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第六十二話 世界一の称号


 アーケードがマルデアに上陸してから四週間。

 スタ2の反響は良好で、入荷した分の大半はお店で稼働を始めていた。


「アーケードの第一歩は、何とか上手くいったな」

「まだまだこれからだけどね。うちの販売は家庭用メインだし、それも進めないと」


 ガレナさんたちが声を交わし、頷き合う。

 サニアさんの言う通り、アーケードばかり進めるわけにはいかない。

 スウィッツの新作ソフトも出さなければ、お客さんが退屈して市場が冷めてしまうのだ。


 そんなわけで、また地球へ向かう時期がやってきたのである。


 いつものように、日本に向かう前に訪問国を選ぶ……。

 と、行きたい所なんだけど。


 こないだ、国連からある依頼があった。


『そろそろ魔石が溜まってきたので、汚染の処理に手を付けたい』


 というものだ。

 大災害を対処するほどの魔石量が地球に溜まるのは、まだまだ先だ。


 なので、次のステップとして汚染の除去を選んだらしい。

 汚染って、どこの汚染だろうね。


 まあ、私がニューヨークに行った時に話し合うつもりなんだろう。

 でも国連とやり取りをしてると、あちらさんが望んでる事は何となくわかった。

 多分、核廃棄物を魔石で処理するのを第一候補にしてるっぽいんだよね。


 現在も核兵器の開発を行っている国は多い。

 それに伴って排出される有害な廃棄物は凄まじいもので、地下に汚染がどんどん溜まっているそうだ。


 だが、私が魔石でそれを消し去ったらどうなるだろうか。

 彼らは喜んで核開発を続けるに違いない。


 私は、地球が危険な兵器を作るための手助けをしたいとは思わない。

 やるならもっと、人々の生活を助けるような形にしたい。

 

 だから今回は国連とは話し合わず、私が勝手に汚染排除の場所を決めて実行する事にした。

 手持ちの貯金はかなりあるから、魔石を大量に買って行けば何とかなるだろう。


 国連は世界の平和を願っているわけだから。

 世界のどこかで民を苦しめる汚染を除去すれば、喜んでくれるよね。


 うん。それでいこう。


 さっそく私はガレリーナ社のオフィスで、ガレナさんに今回の旅について説明する事にした。


「そんなわけで、まず最初に汚染の排除に向かいます。その後でゲーム企業に行くというスケジュールですね」

「ああ。それはいいが、どの国に行くつもりなのかね?」


 首をかしげるガレナさんに、私は頷いて続ける。


「行先はこれから決めます。ガレナさんも一緒に地球の環境汚染について調べてもらえませんか。

人々の生活に直結しそうな案件で、五万個くらいの魔石で何とかなる場所が望ましいです」

「ふむ。まあ研究所のデータを見れば、地球の汚染地域を割り出すのは難しくないがな」


 ガレナさんは快く受け入れてくれた。

 それから、私たちは二人で地球の環境に関する調査を行った。


 私が一人で調べて選んでもよかったけど、それだと日本の事をどうしても優先してしまう。

 汚染なんて世界中にある。どこも問題を抱えているのだ。

 最初はフラットに、地球に対して客観的な視点を持った人の意見を取り入れたかった。



 様々な候補地が出た中、最終的に決まった行き先は、インドネシアだった。

 ガレナさんの調べによると、世界一汚染された川があるらしい。


 全長三百キロのチタルムという川だ。

 世界で一番汚れた川って、肩書きが凄いね。


 三百キロって言うと範囲が大きいように思えるけど、川は範囲が限られているし深さもそれほどない。

 マルデアでも、汚染対処がしやすい部類とされている。

 大気に関わる汚染は超広範囲で難しいから、今回は対象外となった。


 川は人々の生活に直結しているし、本来美しくあるべき自然の一つだ。

 地球のネットでチタルムの画像を見たら、ほんとに酷かった。


 インドネシアは、人口二億五千万人を超える大国だ。

 二千万人を超える人たちが、今もこの川を生活用水に使っているらしい。

 汚れた川の水を使えば、当然病気にもなる。

 その写真を見て今回はもう、ここで確定だと決めた。


 今回は国連にも行先を伝えていない。

 たまにはビックリさせてあげないとね。



 私は現地の言葉を覚えるのに数日かけ、出発の準備を整えた。

 そして、出発の当日。


 私は買い込んだ五万の魔石、そして変換機の部品を輸送カプセルに入れて、ワープルームへ向かう。


「では、行ってまいります。ガレナさん、できればジャワ島の内側でお願いします」


 インドネシアは複数の島が連なる国だ。

 ジャワ島以外に降りたら、チタルムまで結構な距離になってしまう。


「うむ。健闘を祈る」


 ガレナさんのいつもの言葉を受け、私はマルデアを後にした。




 降り立ったのは、家々が立ち並ぶ道路の前だった。

 どこかの市街だろうか。

 マルデアはもう冬に近づいているというのに、結構暑い。

 景色は、タイに近いだろうか。車道はやはりバイクが多く走っていた。


 インドネシアは、国土の上に赤道が通っている国だ。

 相当に気温の高い国の一つだろう。

 私はピンク色の目立つ髪のまま、帽子もかぶらずに町を歩いていく。


「お、おい。あれ、リナに似てないか」

「まさか……。似たような格好をしてるんでしょ」


 当然、すぐに私を指さす人もいた。

 とはいえ、本物と思う人はまだいないようだ。


 今回は、特に姿を隠す理由がない。

 お忍びで何かをやるために来たわけではないのだ。

 チタルム川を浄化する所を、みんなにも見てもらう必要がある。

 警官が来たら、車で現地まで連れて行ってもらえばいい。


 とりあえず、現在地を確認しておこう。

 近くに果物屋があったので、私は店員さんに聞いてみる事にした。


「すみません、ここは何ていう町ですか?」

「うん? ここはタシクマラヤだよ……って、あんた何だいその恰好。

リナ・マルデリタみたいじゃないか」

「あはは、すみません。タシクマラヤですね。ありがとうございます」


 驚く店員を後目に、私は店を出てスマホで位置を調べる。

 タシクマラヤは、ジャワ島の内陸にある都市らしい。

 まあ、少なくとも同じ島の上には乗ったし、チタルム川からもそう遠くないようだ。


 さて。腹が減っては魔力が出ない。

 まずは腹ごしらえをしておかないと、失敗したら恥ずかしいからね。

 せっかくだから、まずインドネシアの名物を楽しんでおきたい。


 私は大胆に、空を飛んで移動してみた。

 上空を進むと、たまに地上の人が気づいて声を上げる。


「おーい!」


 こちらに手を振っている人もいるので、笑顔で振り返す。

 うん、フリーダムだ。たまにはこんな旅も良いと思う。


 これだけ目立ったら、現地警察もそのうちやって来るだろう。

 アメリカあたりが手配した人間が、GPSの位置情報を頼りに来る可能性もある。

 どっちが先だろうね。


 そんなことを考えながら、私は良さげな料理店を見つけて降りて行った。


 インドネシアでは、パダン料理というのが有名だ。

 カレーを中心に何種類もの煮込み料理が出てきて、好きなものを選んで食べるのだという。

 そして、食べた分を支払う。

 変わったシステムだ。


「パダン料理お願いします!」


 なので、早速頼んでみた。

 なんか店員たちが遠巻きにこちらを見ながら話し合っていたようだが、しばらく待っていると料理は出てきた。


「カリオダギアンに、チャンチャンになります」


 うん、何の事かはわからない。

 どうも牛肉をカレーに漬けたものらしい。

 スパイシーな香りを楽しみながら、私は肉を切って口に運ぶ。


「もぐもぐ……」


 うん、辛い。でも美味しい。

 カレーっていつもご飯と一緒に食べるけど、肉とガッツリっていうのもいいね。

 ていうか、辛い。

 それから四皿ほど頂いて、私は代金を支払った。


 そして、店を出たその時。


「はぁ、はぁ、やっと見つけた……」


 黒髪の男性が息を荒げながら声をかけてきた。


「君は……、リナ・マルデリタで間違いないのか?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 汚染なら核兵器実験より原発事故の方が深刻じゃないの?
[一言] リナさんのぶらり汚染浄化観光旅 楽しそうだなぁ。今度はどんな出会いがあるのか
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