表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/171

第八十四話 テレビだよ


 その夜。

 私は都内某所にあるテレビ局のビルに足を踏み入れた。

 局のお偉いさんと挨拶を済ませ、会議室へと向かう。

 番組プロデューサーの男性は、私を見て驚いていた。


「いやあ、本当に来てくれたんですね。ありがとうございます。

まさかお話を受けてくれるとは思いませんで、リナさんがゲーム好きだからとダメ元でオファーしてみた次第でして……」

「いえいえ、歴史ある番組にお呼び頂けて嬉しいです」


 オファーを受けたのは、大晦日のゴールデンに生放送する特別番組だ。

 番組名は『大晦日のゲームセンカーGX 特別編』とある。


 ゲームセンカーGXは、2003年から続くレトロゲームにフォーカスした番組だ。

 部長という芸人さんが、毎回いろんなゲームに挑戦している。

 yutubeで私も何度か見た事がある人だ。

 もうこれは、番組のオファーを見た瞬間に即決だったよね。


 今回は特別編で、内容は普段とはちょっと違うらしい。

 リハーサルをする時間もなく、私はすぐに舞台袖からステージに出た。

 すると、客席からどよめきが上がる。


「きゃー! リナだわ!」

「え、ほんとに本物が来たの……?」


 熱狂する人もいれば、リナが来ることにまだ疑いを持つ人もいた。

 なんか照れるので、私はいそいそとゲスト席に向かう。


 司会側には、GXの部長さんとアナウンサーの女性が立っている。

 出演者は私を含めて三人と、大晦日のゴールデンに何とも潔いキャスティングだ。

 ざわつく客をスタッフが何とかなだめ、生放送が始まった。

 アナウンサーがマイクを口元に運ぶ。


「こんばんは。『ゲームセンカーGX』です。いつもとは違った雰囲気ですが……。

いやあ部長、本当にリナ・マルデリタさんが来てくれましたね」


 感激した様子のアナウンサーに、部長も大きく頷く。


「ええ、びっくりですよ。普通大晦日なら出るとしても紅白でしょ。

リナさんのテレビ初出演を僕が司会するとか、ちょっと恐縮しますよ。

いいですかお客さん。今日来てくれたのはモノマネ芸人じゃなくて、本物のリナさんですからね!」


 芸人さんらしく冗談を入れる部長さんに、客席から大きな歓声が上がる。


 今日の番組内容は、『リナ・マルデリタにゲームクイズを出してみよう!』という企画だ。

 部長が私にゲーム関連のクイズを出して、どれだけ答えられるかを見守る。

 そんなシンプルな内容になっている。


 ただクイズって、ビデオゲームの立派なジャンルとして存在するんだよね。

 アーケードでも四択クイズとか定番だったし。

 『黒猫のウォズ』みたいなクイズを取り入れたRPGもある。

 そんなわけで、私もこの企画に一つのゲームとして挑もうと思っている。


 と、アナウンサーがこちらに視線を向けた。


「さて。クイズに入る前に一つ、リナさんにお伺いしたい事があります。

今年の一月から地球に来て、いろんなゲームをマルデアに輸入されたわけですが。

どうしてビデオゲームを輸入品に選ぼうと思ったのですか?」


 もっともな疑問に、私は頷いて答える。


「それはもちろん、地球のゲームが面白かったからです」

「ははは、端的で清々しいくらいの答えですね」


 部長が笑うと、アナウンサーもつられて笑顔で頷く。


「遠い星の人たちが私たちのゲームを楽しんでくれているというのは、とても嬉しい事ですね。

リナさんは日本のゲームに詳しくなったとお聞きしていますが、クイズの自信はありますか?」

「そうですね。レトロゲーム方面なら結構いけると思います」

「なるほど、自信たっぷりという事で。では、始めて行きましょう!」


 アナウンサーの合図で、クイズのイントロ音がした。

 部長が真剣な表情でこちらを睨みながら、問題を読み上げる。


「では最初の問題です。リナさんはスウィッツのメーカーさんと付き合いが深いようですが。

あのメーカー、実は100年以上の歴史を誇る老舗企業なんですね。

でも百年前の地球にはゲームなんてありませんでした。

では、最初は何を作っていたのでしょうか?」


 ふむ。最初の問題としては、ちょうどいいくらいだろうか。


「花札ですね。創業は1889年で、最初から娯楽品を売る企業だったと聞いています」


 即答する私に、お客さんから「おおー!」と拍手が巻き起こる。

 ちょっと答えただけなのに、恥ずかしいね。

 部長も笑顔で手を叩いてくれていた。


「さすがリナさん、正解です。やはりそっち方面にはお詳しいようですね。

では次の問題です。初代ポケッツモンスター赤緑では通常、150匹のポツモンしか捕まえる事はできません。

しかし、151匹目が実在しました。一体何だったのでしょう?」

「幻のポツモン、ミウですね。公式からの配布か、バグ技で見る事が出来ます」


 これも簡単だ。

 普通には手に入らない『幻のポツモン』という存在のワクワク感。

 これを考えた人はすごいよね。


 さすがにメジャーすぎると思ったのか、部長はクイズの難易度を変えるようだ。


「なかなか詳しいですねリナさん。じゃあ、次はちょっと難題です。

世界で初めて音楽ゲームとして成功した、元祖リズムゲームと言えばなんでしょう?」


 苦い顔で問いかける部長だが、ゲーム史を調べるのが日課の私に隙はない。


「1996年に発売された、パラップ・ラッパーです」


『パラップ・ラッパー』は、気弱な少年がラップを通して成長していく不思議なゲームだ。

 リズムにしっかり合わせてボタンを押せば、Good評価がもらえる。

 そんな音楽ゲームのベースを築いた、歴史的作品だ。



 その後も部長は、色々な分野のクイズを出してくる。


「マイ・クラフトでエンディードラゴンに会うために必要なアイテムは?」

「12個のエンディーアイです」


「モム鉄でキングビンボーに連れていかれる地獄の世界と言えば?」

「ビンボラス星!」


 そんなに難しい問題は用意されていないのか、私はバシバシと答えを出していった。


「なんと、見事に全問正解です! リナさんには、温泉旅行の旅をプレゼントします!」

「まあ、リナさん忙しくて温泉行く暇ないでしょうけどね」


 部長が冗談を言って、オチがついたようだ。



 クイズが終わった後、私はカメラの前で視聴者に向かってメッセージを送る事になった。

 好きに話していいという事だったので、年末の挨拶でもしておこう。


「日本のみなさん、こんばんは。リナ・マルデリタです。

マルデアでは今、大衆がビデオゲームという娯楽の存在に気づき始めています。

日本のクリエイターたちが作ったゲームを、マルデア人たちは夢中で楽しんでいます。

素敵な作品たちを生み出してくれた皆さんに感謝しています。

来年も何度も日本に来る事になると思うので、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げると、拍手の音が止む事なく響き続ける。

 そうして、私のテレビ初出演は終わりを告げたのだった。



 テレビ局から出た後、日本のSNSを見るとネットが妙な沸き方をしていた。


xxxxx@xxxxx

「リナ・マルデリタが日本のテレビに出てクイズに答えてる!」

xxxxx@xxxxx

「初共演タレントがGXの部長w」

xxxxx@xxxxx

「ていうか、やっぱゲーム詳しいんだね」

xxxxx@xxxxx

「一生懸命メーカーの名前答えてるリナちゃん可愛い!」

xxxxx@xxxxx

「地球のゲームにあんなに熱心になってくれてるんだから、嬉しいよな」

xxxxx@xxxxx

「ゲームの事はわからないけど、何となく心が温まったよ」

xxxxx@xxxxx

「速報! リナが出た番組の視聴率、31%だって」

xxxxx@xxxxx

「紅白の裏で部長とクイズやっただけで31%とか、バケモンだな」

xxxxx@xxxxx

「そりゃリナ・マルデリタがほんとにテレビ出てるんだもん。見るよね」

xxxxx@xxxxx

「マニアックなリナたんもいい」

xxxxx@xxxxx

「部長のゲーム愛が星を越えたんだな……」



 GXのファンたちも盛り上がっていたようだ。 

 奈良の母さんからも、出演後にメールが来ていた。


『あんた、またゲームの仕事ばっかりして。お母さんクイズ全然わからへんかったわ。

でも、リナの元気な顔見れてよかったよ』


 どうやらちゃんと見てくれたみたいだ。まあ、目標は達成したという事にしよう。



 さて。

 地球の年末が終わり、私も星に帰る時間だ。

 一週間ずれて、これからマルデアの年末がやってくる。

 忙しくなりそうだね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ビンボラス星 キングビンボー なんだかネタが一周まわった感! 妙におもしろかったです!
[一言] >お母さんクイズ全然わからへんかったわ 僕もゲーム好きなのに一問も判らなかった 任天堂もズバリ最初の花札ではなく、 トランプとかの玩具を作ってた程度しか知らなかったし
[良い点] ◯ームセンターCX要素まで取り入れてくるとは...! リナちゃん相手にも臆せず普通の態度で冗談を言ったりしてるのが課長らしくて良いと思いましたw [一言] 最近一番更新を楽しみにしてます…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ