第六十八話 連鎖の声が響くお店で
新作アーケードの営業は、比較的順調に進んでいた。
スタ2の好調もあり、サニックとぷやぷやは次々にマルデアの施設やお店に置かれていく。
うちの母さんの店でも、新作アーケードを入荷していた。
いきなり二機種入れるのは難しいので、お母さんが気に入った一台を選んだ。
私は休日を利用して、駄菓子屋と化したお店の様子を眺める事にした。
「うわっ、あたらしいゲーム機があるぞ!」
「ほんとだっ! なんだこれ!」
朝からやって来た子どもたちは、店の前に置かれたぷやぷやの新台に興味津々と言った様子だ。
「ねーねーおばちゃん。このゲームなーに?」
「ぷやぷやよ。可愛いでしょ」
お母さんが軽くゲームについて教えてあげているようだ。
子どもたちは画面に流れる映像を、食い入るように見つめていた。
「なんか色を消してるぜ」
「『えいっ、ふぁいおー、あいすすたーむー』だって」
「同じ色が四つ揃ったら消えるのかな」
子どもたちは、彼らの小さな脳みそでゲームを分析し始めているようだ。
ぷやぷやは、元々コムパイルという会社によって作られたゲームだ。
長方形のボックスの中に、上から"ぷや"と呼ばれるブロックが二つずつ落ちてくる。
同じ色のぷやを四つ繋げると、ぷやは消えていく。
見たことのないゲームに、みんな興味津々だ。
だが、財力のないキッズたちは一番手になってお金を失う事を嫌っている。
やはり今回も、誰かが来てプレイするのを待っているようだった。
と、そこへ。親子連れの二人がやってきた。
母親に手を引かれて歩いてくるのは、お上品なワンピースを着た少女だった。
「なーにあれ?」
可愛い連鎖ボイスに呼ばれるようにして、彼女はアーケードに近づいていく。
台に描かれたアニメテイストの女の子。そして、カラフルで可愛いゲーム画面。
そのキャッチーさに惹かれたのか、彼女はゲーム映像をじーっと見つめた。
「かわいい……。ママ、これやりたい! 一回一ベルだって」
少女は映像を指さしながら、後ろにいた母親にアピールし始める。
「しょうがないわね。じゃあ、一回だけよ」
母親がコインを入れると、近くにいた子どもたちがざわつき始める。
「マリーナちゃんだ。オカルナ台に住んでるお嬢様だぜ」
「あの子もゲームとかするんだ……」
どうやら、近所じゃ名の知られたお金持ちの子らしい。
彼女はゲームが動き出すと、レバーを操作してぷやブロックを動かしていく。
『えいっ』『えいっ』『えいっ』
同じ色を四つ揃えて消す、その繰り返し。
少女が夢中でシンプルな遊びを堪能していると、たまたま色が上手く重なった。
『えいっ、ふぁいおー!』
赤のぷやが四つ消えて、その上にあった黄色ぷやが下に落ちる。
すると、下にあった黄色ぷやと合体。
四つになったので黄色も消える。
これがぷやぷやの基本とされる連鎖だ。
「やった、二かい消えた!」
お嬢様はぴょんぴょん飛び上がって喜んでいた。
周囲もそれにつられて盛り上がっている。
「マリーナちゃんすごい!」
「さすが、お勉強もできるおじょーさまだ!」
「今の、ただの偶然じゃないの?」
「お前、マリーナちゃんにケチつけてんじゃねえよ!」
少年たちは概ね彼女の応援隊になっているようだ。
その後もマリーナちゃんはせっせとレバーを動かし、頑張って二連鎖を作っていた。
「あらあら、マリーナ賢いわねえ」
後ろからゲームを眺めるお母さんも、彼女が何をやっているか気づいたようだ。
ぷやの山が崩れる構造を利用して、上手く色を重ねて連鎖を作る。
これは非常に頭を使う作業であり、子どもの頭の体操にはとても良いと思う。
連鎖が重なれば重なるほど、対戦相手に与える"おじゃまぷや"が増える。
敵のボックスをぷやで埋め尽くせば、勝利となる。
マリーナちゃんは二連鎖の使い手となり、一回戦の敵を倒した。
「やったー!」
主人公のアリルと一緒に、お嬢様が喜ぶ。
すると、周囲の少年たちも拳を上げて喜んでいた。
「っしゃあ、さすがマリーナちゃん!」
「可愛いだけじゃなくて頭も良いぜ!」
マリーナちゃんは勢いづいて次の敵に挑むが、やはり敵は強くなっていく。
ゆっくり時間をかけて二連鎖を作るお嬢様に対し、敵は小刻みに連鎖を放ってきた。
『ばったんきゅう~』
主人公の少女アリルがぶっ倒れ、お嬢様は負けてしまった。
ゲームオーバーで終わってしまった事に気付いた彼女は、後ろのスポンサーを見やる。
「ママ、もう一回したい……」
「ダメよ。お約束したでしょ。レッスンがあるんだから」
おねだりを否定する母親に、マリーナちゃんは泣き顔になる。
「でも、レッスンよりこれがしたいもん」
「……。わかったわ。じゃあまた明日連れてきてあげる。
その代わりレッスンもちゃんとやること。それでいい?」
「……、うん」
二人はお互いに約束を取り付けたようだ。
親子は手を取り合って、ワープステーションの方へと歩いて行った。
その後、近所の子どもたちの中から勇者な少年が現れる。
それはスタ2名人のトビー君だった。
彼は大事なお小遣いのコインを投入し、ぷやぷやを遊び始める。
「あぁぁぁ……」
だが、彼はマリーナちゃんよりだいぶ下手だった。
そもそも連鎖というものを理解していないのか、デタラメにぷやを積み上げた彼は即死していた。
一回戦で負けた少年の落ち込み方は半端ではない。
子どもは財力が限られる分、ワンプレイに命がけだ。
「三つめの『あいすすたーむ』なんてどうやって出すんだろうな」
「わかんねえ……。二連鎖を打ちまくるしかないのかな」
三連鎖の出し方もわからないキッズたちが、戦略について語り合っている。
なかなか笑える話だ。
「しょうがない、ここはお手本を見せてあげようかな」
そう言って、私は子どもたちの前に出た。
「おねーちゃん、うまいのかな」
「店の人だから、それなりにできるんじゃないか?」
ふふふ、前世で鍛えた私のそれなりの腕を見せてやろう。
「チビ姉ちゃんだから、無理じゃね」
と、ひねくれた口を利く子もいる。
チビは余計だ。見ていろガキンチョめ。
私はベーシックな階段式のぷやを組み上げていく。
そして、左端に起爆用の赤いぷやを落とした。
すると。
『えいっ! ふぁいおー! あいすすたーむ!
だいあきーと! くれいんだむとー!』
ぷやが次々に消えては重なり、連鎖を作っていく。
主人公のボイスも、どんどん激しい呪文を唱えていく。
「すげーっ!」
「いち、に、さん、し、ご、五回消えた!」
「お姉ちゃん半端ねーよ!」
子どもたちが一斉に驚愕の声を上げる。
いきなりの五連鎖は、田舎キッズたちにはかなりの衝撃だったようだ。
ふふふ、見たかこの私の……、それなりの腕を。
敵のボックスには隕石が表示され、何十個というおじゃまぷやがドスンと一気に落ちた。
これで私の勝利だ。
「やったー!」
アリルの真似をしてピースしてみせると、子どもたちは大いに沸いていた。
地球でやったら五連鎖なんて、大したこと無いプレイだ。
誰も見向きもしないと思う。
でも、マルデア人にとってはまだ見た事もないテクニカルプレイだ。
だから、これで十分なのだ。
子どもたちから尊敬の視線を受けるのは、悪くないもんだね。
「ねーお姉ちゃん、スタ2も上手いの?」
「ん? まあ、君らには負けないよね」
その後私はスタ2の腕前を見せつけ、キッズたちの尊敬を集めまくった。
まあ、前世取った杵柄ってやつだね。




