第八十三話 協力型ゲーム
クロエさんとの別れを済ませた後。
私はパリで政府と挨拶を済ませ、魔術品のお土産を渡した。
それが終われば、もうフランスともお別れだ。
後で知った話だけど、クロエさんが描いた私の絵は学生コンクールで佳作に選ばれたそうだ。
「少女のひととき」というタイトルで、公式サイトに論評とともに掲載されていた。
審査員の評価はこうだ。
『リナ・マルデリタの英雄的な影響力や象徴性を描いた絵が多い中。
「少女のひととき」は飾らない少女の姿を、優しいタッチで描いた作品である。
等身大のリナ・マルデリタは、こんな風に素朴なまなざしで地球を眺めているのではないか。
そう思わせる妙なリアリティを持っている』
どうも、なかなかの高評価だったらしい。
まあクロエさんは生の私を見ながら描いたから、リアリティはあるんだろうけど。
それでも私を魅力的に描いてくれたのは、彼女の実力だろう。
さて。
芸術の国を発った後。私はいつものようにニューヨークへ降りた。
国連本部の会議室に入ると、お馴染みの頭髪が心配な外交官と向かい合う。
「マルデリタ嬢、フランスの旅はどうだったかね。芸術鑑賞を楽しんだそうだが」
「ええ、素晴らしい絵を沢山見せてもらいました」
絵の話をすると、スカール氏はすかさずアメリカの芸術について語り始めた。
母国のアピールも忘れない立派な外交官である。
ただ芸術に詳しくない私は、アメリカの絵と言えばネットで見たアレを思い出す。
リナ・マルデリタがアメリカの有名なヒーローたちとコラボしてるファンアートなんだけどね。
私がスパイディマンやバッツマンなんかと並んで、勇敢な英雄として描かれてるんだよ。
恥ずかしかったけど、凄くアメリカらしくてカッコいい絵だと思った。
会議を終えて魔石を譲渡したら、アメリカでの取引は終わりだ。
再び空の旅に出た私は、今度は日本へと向かう。
そう言えば絵で思い出したけど、日本の絵も特徴的だよね。
ビデオゲームの世界でも、日本のゲームの多くは見ただけで和製とわかるビジュアルを持っている。
移動中にSNSでツイットーを見ると、私のイラストや漫画を描いてる人も大勢いる。
エルフ少女のリナが、元気に色んな国を旅してる絵をよく見る。
三頭身くらいにデフォルメして描かれてたりして、凄く可愛い。
とても日本らしいと思う。各国に特徴があって何よりだ。
そんなこんなで羽田に降りたら、いよいよゲームのお仕事が始まる。
最初に向かったのは、格ゲーでお馴染みのCAPKENだ。
今回はスタ2ではなく、新作の受け取りが目的だ。
そのタイトルは、『フェイナルファイツ』。
1989年に生まれた、当時のアーケードを代表する名作の一つだ。
個性的なファイターを動かし、町の荒くれ者を倒してステージを進んでいく。
ゲーム内容はシンプルながら熱い。
このゲームの特徴は、二人で協力して遊べるという点だ。
スタ2が対戦型ならこちらは協力型ゲームであり、友達と一緒に大量の敵をねじ伏せていくのが醍醐味だ。
マルデアで協力型のゲームが本格的に登場するのは、今回が初となる。
やっぱり、一緒に支え合うゲーム体験ってのもいいよね。
まあ、プレイによっては邪魔し合う事も多々あるんだけど。
私は会議室に置かれた、懐かしのアーケード機に触れてみる。
これ、前世の当時アーケードで見た時に凄い豪華なゲームに見えたんだよね。
やりたかったけどお金がなくて、近所のお兄ちゃんがプレイしてるのをじっと見てた記憶がある。
「お嬢ちゃん。このゲームを輸入するなんて、いい目してるね」
話しかけてきた責任者さんは、気さくな感じのおじさんだった。
「はい、フェイナルファイツは間違いなく名作ですから」
私が自信満々に答えると、責任者さんは楽しそうに笑っていた。
「はっはっは、違いない。マルデアの坊主どもを楽しませてやってくれ!」
いい感じにはっちゃけた人だよね。
私は笑顔で握手を交わし、やり取りを終えた。
初回入荷は、五百台からのスタートだ。
でかいアーケード機は扱いが大変だから、今はこの数が限界だね。
いずれもっと良い輸送機を買えたら増やしたい所だ。
今月発売するゲームは、このフェイナルファイツ一つだ。
というのも、マルデアがこれから年末に入っていくんだよね。
イベントも用意しているし、きっと忙しくなる。
タイトルを何本も出す暇がないくらい、予定が詰まっているのだ。
Nikkendoの東京支社でも、その話が中心だった。
「マルデアの人たちは年末年始、どんな感じで過ごすんですか?」
営業部長の雑談のような問いかけだが、これも大事な市場調査だ。
「地球と同じで、みんな盛り上がります。
イベント事も多くなりますし、年の変わり目はマルデアの歴史的にも重要な瞬間です」
私の答えに、営業さんは細かくメモを取りながら次の質問を投げかける。
「では、ゲームの販売に対する影響はあると思いますか?」
「はい。年明けの日には家族にプレゼントを贈る習慣があります。
地球のクリスマスほどになるかはわかりませんが、スウィッツの需要も高まると思いますね」
「そうですか。ならば、来月分も前倒しでなんとか本体やソフトを多めに出荷しましょう」
営業部長はすぐに判断し、追加の手配を決めてくれた。
地球でも、クリスマスはゲームメーカーにとって最大の稼ぎ時だ。
子どもたちがプレゼントにゲーム機を欲しがり、親のサンタたちがお店を探し回る。
品薄になる事も珍しくない、最大のゲーム商戦期なのだ。
私たちは今後の販売プランや新作について話した後、夕方には会議を終えた。
今回は今までで最大となる五万五千台のスウィッツを用意してもらった。
その他にソフトや周辺機器を詰め込み、普通ならいつもは旅の終わりという所なんだけど。
今回は最後にもう一つだけ、日本での用事がある。
何しろ今は、日本では十二月の三十一日だ。
マルデアではまだ、年末の一週間前くらい。地球とは少しズレがある。
なので、私は地球の年末イベントに一つだけ参加してみる事にした。
というのも、以前から親友のゲンが言ってたんだよね。
『お前、日本のテレビに出ないのか? 奈良のおばちゃんも見たがってるぞ』
メディアの露出に関しては、現状では控えておこうと考えていた。
でも母が喜ぶなら、年末に一回くらいはテレビ番組に出てもいいんじゃないかな。
そう思った。
テレビ局からの出演オファーは国連宛てに山ほど来てたし、私は何に出るか考えてみた。
ただ日本のテレビと言うとやっぱり私は、前世の1995年までしか見てないわけで。
『笑っちゃイイとも』くらいしか知らないし、それももう終わったらしいんだよ。
さすがにタムリさんもお年だろうからね……。
じゃあ何に出ればいいんだろうと少しだけ悩んだ後。
私はある特別番組からの依頼を見て即決した。
やっぱり、私と言えばゲーム。
ゲームと言えば私なのである。
テレビに出るにしても、ゲーム関係の番組がいい。
そんなわけで私を乗せた車は一路、とあるテレビ局へと向かった。




