特別編 ブラームス専門店にて
今回はゲーム店に通う少女ニニア視点のお話です。
ブラームスの娯楽専門店。
最近、私はよくここに通っている。
店の中にはゲーム機やソフトが並べられ、マルオやドラクアのポスターが壁を彩っている。
入口付近には、大きな業務用のゲーム機がズラリ。
マルデアでは珍しいゲーム専門店なので、店内にはいつもゲーム好きの学生たちが集まっている。
だから、店の中ではいつもゲームの話題が飛び交ってるんだ。
「なあ、ドラクア5で結婚相手になるお嫁さん選ぶ所あるじゃん。お前どっちにした?」
「ビアニカちゃんに決まってるだろ。幼馴染の元気な可愛さには勝てんぜ」
「俺はフローレだな。おしとやかな青髪お嬢様がドツボだった」
「はあ? てめえビアニカちゃんとの思い出を忘れたのかよ!」
スタ2好きの学生たちが、新作ゲームの話で喧嘩している。
ドラクア5は、主人公が幼少期から大人に成長していく物語だ。
その過程で結婚相手となる候補の女性を二人見つけるんだけど、どっちにするか自分で選べるんだよね。
私は、まあ幼少期に共に旅をしたビアニカにしたけど……。
「ねえニニアちゃん、Final Fantasiaの話なんだけどさあ……」
と、"ぷやぷや"の席に腰かけた女の子が話しかけてきた。
「エクスカリバーとか、最強武器の名前みんなかっこいいよね。
知ってる? マサムネって、日本っていう国で作られた実在する名刀なんだって」
彼女は最近ゲームの影響で、地球文化に熱を上げている。
ネットでは色んな情報が出ているらしくて、それを熱心に調べているらしい。
新作のオールスターパッケージは、これまでにないほど凄いボリュームだった。
やっぱりマルオは楽しいし、新しいシリーズのFinal Fantasiaは色んな職業があって、カスタマイズが楽しい。
この店に来る人たちは今みんな、オールスターの話題で一色だ。
「知ってるか? メタロイドの主人公、実は女なんだってよ」
「ネットで見たぜ。短時間でゲームをクリアすれば、主人公の水着みたいな姿が見れるらしいな」
「……。やり込んでみるか。メタロイド」
「ああ。ゲーマーの性ってやつだな」
男子学生たちは、何やら結託したように小声で話し合っていた。
「あーあ。男子ってやらしいよね~」
ぷやぷや好きの女の子は、そんな様子に顔をしかめている。
でも私は、このゲームばっかりの場所が好きだ。
少なくとも、学院にいるよりは全然楽しい。
私はニニア・クロムケル。
ワネール女子学院に通う生徒だ。
はっきり言って、私は学院では落ちこぼれだ。
絶望的に魔術が下手で、学院にも筆記でなんとか合格できただけ。
マルデアでは、何においても魔術の腕が重視される。
美しく炎を描ける者。
土や物質を自在に操る者。
そういう生徒は教師たちに褒められ、学生たちの間でも憧れの的になる。
でも私は、小さな火をつけるのがせいぜい。
失敗ばかりで、みんなに笑われている。
母親はもっと頑張りなさいと言うばかりで、息が詰まる思いだった。
そんなある日、私はビデオゲームと出会った。
きっかけは、親戚のお姉さんがスウィッツを遊んでいた事だ。
彼女も魔術が苦手で、よく勤め先での苦労話を聞かされていた。
ある日、うちに遊びに来たお姉さんがこう言った。
「私でも、ニニアでも戦える世界がある。魔力の少ない者にも平等なルールだ」
お姉さんは、私にマルオカーツというゲームを遊ばせてくれた。
きらびやかな世界の中を、カートで駆け巡る。
ほんとに、魔力が必要ない。
手の技術と頭脳だけがモノを言う世界だった。
私は自然と、その世界にのめり込んでいった。
ゲームにハマった私は、近くにあったブラームス専門店に通うようになった。
初めて来た時、店の入り口で男子学生たちが格闘ゲームに熱狂していた。
そんな中に入っていくのは、少し気が引けた。
眺めていると、男子たちが声をかけてくれた。
「きみ。スタ2やってみたいの?」
「……、はい」
それが、私のスタ2との出会いだった。
「これがパンチの弱、中、強ね。こっちがキック」
隣に腰かけた男子が操作を教えてくれて、私は対戦に入った。
必殺技があるみたいだったけど、最初はパンチとキックだけで戦ってみた。
そしたら、いきなり勝ってしまった。
「お前、初心者の子に負けてんなよ」
「いや、この子普通に上手いぞ」
男子たちが騒ぎ合っている。
その後も何人かの男子と対戦して、私は二勝した後に負けた。
「ニニアちゃんって言うのか。きみ、スタ2うまいな」
男子たちが、私の腕を褒めてくれた。
今まで、誰も私の事をろくに褒めてくれなかった。
負けたのは悔しかったけど、彼らの言葉はとても嬉しかった。
それから、私はよく放課後にこの店に来るようになった。
スタ2の勝ち抜き戦をやったり、他のゲームをやってみたり。
この店に来てるゲーム好きと、ゲームの話で盛り上がったり。
そんな時間が、私にとって楽しい一時になっていた。
ここの店長はゲーム好きで、ちょっとしたイベントも開いてくれる。
この前やったのは、イラストコンテストだった。
店の客がみんなでゲームキャラのイラストを描くというだけの話なんだけどね。
ぷやぷや好きの子は、もちろん主人公のアリルを熱心に描いていた。
私も恥ずかしいけど、スタ2のリウのイラストを描いてみた。
かっこよくて、勇ましい格闘家。
その凛々しさと強さを、何とか絵で表現しようと頑張ってみた。
「はは、ニニアちゃんなかなか良いじゃん」
「リウがちょっと美青年みたいになってるな」
学生たちが私の絵を見て、楽しそうに笑い合っている。
恥ずかしかったけど、なんだか温かい気持ちになった。
「うん、良い絵だよニニアちゃん。君はリウが好きなんだね」
店長はそう言って、優しく微笑んでくれた。
その後、みんなの絵は店の壁に飾られる事になった。
勇敢なゼルドの主人公。ロッツマンにサニック。
色んな絵が並ぶ中に、私の描いたリウがいる。
私はドキドキしながら、その壁を何度も眺めていた。
そんなある日。桃色の髪をした少女が店にやってきた。
彼女は店に貼られた絵を見て、嬉しそうに声を上げていた。
「ブラームスさん、これ凄いですね。お客さんが描いたんですか?」
「ええ、そうです。うちのお客さんたちはみんなゲーム愛が強くてね」
彼女は店長と親しげに話をしていた。
「誰だろうあの人……」
私がポツリとつぶやくと、ぷやぷや少女が言った。
「知らないの? あの人が一人で地球に行ってゲームを輸入してる人だよ」
「地球に行って……」
そうか。地球産のゲームがマルデアで出たってことは、誰かが持ってきてるって事だ。
野蛮な星と言われる所に出向いて、面白いゲームを運んでくる。
私はそんな仕事に、少し憧れのようなものを抱いた。
彼女は店長と話した後、すぐに店を出ていくようだった。
「あ、あの!」
私は思い切って、彼女に声をかけてみた。
「はい?」
振り返った彼女はまだ、私と同級生くらいの年頃だった。
何か、言わなきゃ。
「私、ゲームがなかったら、ずっと退屈で……。
だから、地球から持ってきてくれて、ありがとうございます」
まとまりのない、ヘンテコな言葉だった。
この人はもう立派に働いてるのに、私はまともに感謝の言葉も言えない。
恥ずかしくなって顔を落とす私に、彼女はニコリと笑った。
「あはは。どういたしまして。地球の開発者さんたちにも伝えておくね。
これからもっと色んなゲームが出ると思うから、楽しみにしててね」
「……、はい!」
私は、どうやらとても素敵なものと出会ったらしい。
今後、どんなゲームが出てくるのか。
私は楽しみで、胸の高鳴りが抑えられないでいるのだった。
次から三章です。




