表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/171

第八十六話 年末のゲーム需要はやっぱ凄い


 午後。

 私は販売店の様子を見るため、首都の大通りに向かった。

 本格的に年越しシーズンに入って、通りを彩る店の飾りが豪華になってきている。


 お世話になっている大きな玩具屋さんの店先でも、にぎやかな魔術灯が沢山光っていた。

 お客さんの入りも、いつもより多いようだ。


「ねえ、アルセイアの朝にスウィッツ買ってよぉ!」


 中に入ると、子どもがゲームの棚の前でおねだりしている姿がある。

 アルセイアの朝とは、元日の朝の事だ。


 子どもたちにとっては、プレゼントがもらえる日なんだよね。

 地球で言えばクリスマスの朝のような嬉しい瞬間、なんだけど……。


「申し訳ありません。

スウィッツは現在売り切れで、次回入荷分も予約で埋まっておりまして。

年明けまでに用意できそうもないんです」

「ええー!?」


 謝罪する店員に、子どもが不満の声を上げる。

 どうやら、ほんとに売れまくっているらしい。

 実はうちの実家の店も本体の在庫がないんだよね。


 新しく仕入れた五万五千台はどんどん出荷してるんだけど……。

 ともかく、話を聞いてみよう。

 カウンターで待っていると、馴染みの店長がやってきた。


「いやあ、驚くばかりだよ。

玩具屋は年明けのプレゼント需要が高まるので準備はしていたんだけどね。

ゲームを買う人がこんなに増えるとは、さすがに予想外だよ」


 客対応に追われているのか、店長は少し疲れた顔をしている。

 やはり、クリスマスに近い売れ方になっているらしい。

 まだ地球に比べれば販路は小規模だけど、それだけ欲しがっている人がいるのは嬉しい事だね。


「オールスターソフトやマルオカーツなどのソフトも品薄が続いているんだ。

増産を進めてもらえると、子どもたちもきっと喜ぶと思うよ」


 当然、店長さんは発注を増やしたい様子だった。


「はい、また地球の方で話してみます。

ただ今月は難しいので、なるべく多くのご家庭に行きわたるような形で販売して頂けませんか。

本体は一家に一台限定で売るとか、そういう制限を作ってもらえればと」

「うむ、その方がいいだろうね。買い占めを防ぐように、うちでも努力するよ」


 こうした品薄が起きた時、地球では転売問題がよく起きる。

 売り切れやすい商品を買い占め、ネットなどで高値をつけて売りさばく行為が横行するのだ。


 ただマルデアでは、そうした行為はあまり出来ないようになっている。

 ネット通販は政府が管理しているから、素人が転売に手を出すのは難しいんだよね。

 まあ、その辺は気にしてもしょうがないんだけど。



 私は玩具店を出て、その足でマジック・ランドへと向かった。

 新作アーケードの発注があったので、直接配置しに行くのだ。


 遊園地に関係者として入れてもらうのって、なんか嬉しいよね。


 さっそくスタッフルームにお邪魔して、営業の方に挨拶する。

 

「おお、これがフェイナルファイツですか!

遊びがいがありそうだ」


 アーケードを見せると、彼は最初から好感触のようだった。


「はい。少し難易度は高いですが、その分長く楽しんでもらえるゲームです。

協力して遊べるので、娯楽施設では一層盛り上がると思います」

「それはいいですね。

今は年末で家族連れのお客さんが増えて、休憩所のゲーム置き場も盛況でして。

新作ゲームがあれば、また集客が見込めそうですよ」


 営業の人は嬉しそうに語っていた。


 新台を設置するため、私は園内にある休憩所へと向かう。

 そこには、アーケードで盛り上がる一般客の姿があった。


『えいっ、ふぁいおー、あいすすたーむ!』

「やった、三連鎖だ!」

「おっ、坊主うまいなあ」


 なんというか、ブラームスさんの専門店とはだいぶ違うカジュアル感がある。

 遊園地のお客さんだからね。


 普段あまりゲームに触れない人が気軽にワンコインで楽しんでいるみたいだ。

 私が新台を設置すると、やはりみんなが集まってきた。


「へえ、二人で挑めるゲームか。こりゃ新しいな」

「あなた、やってみる?」


 男女で挑戦し始めたのは、夫婦らしい。


「パパ、ママがんばれー!」


 小さな子どもが、後ろから応援していた。

 年末の休みで、アーケードもフル稼働のようだ。


 何もかも順調……。のようには思える。

 でも、まだまだ普及は始まったばかり。

 乗り越えなきゃいけない壁は沢山ある。

 マルデアの国外なんて、一歩も手をつけてないからね。


 ただ今月は品薄で首都圏に売るだけで精一杯だ。

 新たな挑戦はまた来年になるだろう。

 私は楽しそうに遊ぶ人々を眺めながら、懐かしいゲームの思い出に浸っていた。


 とそこへ、デバイスに通話のコールがあった。


「はい、マルデリタです」

「リナ? ちょっと話があるんだけど、いいかしら」


 かけてきたのは、社員仲間のサニアさんだ。

 彼女から話を聞くと、ちょっと無視できない内容のようだ。

 私はすぐにマジックランドを出て、会社へと向かった。



 ガレリーナ社のオフィスに入ると、社員のみんなが集まっていた。


「中古販売、ですか」


 私が呟くと、サニアさんが神妙に頷く。


「ええ。まだほとんど出回ってはいないみたいなんだけど。

デバイス街でスウィッツを中古で売ってる店を見つけたわ。

品薄な状況もあって、新品より10ベル安いくらいの高値で売ってたけど」


 どうやら彼女は、自分で中古屋を見てきたらしい。


 中古で販売されるゲームは、売れてもウチの売上にはならない。

 魔石を買うための資金にはならない。

 だから、決して味方というわけではない。


 とはいえ、慌てても仕方がない。

 中古販売はマルデアでも合法であり、法律に従っている限り問題はないのだ。


 中古が出たという事は、それだけゲームがマルデアの世間に普及したという事。

 人気が出てきたという事でもある。

 むしろ、一歩前進したと考えるべきだ。


 それに、中古があっても地球のゲーム市場は成立してきたからね。


 ただ、地球の歴史を知らない社員たちは不安そうだ。

 私が安心させてあげないと。


「中古については、それほど問題視する必要はないと思います。

幸い、マルデアでは地球の歴史から選りすぐりの名作をバンバン出してますから。

スウィッツに飽きて中古に売る人も少ないと思います」

「うむ。お客さんの多くが、自分のゲーム機やソフトを大切にしていると聞いている」


 ガレナさんの言葉に、みんな嬉しそうに頷いていた。


 地球においては、ファミコムやスーファム時代、多種多様なゲームが発売された。

 その中には、いわゆるクソゲーと呼ばれるものもあった。


 ネタとして楽しめるならまだいいが、『つまらないだけ』のゲームも山ほど出たのだ。

 当時はネットもなく、パッケージの絵で購入を決めてハズレを引いた人も多い。

 大損したと後悔して、ゲーム自体やめちゃった人もいる。


 でもマルデアのゲーム市場は、ガレリーナ社によって管理されている。

 発売するゲームは今後も優れた作品が中心になるだろう。


 マルデア人たちがクソゲーに触れ、失望してゲーム機を売り払うような事はない。


「そういうわけで、あまり中古の事は心配しなくてもいいですよ」


 私がみんなに語ってみせると、サニアさんが思案げな顔をした。


「それにしても、クソゲーってどんなのかしら。一度やってみたいわね」

「そうっスね。うちらリナさんが持ってきた名作しかやってないスから。

クソみたいなゲームがどんなのか気になるっス!」


 メソラさんも他のみんなも、興味深々だ。

 さすがはガレリーナ社員たち。

 時間を無駄にする行為に自ら志願してくる。

 クソゲー愛好家にならないよう、注意してほしい所だ。


 ていうか、今はそんな話してる場合じゃない。


「クソゲーはそのうち持ってきますから。今は年末の大切な時ですよ。

サニアさん、末の日イベントの準備は進んでますか?」

「もちろんよ。ゲームファンが喜ぶ一大ゲームイベントにしてみせるわ!」


 サニアさんが任せろとばかりに胸を張る。


 一年の最後の日に、私たちは今年最後の花火を打ち上げる予定だ。

 それなりの会場を一日借りて、ゲームの催しや大会をやる事になっている。


 ちょっとしたサプライズや出し物も用意してるし、ゲーマーたちの喜ぶ顔が楽しみだ。

 以前から販売店で告知をしてるから、きっとそれなりの人数が集まると思う。


 ゲーム屋にいたあの子も、来てくれるかな。

 そんな期待を胸に抱きながら、私たちは準備を進めていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 中古販売がいたりするのを心配するよりも修理やメンテナンスできる人材が現状いないことのほうが心配になってしまいます…。
[良い点] 嗚呼!!!!クソゲーの沼にズブズブ!なメンバー たちwwww 期待♬︎♬︎
[一言] 自分としては、 たけしの挑戦状と未来神話ジャーヴァスをお勧めする あとゴーストバスターズ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ