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第七十七話 十二月一日。


 休日。

 ここ数日の忙しさで疲れた事もあり、私は少し寝坊してしまった。

 今日はのんびりしながら、お店の様子でも見ようかな。

 そう考えて家の裏手に向かうと、何やら店先で二人の少年が対立して騒いでいた。


「サニックの方が速いしかっこいいから、サニックの方が強いんだぞ!」

「違うよ! マルオの方がいろんな変身があるし、ヤッスィーもいるから強いよ!」


 子どもたちによる、マルオVSサニック論争が勃発している。

 私の前世で中学生の時くらいに見たやつだよ。

 マルオは単体で戦うのか。ヤッスィーとセットなのか。

 そんな部分で議論がこじれているようだ。


 オールスター系のゲームだとマルオとヤッスィーは別々のキャラとして参戦しているけどね。

 どうでもいい話だよ、ほんと。


 手前のベンチでは、スウィッツを持ってドラクア5を遊ぶ子どもに少年たちが群がっていた。


「出たぞ、スレイムナイツだ!」

「仲間になれって祈りながら攻撃ボタン押すと、本当になるらしいぞ」

「こい、こい、こいっ」


 みんな、何とかモンスターを仲間にしようとしているらしい。

 スレイムナイツは、回復魔法を使える剣士としてカッコイイから人気だよね。

 願掛けを大真面目にやってるのが子どもの面白い所だ。


 向かい側の草場では、女の子たちが集まってFinal Fantasiaに夢中だった。


「黒魔道士を極めてからナイトになれば、剣も魔法もできる最強キャラができそうじゃない?」

「それより黒魔法と白魔法を両方極めた方が、大魔道士って感じでかっこいいわ!」


 彼女たちはキャラクターの成長方針について、熱心に語り合っている。

 みんな、真剣そのものといった感じでゲームに取り組んでいた。


 そんな盛り上がる子どもたちの中。

 お隣に住む兄弟の二人が、自分たちの両親に向けて抗議活動を行っている。


「俺たちにもスウィッツを買い与えろー!」

「あたえろー!」

「それまでは勉強なんかしてやらないからなーっ!」

「からなーっ!」


 兄の叫びに、弟が続く。

 彼らは必死だった。

 だが、彼らの親はなかなか一筋縄ではいかないらしい。


「うるさいねえ。いつも勉強せずにほっつき歩いてるくせに、そんな脅しは効かないよ!

でもまあ……。毎日ちゃんとお勉強するってんなら、考えてあげなくもないね」


 母親の提案に、二人の兄弟はしぶしぶと乗る事にしたらしい。

 この家の周辺だけで、様々な人間模様が展開されていた。


 まだまだ、みんな夢中で遊んでいる最中だ。

 一つ目のゲームが終わるまでにも、しばらくかかるだろうね。



 さて。反響や販売の結果を待つ間に、一つやるべき事がある。

 私は店先から居間に戻り、のんびりとソファに腰かけた。


 部屋の白い壁には、カレンダーが二つかけられている。

 マルデアの魔術式カレンダーと、地球でもらったカレンダーだ。


 地球の日付を見れば、今は十一月の末。


 今も強く私の記憶に残る、あの日が近づいていた。

 それは十二月一日。

 私の前世が終わった命日だ。

 その日に私はある場所へ行って、ある人と会うつもりでいる。


 ドイツで出会ったドクターの言葉は、強く印象に残っていた。


『君に助けられた人たちは、みんなその事をずっと忘れないよ』


 それを聞いて、また思い出したんだ。

 前世の私の事をずっと覚えていて、毎年墓参りに来てくれる人の事を。


 私が誰かの命を初めて救ったのは、リナ・マルデリタになる前の事だ。

 あれは、前世で死ぬ直前。

 車にひかれそうになった少女を、たまたま居合わせた私が助ける形になった。


 謝罪の手紙をくれたさえこちゃんは、今年もちゃんと私の墓にお参りに来るらしい。

 奈良の母さんからメールで聞いたから、間違いはない。


 彼女は私が幸せに暮らしている事も知らず、きっと今も罪の意識を背負っているのだろう。

 自分がお兄ちゃんを殺してしまったと考えているんだろう。

 二十五年経っても、まだユウジの事を忘れないでいてくれる。


 そんなあの子に、直接会って話がしたかった。

 私は元気だから、もう気にしなくていいよって。

 言ってあげたいと思っていた。


 そんな折、ガレナさんがオフィスでいい話を聞かせてくれた。


「第一研究所から、また何とか一回だけ正確な星間ワープを使用する許可が取れた。

リナがどうしても行きたい場所があれば、使うといい」


 私はもう別に、新しい国に行く時は正確なワープじゃなくてもいいと思ってる。

 だから、使い道はすぐに決まった。

 あの子と一対一で話すためには、私の命日に、私の墓の前に行く必要がある。


「あの、どうしても会いたい人がいるんです。その人に会うために使ってもいいでしょうか」


 私の問いかけに、ガレナさんは笑顔で頷いた。


「ああ、もちろんいいとも。私も協力しよう」


 やっぱり、うちの社長は頼りになる素敵なお姉さんだった。

 そんなわけで、次の地球旅行は私の完全なプライベート旅に決まった。


 仕事の予定は一切なし。

 ただ"あの子"に会いに行くだけ。

 行先は、奈良だ。


 もちろん、両親の実家にも顔を見せる予定になっている。

 その日が来るのを、私はそわそわしながら待っていた。



 そして、当日。

 私は実家へのお土産だけバッグに入れて、温かいコートを着て家を出た。

 ワープステーションで首都に出て、魔術研究所へと向かう。


 やってきたのは、第一研究所。

 ここの最新式の設備は、いつ見ても羨ましい限りだ。

 でもまあ、あのポンコツにも愛着は出てきたけどね。


 ワープルームの傍では、ガレナさんが出発の準備をしていた。


「目標地点は、奈良市の北部にある山の付近。このあたりで間違いないな」


 彼女と詳細な地図を確認しながら、私は頷く。


「はい。じゃあ、私の個人的な旅ですみませんけど。よろしくお願いします」

「うむ。どうせならゆっくり、ご両親と過ごしてきたまえ。

君の健闘を祈るよ」


 いつもの頼りない言葉が、今回は力強く感じたのだった。


 ガレナさんの手でワープルームが起動し、私の体は光に包まれていった。



 次の瞬間。

 目の前には木が見えた。

 後ろを振り返ると、石のお墓が並んでいる。

 どうやら、本当に間違いなくワープしたようだ。


 ここは、奈良市のとあるお寺にある墓地。

 前世の私の墓が置かれている場所だ。


 今日は十二月一日。

 自分の命日という事もあり、なんとなく肌寒さを感じる。

 今は日本時間で、ちょうど午後一時だ。


 あの子が墓参りに来る時間は、毎年大体同じなのだという。

 九州から日帰りでやってくるので、朝に出て昼すぎに奈良に着く感じだ。


 どこにも寄らず、ただこの場所にだけ来て、その足で九州に帰っていくらしい。

 もう二十五年の月日が流れた。彼女は立派な大人になっているだろう。



 ヘアバンドで髪を黒く染めた私は、とりあえず自分の墓を探す事にした。

 少し見て回ると、すぐに分かった。

 古い自分の名前が書かれた、私には立派すぎる墓だった。


 冷たい風が、頬を撫でていく。

 今は冬の入り口だ。


 自分がユウジではなくなった、あの日。

 あの時と同じような寒さだった。


 私は白い息を吐き、木の陰で彼女が来るのを待った。


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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ前世最後の心残りと向き合うのか 皆が笑い会える未来を目指して頑張れ これで二章は終わりかな? 次回も楽しみにしています
[一言] (そういえば元男でしたね)わ、忘れてたわけじゃないし!
[一言] ソニック対マリオ論争でマリオ側にヨッシーが居るとなると、早く続編出して、ソニック側にテイルズを参戦させたくなりますね。 まあ、そうなると、マリオ側もルイージが参戦するのだろうけど(マリオ側は…
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