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跳箱と最適解 個人と集団と判断基準

「いやー、しかし、こうして動画があると、分かりやすいですね」

 世良は意識してテンションを上げ、自身のスイッチをヒアリングモードから説明モードに切り替えた。


「跳べなくなった理由はシンプルです。助走と踏切、手付きの動作が繋がってないからです。それが体で分かってるから、ギコちないんですよ」

 世良は動画を何度も再生しながら説明した。

「元々その繋ぎは曖昧だったんでしょうね。助走を変えたことで、それが顕著化したんでしょう。だから、その繋ぎ『だけ』練習すれば『また』出来るようになりますよ」

 世良は『だけ』と『また』を強調して言う。

 そして立ち上がった。


「助走と踏切はこれだけですね。踏切板に両足がつくタイミングで両手を前に出すこと。逆に言えば、これが出来ていないと次の動作に繋がりにくいから、踏切板で止まってしまいます」

 世良は実演する。

 

「踏切から手付きはこうですね。踏切で軽く跳んでお尻を上げながら、上半身はむしろ倒すイメージで、既に前に出していた手を付きに行きます。そうか・・・」

 世良は一旦考えた。

「『伸太郎君の場合』は、ここに補助トレが必要ですね」

 世良は『伸太郎君の場合』を強調して言いつつ、テーブルに手を付いた。


「この練習しましたよね」

 そう言って世良は、テーブルに手を付いたまま、軽く跳ねてお尻を上げる。

「ええ。それで感覚をつかんだのか、跳べるようになりましたね」

「はい。その成功体験が強いんだと思います。4段ぐらいならそれでいいんですが、もっと高さを目指すと順番が逆になるんですよ」

「逆に?」

「はい。跳んでから手を付きます。正確には跳んで手を着いて、そこでまた手で跳ぶ感じ」

 世良は実演して見せた。

「ああー確かに」

「成功体験が強い分、この切り替えが上手く出来ていないんでしょう。だから、この、跳んでから手を付くという練習が一番かな。。。これは、ある程度高さがあって、安定した台の方が練習になるので、箱ではなく馬跳びの形でやってみてください」


「なるほどね。色々あるんですね。世良さんの今の動き、動画取らせていただくことって可能ですか?やっぱり孝太郎に教えさせたいので」

 耕作も手応えを感じたようだ。

「内緒ですが大丈夫です。だから、個人用でお願いします。SNSには載せないでくださいね」

「もちろんです。しかし、こういう動画ってニーズあるんじゃないですかね?作らないんですか?」

「いやーーー難しいんですよ。例えば、今話したような内容は、SNSに上げると、結構批判コメントつくと思います」

 世良は大袈裟に首を左右に振った、

「そうなんですか?とても分かりやすいと思いますが・・・」

 耕作は、お世辞ではなく、本当に不思議という顔をした。

 それは、世良の待っていた反応だった。


「今言った話は、伸太郎君の出来ていないポイントだけに的をしぼってますし、今までの経緯まで踏まえたフルカスタマイズですからね。『それをやっても出来ない子はいる』って批判されるかと」

「なるほどね」

 耕作は、にやりとした。


「難しいんですよ。。子供の体育って・・・」

 世良はテンションを落とし、説明モードのスイッチを切った。


「おっしゃりたいことは分かりました。確かに、世良さんのレベルを保育園の先生に求めるのは違いますね。集団向けと個人向けフルカスタマイズは、教育としてまるで別物だ。ただ、先生の言葉がキッカケで出来なくなるのはな・・・親としては文句の一つも言いたくなりますが、そこはどうですかね?」

 耕作の言葉にもう怒りは無い。純粋に世良の意見を聞きたいという感じだ。


「答えになっているかどうか分かりませんが・・・私、スタッフ教育では、いつも言われるんですよ。『お前は答えを与えすぎだ。もっと本人に考えさせろ』って」

「奇遇ですね。一緒です」

「やっぱり?そんな気がしました」

 ここで笑いが起きる。

「もちろん、それに対する反発もあります。『考えさせろ』ってのは、答えを与えてやれないヤツの常套句、もっと言えば教えてやれないことを正当化する言葉なんじゃないかって」

 耕作の賛同を得たことで、世良は少し毒舌になる。

「同感ですね。『自分で考えろ』と言いつつ、実際は答えを知らない人間を掃いて捨てるほど見てきましたから」

 耕作の方がより毒舌だ。


「でもね・・・じゃあ、実際自分が『与えすぎ』と言われるほど答えが考えられるようになったのは、誰のお陰かというと・・・ロクに答えをくれなかった先生、先輩、上司達であることは否定できないんです」

「認めたくないですね・・・でも、そうなんだろうなぁ・・・」

 耕作はカラカラと笑った。


「だから、今回も、伸太郎君は今は出来なくても、先々自分で考え、克服する可能性もあるわけです。そうなったら、その方が彼にとっては絶対に財産になる。こういう手助けは、ひょっとしたら、大きなお世話なのかもって、いつも悩みます」


 これは世良の本心だ。

 難しい問題なので、シンプルに本心を含めて判断材料を全て示した。


「確かにね。子供の成長にとって、最初の説明ってのは、多少不親切な方がいいのかもしれませんね。自分を鑑みるとですが」

 耕作は自分に言い聞かせるように言った。

「はい。もちろん、子供のキャパを超える不親切はいけません。その見極め、バランスが難しいんです」

 ここで少し沈黙が起きる。二人ともこの答えを持っていない、そして、答えがないことも分かっているからだ。


「ちなみに、世良さんは判断基準ってあるんですか?『教える』か『自分で考えさせる』かの」

 耕作が聞いた。

「ないですね。理屈では分からないので、最後は勘や感情で決めることが多いです」

「そうか・・・そうなりますよね・・・」

 耕作は遠くを見た。

「ならば、やっぱり教えていただいた通り、伸太郎に練習させてみます。もちろん、孝太郎と相談しながら。二人が喜ぶのを見たいですからね。これが親の『感情』です」

 世良は深く頷いた。

「何よりの判断基準だと思います」

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