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泳げるまでの壁 町のスポーツ用品店

「『こういうの』ってのは、要するに保護者に子供の体育を教えるってこと?」

 古田が確認する。

「そう。体育って、ちょっとしたコツなんだけど、それを掴むまでなかなか出来ないことって色々あるじゃん。水泳だけじゃなくて、例えば跳び箱とかさ」

 世良は以前に、知り合いから相談を受けて、リモートで跳び箱を指導したことがある。それを思い出していた。


「後は縄跳びとか、逆上がりとかですかね」

 青田が続く。

「かけっこなんかもそうですね。短距離走は才能もあるけど、足が遅い子はやっぱり、走り方を知らない場合が多いですから」

 佐々木が乗ってきた。

「ボールの投げ方とかもありますよね。後、この間、子供が筋トレやりたがってるけど、やらせていいか迷うってお父さんがいました」

 所沢が乗り遅れまいと、被せてくる。


「いたねぇ。そうそう。で、そういうのはさ、ちゃんと教えられる人って、あんまり多くないでしょ?今、出たようなのを全部教えられる保護者なんて、それこそトレーナーじゃないと無理だと思う」

 世良は出た意見をホワイトボードにメモしながら言った。

「そりゃそうだ。だから自分らみたいなのがメシ食えるんだよね」

 古田が納得した。

 そして、腕を組んでしばらく考える。


「『子供の体育相談』って全般にするのはハードル高いけど、個別にコンテンツ化したらいけるかもね。『子供の水泳相談』とか」

 考えつつ古田が言った。世良は内心ニヤリとする。こういう全肯定も全否定もしない意見が、こういう会議では一番ありがたいからだ。

「その心は?」

 渡辺が古田に続きを促す。


「はい。今、言ったものだと、短距離走とか、ボール投げは、問題点見極めの技量や、見本を見せる技量が必要なんで、保護者に教えてもハッキリとした効果が出せない場合もあります。だから、顧客満足を一定レベル確保するのは簡単じゃない気がします」

「水泳は違うの?」

「競技レベル向上なら当然難しいです。ただ、そういう子はスクール通うだろうし、我々の対象にしなくていいかと。でも、今の話みたいに『25m泳ぐ』だったら、そこまでにぶつかる壁は、ある程度決まっているので、保護者にも指導は出来そうな気がします」

「確かに、短距離やボール投げは、わざわざ保護者経由でやるより、お子さんと一緒に来ていただいた方が早いですね」

 佐々木があっさりと、自分の案を取り下げる。


「いや、それもそうなんだけど、いきなり連れてくる親って、あんまり多くないだろ?だから、最初に軽く相談を受けて信頼してもらえれば、次にお子さんを連れて来てもらう切欠にもなると思うんだ」

 世良がフォローする。それに所沢が大きく頷いた。


「販売の切っ掛けにもなるんじゃない?親の信頼を掴んだら、子供の運動用品はウチで買うでしょ」

 渡辺が続く。

「昔の町のスポーツ用品店みたいですね」

 と世良。

「一周回って、また、その時代になるんじゃないかってボクは思ってるんだ。情報が増えて選択肢が増えすぎると、決めるのがメンドウでしょ。『決める』って結構ストレスかかるからさ。信頼できる人に決めて貰った方が楽だよね」

 渡辺の解説にみな頷く。世良はホワイトボード、青田は自分のノートに『町のスポーツ用品店』とメモをしていた。


「確かにね・・・旨味は色々ありそうだね・・・」

 古田が何かを考えながら頷いた。

 そして、頭の後ろに手を組んで、背伸びしながら言った。

「考え出すと、話は色々広がりそうだな・・・どうしましょう?」

 そのパスを受け取って世良が言う。

「そう。そこで、さっきの古田案に戻るんだけど、まず『泳げない子が25m泳ぐまでの指導』を保護者に教えるコンテンツを作るとしたら?というのを詰めたらどうでしょう?何か一つ出来たら他も見えてくるだろうから」

「いいっすね!それで行きましょう!」

 古田が同意した。


「じゃあ、どこから詰める?ごめん。そこはボク、あんまりイメージ出来てない」

 渡辺が言った。青田も小さく頷く。

「そうですね・・・」

 世良が一旦考えた。そしてホワイトボードを一旦、社用携帯で写真に撮ってから、いくつかの絵だけ残して他を全部消した。

 全員が世良に注目する。


「まず、自分のイメージする全体感を説明します。それに対して、頂きたい意見はこちらです」

 そう言って世良はホワイトボードの隅に次のように書いた。


 もらいたい意見

 ・実現性あるか?実現までのハードル

 ・肉付け、小ネタ、想定事例


「『想定事例』ってのは、想定するトラブルのこと?」

 古田が確認する。

「そうですね。後は、トラブルまでいかないけど、お客様から、こんな質問されるとか、こんな要望受けそうとか」

「はい、はい。なら、汐野さん呼んだ方がいいんじゃない?今、大丈夫かな?」

 と古田。汐野はカスタマーサポート部のマネージャー。本社に来たクレームは、まず最初に彼女が応対する。

「呼んでみようか?」

 渡辺が社用携帯で連絡を取り、話をする。

 そして、電話を切って言った。

「すぐ来るって」

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― 新着の感想 ―
トレーナーって コーチに似てる感覚かな? なかなか評価され難い 野村再生工場みたいな 監督は少ないでしょうね (๑•̀ㅁ•́๑)✧
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