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第七十三話 ゲームのルーツ


 フランクフルトの小さな料理店で、私はドクターたちに自分の事を打ち明けた。

 彼らは素のままの私を受けとめてくれた。

 そして、そのままでいいと言ってくれた。


 どこか安心した私は、時間を忘れて遅くまでその店で過ごしてしまった。

 もう夜は九時を超えている。

 その日は、店の二階にあるベッドを借りて寝る事になった。


「マルデアの大使さんに使ってもらうような場所じゃないんだけど……」

「いえ、寝れる所があれば十分です」


 店長は気を遣いながら、階段を上がって部屋を案内してくれた。

 二階は、屋根裏部屋のような感じになっているようだ。


「にゃーお」


 と、窓の縁にネコが立っている。


「この辺は野良ネコもいるのよ。うるさいけどごめんね」

「いえ、大丈夫です」


 二階の屋根裏部屋に猫……、なんかペルセナ5が始まっちゃいそうだね。

 と、店長が部屋の隅にある机を指した。


「暇だったら一応そこにパソコンあるから。ゲームもできるわよ」


 そう言って、店長は一階へと降りて行った。

 どんなゲームだろう。


 パソコンを立ち上げてデスクトップを見ると、凄い名称のアイコンが並んでいた。


「エアポート・シミュレーター。

ウッドカッター・シミュレーター。

ファーミング・シミュレーター……」


 ストイックなシミュレーションゲームの群れ。

 うん、やっぱドイツ人だ。

 せっかくなので、私は少し農場シミュレーションを楽しんでおいた。

 こういうゲームをマルデアに届けるのは、まだまだ簡単じゃないだろうね……。


 パソコンを消した私は、ベッドに横になってゆっくり休む事にした。




 そして、翌朝。

 私は店長さんが作った朝食を頂き、すぐに出かける事にした。


「もう大丈夫なの?」


 心配してくれる店長さんに、私は笑顔で頷く。


「はい。みんなに元気をもらったので、これからも頑張れそうです」

「それはよかったわ。私はあなたに何も出来ないけど。

また来てくれたら精一杯料理を振舞わせてもらうから、いつでもいらっしゃい」

「ありがとうございます」


 挨拶を済ませた私は、すぐに店を出た。

 そして堂々と大股で歩き、警察のオフィスに向かう。

 と、何やら声が聞こえて来た。


「昨日からリナ・マルデリタがフランクフルトに降りているそうだ。だが、細かい位置が掴めない」

「一体どこにいるのかしら……」


 どうも、警官たちは私を探しているらしい。


「あの、すみません。ここです……」


 私がひょっこり顔を出すと、彼らはあんぐりと口を開けて驚いていた。

 そこからは、いつものように車に乗せられて首都への移動だ。


 ベルリンに着くと、早速首相官邸で高官たちとご挨拶だ。


「ドイツへようこそ、ミス・マルデリタ。

フランクフルトに降りて一晩過ごされたと聞きましたが。大丈夫でしたかな」


 豪奢な建物の中で、首相と握手を交わす。


「ええ。ドイツが誇る医療の素晴らしさを見せて頂きました」


 それは実際、私が心から思った事だった。

 偶然とはいえ、あのドクターとの出会いには感謝していた。

 良い医者はいつも患者と直接話して、相手の心を和らげる。

 それはきっと、とても大事な事なんだろう。

 私は彼と話せてよかったと思う。


 それから百個の縮小ボックスを渡し、政府とのやり取りは終わり。

 次は、ドイツの文化観光だ。


 私はベルリン・フィルハーモニーのホールへと案内された。

 ベルリンフィルは、世界最高のオーケストラ楽団と言われているらしい。

 演目はドイツを代表する音楽家、バッハの楽曲だ。


 中でも印象的だったのは、やはり『G線上のアリア』だろうか。

 荘厳な城の中をゆっくりと歩くようなこの感覚。


 目を閉じれば、不思議とドラゴンクアストの世界が見えてくる。

 バッハの音楽から、あのゲームに近い雰囲気を感じるのだ。


 きっとドラクアの作曲家は、こうしたクラシック音楽を参考にしたんだと思う。

 そして、ゲームの中に古きヨーロッパの雰囲気を作り出したのだ。


 ゲーム音楽のルーツを感じる事ができて、私は幸せだった。


 案内人は、色々と作曲家たちの事を聞かせてくれた。

 詳しい音楽の事はわからなかったけど、気になる話はあった。


 バッハは二回結婚して、子どもが二十人も生まれたんだって。

 でもちゃんと元気に育ったのは十人だけだったとか。

 これは十八世紀初頭という時代のせいなのか、それとも彼と妻たちが不運だったのか。

 私はちょっと聞くのがためらわれた。



 さて、ドイツの旅はこれで終わりだ。

 私はチャーター機に乗り込み、ドクターたちの国に手を振った。


 移動中にドイツのテレビを見ると、私の話題で盛り上がっていた。

 どのチャンネルを見ても、アルバさんのインタビューが流れている。


「バイエルンとの試合で倒れた時は、かなりヤバかったよ。

足の痛みが異常で、太腿が黒くなっていた。それに足先の感覚がなかったんだ。

ドクターも危険な状態だと言っていたからね。僕も覚悟をしなきゃいけないと思ってた。

そこに突然、彼女が現れたんだ」


 映像が流れた後、アナウンサーが笑顔で話し出す。


「リナ・マルデリタの登場で、フランクフルトに所属するポルトガル人ストライカーが救われました。

フランクフルトやポルトガルのファンからは喜びの声が届いています」


 今度は、市街のインタビュー映像でファンたちの声が流れ始める。


「リナ、アルバを助けてくれてありがとう!」

「俺たちポルトガルの若き星が、彼女に救われたんだ!」

「オーマルデリーター! オーマイサンシャーイン!」


 大勢で私の歌を歌い始めるポルトガルのサポーターたち。

 なんか凄い盛り上がりだ。サッカーファンって感じだよね。


 サッカー系のニュースが流れ続けるのを、私は何となく見ていた。

 と、選手のインタビュー映像で見知った顔が出てきた。


「アンドラを救ってくれたリナに感謝するよ。ありがとう」


 カメラに向かって笑顔で答えたのは、ポルトガル代表のエースストライカーだ。


「凄いわねリナ。ルナウズが『ありがとう』だって。どうする?」


 座席の後ろから、米警察コンビのマリアさんが声をかけてきた。


「どうするって……。いやあ、凄いですね」

「はは、他人事みたいだな」


 ジャックは楽しそうに笑っている。

 なんか有名すぎる人だとちょっと現実感ないよね。

 まあ、みんなが喜んでるならそれでいいと思う。


 さて、気を取り直して。国連に行った後は新作ゲームだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 農場シュミレーションという単語を見て「牧場物語」が脳裏に浮かびました。登場するコロボックルをマルデアの妖精フェルクルに置き換えれば親近感わくし、農家の大変さも感じてもらえるのかなぁとか考えて…
[一言] 作業系でなおかつ楽しめて老舗のゲームなら、ゲーマーの登竜門とも言われるサンドボックスゲーム、マインクラフトがあるじゃない!!
[一言] >>ファーミング・シミュレーター スイッチにはサクナ姫があるから是非マルデアで発売しようず。
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