使って映像を再生する。

 すると、巨大モニターに見慣れたビルが映し出される。

 私もよくお邪魔するNikkendoの京都本社だ。


 敷地内には、沢山の社員たちが立っていた。

 その中から、老齢の男性がカメラの前に出てくる。


「マルデアのゲームファンの皆さん、こんにちは。

僕たちは、この会社でずっとゲームを作ってきた地球人です。

後ろに見えるビルの中で、マルオやゼルドなど、沢山のビデオゲームの開発に携わってきました」


 開発者の生の声に、会場が静まり返る。

 モニターに映る日本人男性は、スウィッツを手に微笑みながら続けた。


「今年はマルデアの皆さんが我々のゲームに初めて触れ、楽しんで頂けるようになりました。

リナさんから沢山のお客さんの声や、マルデアの現地映像を見せてもらいました。

僕たちは、とても嬉しく思っています。

リナさんや、遊んでくれるみなさんに、我々全員から感謝を述べさせて頂きたいと思います。

ありがとう!」


 映像に映った社員みんなが、「ありがとう!」とマルデア語で繰り返す。


「あれが、マルオを作った地球人たちなのか……」

「か、感激だ……。ゼルドを生み出した人々を見れるなんて!」


 ゲームファンたちは、クリエイターの姿が見れたことに感動していた。


 それからも、モニターに各社のクリエイターたちが出てきて、マルデア人に感謝の言葉を述べる映像が続く。


「スタ2を遊んでくれてるみんな、ありがとうな!」

「ぷやぷやの大会、楽しんで行ってね!」


 各ゲームのファンたちは、自分が贔屓する作品の作り手が出てくると、両手を上げて喜びを表していた。


「このイベントに来てよかったわ……」

「ああ。遠い星にいる作り手の声が聴けるなんて、思いもしなかったよ」


 漏れ聞こえるお客さんたちの声は、とても嬉しそうだ。


「掴みは上々ね」

「ええ」


 私と頷き合うと、サニアさんが再び前に出ていく。

 さあ、ここからがイベント本番だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] イベント事のシーン凄く良いなあと思う 特にスタッフの映像の辺り良いです
[一言] ネズム王国の方は青いハリ「ネズミ」じゃなくぷやぷやに魅了されたのかぁ。 青いのだけじゃなく黒いのや黄色いのもいて、彼らに地球ではネズミキャラが大人気だって教えたらどうなるんだろうw
[良い点] 知っているゲームが出ててすごい面白いです。 [一言] 毎日楽しみにしております‼︎
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