第八十五話 最強のコンビ!
マルデア星。
いつものように研究所から出て外を歩くと、街はなんだかお祭りモードだ。
どこの店も賑やかな飾りをして、人を呼び込んでいる。
地球はもう年越しを終えたけど、こっちはこれから年末に入っていく感じなんだよね。
マルデアの元日は、有名な魔術が生まれた日を基準にしている。
魔歴0年、一月一日。
この日、大魔術師アルセイアが世界初の空間転移を成功させた。
ワープは、マルデア史上最大の発明と言われる魔法技術だ。
その誕生日という事もあり、年末年始は盛大なお祝いシーズンになる。
通りを歩く人々は、心なしかそわそわしている感じがある。
年末用のケーキを買ったり、ご馳走を用意したり。
少し羽振りがよくなる時期でもある。
私はガレリーナ社のビルに入り、いつものように階段を上がる。
すると、フィオさんの通話対応の声がした。
「ええ、すみません。もう少しで届くと思うのですが。はい、到着次第すぐに送らせて頂きます」
どうも、普段とは様子が違うようだ。
「ただいま戻りました」
オフィスに入っていくと、みんなが待ってましたとばかりに振り返る。
「おかえりリナ。いきなりで悪いんだけど、スウィッツは?」
詰め寄ってくるサニアさんに、私はポケットからカプセルを取り出す。
「ここに入ってますよ。なんと、五万五千台です!」
「五万か。足りんな……」
こちらが自信満々で数字を告げるも、ガレナさんは頭を抱えてしまう。
どうしたんだろう。
「足りないって、今までで一番多く仕入れたんですよ?」
「それでも全然不足っすよ。今もう、めちゃくちゃな勢いで発注が入ってるっす」
メソラさんはデバイスに目を落としながらため息をついている。
サニアさんもデスクに肘をつきながら、疲れた様子だ。
「年明けに子どもにスウィッツをプレゼントしたいって、お客さんの数が凄いのよ。
オールスターゲームの需要も高いし、品薄すぎて苦情の通話が殺到してるわ」
思ったより年末の勢いは凄いらしい。
とはいえ、ゲーム機本体はすぐ追加を用意できるものではない。
「まあ、今月はある分で行くしかないですね……。
それより、新しいアーケードを受け取ってきましたよ」
「ほんと!?」
「待ってましたっス!」
話題を変えると、サニアさんたちは一気に笑顔になって立ち上がる。
まったく、新作ゲームの事になると変わり身の早い人たちだ。
みんなに急かされ、私は輸送機からフェイナルファイツの台を出した。
「おーっ! これが噂の協力ゲームっすか!」
「きたきた、きたわよ!」
新しいアーケードが来ると、やっぱり盛り上がっちゃうんだよねえ。
存在感が違うっていうかね。
早速とばかりに、ガレリーナ社員たちはゲームに群がり始める。
「あの、今から遊ぶんですか?」
私が問いかけると、サニアさんはこちらをギロリと睨む。
「これは遊びじゃないわ。新商品のチェックという重要な仕事よ!」
「そうっす! プレイしてみないと、お客さんの声にも答えられないっス!」
血走った目でフェイナルファイツにしがみつく二人。
これはしばらく離れないだろうね。
まあ、営業する商品の知識が必要なのは事実だ。
「仕方ないですね。存分にテストプレイしてください」
「副社長の許可が出たわ!」
「さすがっス副社長!」
調子のいい二人だ。
彼女たちは早速、協力プレイで町の荒くれ者たちと戦い始めた。
「このチンピラども、鉄パイプでボコボコにしてやるわっ」
「サニアさん、こっちに危ない物を向けないでほしいっス!」
息が合っているのか何なのか。
まあ、楽しそうで何よりだ。
さて、入荷分を会社に置いたら、とりあえず今日の仕事は終わりだ。
私はワープステーションを経由して、一週間ぶりに我が家へ帰る事にした。
実家に戻って裏手に出ると、店の前で子どもたちが騒いでいた。
何やら今回は二つのグループに分かれて喧嘩をしているようだ。
「Final Fantasia5の方が職業もいっぱいあって、ストーリーが凄いわ!」
「ドラクア5の方がモンスターを仲間にできるから面白いだろ!」
今度は二大RPG論争が巻き起こっている。これは根が深いよ。
永きに渡って続いているライバル関係だからね。
「Final Fantasiaの世界は、こーんなに広いんだから!」
「そうだよ、第三世界まであるんだ!」
カレンちゃんのグループは、ゲームのスケールの大きさを小さい手で精一杯表現している。
「ドラクアは主人公がお父さんを殺されて、つらい思いをしながら育っていくんだぞ!」
「そうそう。結婚して子ども作ってな……。色々あったよ」
トビー君のグループは、ストーリーの深さを主張している。
小学院の子どもが結婚の思い出をしみじみと語ってるのが面白い所だ。
まあ、お互いに気持ちはわかる。
でもこのままいくとケンカになりそうだったので、私は仲裁に入る事にした。
「はいはい、どっちも良いゲームなんだから喧嘩しないの。ここで遊ぶなら仲良くね」
声をかけると、二人はしぶしぶと引き下がっていた。
冬の寒い中でゲームに熱くなれるのは良い事なんだけど。
この子たちに協力プレイなんて出来るんだろうか、ちょっと心配になるね。
「あら、帰ってたのねリナ。おかえりなさい」
と、店の中から母さんが声をかけてきた。
「ただいま、お母さん」
やっぱりここに帰ってくると、私は安心してしまう。
十六歳になったけど、まだまだ大人には程遠いかもね。
その日はお母さんの作った温かい鍋を食べて、ゆっくりと夜を過ごした。
翌朝。
母さんのお店には、早速フェイナルファイツのアーケードがドンと設置されていた。
「協力するゲーム!?」
「なんだそれっ?」
近所の子どもたちが、さっそく新作ゲームの映像にかじりついている。
「二人で一緒に助け合ってクリアを目指せるんだよ。
敵がいっぱい出てくるから、ちゃんと力を合わせないと進めないよ~」
私はあえて二人プレイを促すように説明してみた。
昨日のいがみ合いの事も考えて、彼らに協力の精神を身に付けてもらいたいのだ。
「ねえ。このゲーム、スタ2に似てない?」
と、一人の少年がぽつりと呟く。
「あ、良い所に気が付いたね。スタ2と同じメーカーが作ってるんだよ」
当時のCAPKEN独特のテイストや雰囲気は、子どもにも伝わっているらしい。
「じゃあ、スタ2が上手い二人が挑戦してみたらどうかな?」
一人の少女の提案に、隣の少年が頷く。
「そうだよ。トビー君とカレンちゃんなら、最初から良い所までいけるかも!」
周囲の子どもたちの声に、昨日ケンカしていた二人が前に出てくる。
「仕方ないわね。トビーとは意見が合わないけど、今だけは協力してあげるわ」
「それはこっちのセリフだぜ。足手まといになるなよカレン」
憎まれ口を叩きながらも、がしりと手を組む最強のコンビ。
スタ2で自信をつけたキッズたちの挑戦が今、始まる。
「せーのっ」
二人同時にコインを入れ、緊張のファーストプレイ。
キャラクターを選び、早速バトルステージとなる街に出る。
「俺は右の奴をボコるぞ!」
「じゃあ私はこっち!」
二人はガチャガチャとレバーを操作し、町に出てきたチンピラたちに勢いよく殴りかかっていく。
だが……。
「くらいなさいっ、ラリアーット!」
「ちょ、オレにも当たってるって!」
カレンちゃんの攻撃は、勢い余ってトビー君のキャラを吹っ飛ばしてしまった。
当然、味方にダメージを与えてしまう事になる。
このゲーム、協力して二人で遊べるのはいいんだけど。
間違ってお互いの邪魔をしてしまう事も多いんだよね。
だから、仲間を気遣う連携がカギなんだけど。
「回復の肉、もらうぞ」
「あ、私が出したお肉なのに!」
体力回復のアイテムを奪い合う始末だ。
結局、1ステージもクリアできずに二人とも死んでしまった。
「くそっ……」
「負けちゃったわぁ……」
ゲームオーバーの画面に頭を抱える最強コンビ。
その光景に、周囲の少年たちも震え上がる。
「こ、この二人がこんなにあっさり……」
「なんて難しいゲームなんだ……!」
みんなちょっと怯えてるね。
仕方ない。一言くらいアドバイスしておこうかな。
「二人とも、お互いの事を見てなさすぎるよ。もっと息を合わせないとね」
私の忠告に、トビー君たちは互いを睨み合う。
「あんたが私のお肉を取るからよ!」
「お前が俺に攻撃するからだろ!」
ケンカになりそうな二人を、眼鏡の子が冷静に止めに入る。
「落ち着こうよ二人とも。このゲームはいがみ合ってちゃ攻略できない。
僕たちの資金は少ないんだ。次への対策を考えよう」
キリリとした知性派少年の言葉に、二人はしぶしぶと頷く。
「わ、わかったわよ……」
「仕方ねえ……。攻略のために、いったん停戦だ」
少年たちは路上で集まり、ゲームの進め方について語り合い始める。
うん、良い光景だ。
これを機に、みんな仲良くなるといいね。




