第百十四話 ギリギリまで弱らせて(挿絵あり)
マルデア星。
首都の町に出ると、フェルはすぐに地元の方へと飛んで行った。
やっぱり、仲間たちが恋しいのかな。
私はまずオフィス街へと向かい、会社に顔を出しておく事にした。
ビルの二階に上がると、フィオさんの通話対応の声がする。
「ええ、リーグ制覇おめでとうございます。
いえ、ポツモンの冒険はそこで終わりではありません。ぜひ続けてみて下さい」
どうやら、ストーリーをクリアした人が出始めたようだ。
リーグ戦でチャンピオンを倒せば、基本的にはエンディングを迎える事になる。
だが、ポツモンは『クリアしてからが本番』と言われるゲーム。
まだまだ楽しめる要素は残っている。
みんなに幻を見せるのは、もう少し先だ。
「ただいま戻りました」
オフィスに入っていくと、手前の席に腰かけたサニアさんが振り返る。
「あらリナ、お帰りなさい。どうだった?」
「ええ。アップデートの準備は万全です。
新しい筐体やグッズの方も受け取ってきましたよ」
「おおっ。早く見たいっス!」
メソラさんも立ち上がり、興奮に声を上げる。
この二人は本当にアーケードに目がないよね。
私はさっそく、輸送機から新しいスタ2を取り出してみせる。
壁際に設置すると、その存在感は凄い。
アプデ版ではあるけど、筐体の見栄えは更に洗練されている。
「うおお、かっこいいっスっ!」
「これが超スタ2のオーラってわけね!」
サニアさんとメソラさんは台に飛びつき、恍惚の表情を見せていた。
この人たち、趣味丸出しで働いてるよね……。
「やっぱり、駆け引きのレベルが違うっスね」
「新キャラも個性的だし、みんな面白いわ」
二人はテストプレイをしながら、超スタ2Xが提示するゲームの質に唸る。
その詳細は、これからお客さんにむけて発信していく事になるだろう。
さて。
アーケードのお披露目が済んだ所で、もう一つの議題だ。
みんなでデスクに集まり、すぐ会議に入る事にした。
「こちらがポツモンのグッズになります」
テーブルに置いたのは、小さなキーホルダーだ。
「わあっ。オーブイちゃん、可愛いですっ」
「これだけ並ぶと壮観ね……!」
フィオさんとサニアさんは商品を手に取り、目を輝かせている。
「これ2ベルで売るんスよね? 絶対買っちゃうっスよ」
メソラさんも、値段を見てヒュウと口笛を鳴らしていた。
「うむ。しかし、うちはグッズ販売のノウハウがない。どこから手を付けたものか……」
ガレナさんは腕組みしながら、悩ましげに頭をひねる。
「本格的に売り出すのは、ゲームのアプデが終わってからにしましょう。
最初は、うちの実家で試しに出してみます」
「うむ。それがいいだろう」
「焦る事はないわね」
私の提案に異論が出る事もなく、今後の方針はある程度決まった。
会議が終わって時計を見上げると、終業時間をとっくにオーバーしている。
今日の所は、これでお開きだ。
実家に戻ると、辺りはもう真っ暗だった。
「ただいまー」
「あらリナ、おかえりなさい」
出迎えてくれるお母さんの笑顔を見ると、何となくノルヴのゲームを思い出す。
私は母親に抱きつくようなマザコンではない。
でも、『おかえり』と言われるのはやっぱり嬉しい。
「リナ、疲れたでしょ。夕ご飯作るから、フェルちゃんとお風呂入ってきなさい」
「うん」
最近は、なぜかフェルも家族の一員になってるけど。
まあ、可愛らしいものである。
「おふろぉぉぉっ!」
羽を広げて湯舟に突撃していく妖精を眺めつつ。
私もゆっくりとお湯につかり、体を癒すのだった。
翌日。
休日なので私は会社へは行かず、朝から母さんと話していた。
といっても、商売の話だ。
裏手の駄菓子屋はゲームソフトも結構売れるから、バカにならない規模になってるんだよね。
時には、営業先の店主として真剣に話す事もある。
「そう。ついにスタ2のアップデートが入るのね」
「うん。解禁日は決まってるから、母さんもタイミング合わせてね」
店の奥でアプデやグッズについて話し合っていると、聞き耳を立てていたのだろう。
駄菓子屋キッズたちが近づいて来た。
「なーリナ姉ちゃん。スタ2で何かあるの?」
「ふふふ。まだ秘密だよ。でも、近いうちに良い事があるかもね」
指を立てて微笑んでみせると、トビー君が目をキラキラと輝かせる。
「ほ、ほんと!?」
「リウのオモチャとか出るのかな!」
「大会やるんじゃない?」
彼らは嬉しそうに顔を見合わせ、予想を語り合っていた。
と、その時。
ベンチの方で少年たちが何やら騒ぎ始めた。
「トッポが伝説ポツモンと戦うぞっ!」
「サンデーとバトルだ!」
どうやら、大きな戦いが始まるらしい。
子どもたちはみんなで集まり、トッポ君のスウィッツを覗き込む。
「ギリギリまで弱らせるんだぞ!」
「眠らせたりした方が、捕まえやすいわよっ」
「わ、わかってるよ」
みんなのアドバイスを受け、トッポ君は戦いに集中する。
伝説クラスを仲間にするのは、簡単ではない。
相手はとても捕まえにくく、一回倒してしまうともう二度と出会えない。
ゲットするには、限界まで弱らせ、ボールを投げまくるしかないのだ。
手に汗を握り、選択にじっくり時間をかけながら。
彼は敵のライフを少しずつ削って行った。
「よしっ、だいぶ弱らせた」
「いけるぞ、ボール投げろ!」
「いや、もう一回攻撃できるはず。もう一回……」
トッポ君は迷いながら、再度アタックを選択したようだ。
だが……。
「ああーっ、倒しちゃった!」
彼は誤って、伝説を撃破してしまった。
少年はがっかりと肩を落とす。
一緒に見ていたフェルも、落胆した表情だ。
「トッポのアホ……」
「だから言っただろ。ボール投げろって」
「だって、急所に当たるとは思わないよ」
最後に会心の一撃が出て、オーバーキルしてしまう。
ポツモンあるあるだね。
まあ、セーブしてたらやり直せるから、何度でも挑戦する事だろう。
さて、そろそろ良い頃合いだ。
店内に目をやると、ちょうど母さんが奥から大きな箱を取り出していた。
「はい、みんな注目ー! うちの新しい商品よ!」
うちの店長の声に、子どもたちが群れるように集まってくる。
「わあ、なにこれー!」
少女たちが見つけたのは他でもない。
箱の中にズラリと並んだ、ポツモンたちのキーホルダーだ。
「ルコンちゃん、可愛いっ!」
「ピハチューもあるわっ!」
キャアキャアと声を上げる少年少女たち。
予想以上に凄い反響だね。
「トカゲのやつ欲しいなあ。1つ2ベルかあ」
「何日かお菓子ガマンしたら買えるかも……」
彼らは自分のお財布と相談しながら、どれを買うべきかと悩み始める。
「プルンのやつくださいっ」
「ぼく、この水ガメ……」
握りしめたお小遣いを差し出す子どもたちは、本気の表情だ。
2ベルの買い物は彼らにとって、シリアスな問題なのである。
「はい、ありがとうね」
母さんもそんな小さなお客さんに、ニコニコ笑顔で対応していた。
新商品の販売は好評で、後からやってきた大人たちも目を見張っていた。
「うわっ、ポツモンのグッズ売ってるじゃん!」
「私のダネちゃんもあるわ!」
まだここでしか売ってないから、珍しいという事もあるのだろう。
みんな、自分が相棒にしているポツモンのホルダーを記念に買っているようだ。
と、そこへ。
「こ、これは……。美しいっ!」
黒髪の女性客がグッズの棚に飛びついて来た。
どこかで見た事がある顔だと思ったら、スタ2で負けまくってたお姉さんだ。
なんでもニニアちゃんの親戚だという話だけど……。
どこから嗅ぎつけて来たんだろう。
彼女はこちらに向き直ると、真顔で言った。
「ここにあるグッズ、全てもらおう」
そして、バシンと100ベル札をレジに叩きつける。
この人、大人のマネーパワーを発動させて全部買い占めようとしてる……。
目の色が本気だ。
ただ、さすがに全部売るわけにはいかない。
「すみません、一種類につき一個までにしてください」
「む……仕方ないか」
彼女はしぶしぶ、それぞれのキャラのキーホルダーを一つずつ手に取っていた。
ついでに駄菓子も幾つかつまんでるのが可愛らしい。
「41ベルになります」
「うむ」
そこそこの値段を躊躇なく支払い、品物を受け取るお姉さん。
「おお……、愛おしい……」
愛するポツモンたちが揃って満足したらしく、彼女はグッズを抱きしめて悶えていた。
この人、ちょっと変わってるよね。
その後もコアなゲームファンが次々に店にやってきて、グッズはすぐに売り切れてしまった。
デバイスでマルデアのSNSを見ると、その事が話題になっていた。
xxxxx@xxxxx
『ポツモンのキーホルダー売ってたから速攻で買ってきた』
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『は? そんなん売ってるの? どこで?』
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『可愛いぃっ! プルンのやつほしい……』
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『いつもゲームソフト買ってる玩具屋にも置いてない。どこで売ってるの?』
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『多分、特定店舗での先行発売だろうな。場所は教えないけど』
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『教えろやぁぁぁぁ!』
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『だってさあ。今言ったらその店がパニックになるだろ』
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『ゲーマーなら知ってるあの店だからな。
大人買いしてるお姉さんがいて、もうほとんど残ってなかったよ』
xxxxx@xxxxx
『まだ誰も持ってないグッズを持つ優越感ときたら。たまらないね』
xxxxx@xxxxx
『教えろやああああああああああああああ!』
キーホルダー欲しさに発狂している人がいる。
これなら、マルデアでも売れそうだね……。
ただグッズを広める前に、まずはゲームのアップデートだ。
今回は、ギリギリまで情報は伏せてきた。
情報公開の生放送は、もう三日後に迫っている。
私は店先に腰かけて台本を読み、当日に備えるのだった。
リナママの駄菓子屋
駄菓子屋の風景 endrouさん




