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跳箱と最適解 練習方法

 セミナーが終わると、絵里奈と孝太郎は運動公園の更衣室で着替え、黒須スポーツ新港北台店に向かった。

「どうぞ、こっちです」

 と、一足先に戻っていた世良がバックヤードのミーティングスペースに二人を通す。

 そして、フリーズドライの味噌汁を紙コップに入れ、ウォーターサーバーからお湯を注いで二人に差し出した。

「旨っ!雨の日の練習後は味噌汁が合うって、本当っすね」

 と、孝太郎。

「なんか、私まですみません・・・」

 と絵里奈。

「いえ、賞味期限が近い商品で、店には出せないヤツなので遠慮なく」

 世良は答えつつ、何か段ボールで工作を続けている。


 工作と言っても、空き箱にひたすら切った別の段ボールを詰めているだけ。それが終わると、布テープで厳重に蓋を閉じ、周辺を補強するように更にテープを巻いた。そして、箱の四方八方をパンパンと叩き、強度を確認する。

「これ、あげます。家での練習用の跳び箱。あっ、でも持って帰れるかな?」

 世良は外の雨の様子を気にした。

「大丈夫です。さっき連絡したら、父が車で迎えに来るそうなので」

 そう答えつつも、孝太郎は箱に興味があるようで、軽く叩いたり跳び箱の要領で手を付けて乗り込んだりしている。


「そう。それ!」

 幸太郎の様子を見て世良が言った。不思議な顔をする孝太郎と絵里奈。世良は構わずホワイトボードに向かって行き、ペンを持って話した。


「跳び箱が苦手な子ってのは、いくつか要因があります。一つは今孝太郎さんがやってた動作です」

 そう言って世良は、テーブルに両手をついて乗り込んで見せた。


「跳び箱って脚だけで跳ぶんじゃないんですよね。半分は手で跳びます。弟さんが1段は跳べるというのは脚だけで跳んでいるんでしょう。だから、この『手で跳ぶ』ことをしっかり練習すればいい」

 そう言って、板書をした。


 ポイント

 ・手で跳ぶ


「そうだ。弟さんの指導は、私じゃなくて孝太郎君がやった方がいいでしょう。その為のポイントを今、教えちゃいますね」

「ありがとうございます。。。でも、なんでオレの方がいいんですか?世良さんの方が絶対うまく教えてくれると思うし・・・お金はちゃんと払います!」

 幸太郎は、世良が金銭面で気を使ったのだろうと思った。しかし、もともと依頼するつもりで小遣いを用意してある。だから、それは不要と伝えたかった。


 世良はゆっくり首を振って言った。

「あんまり登場人物を増やしたくないんですよ。上手く出来ない時に、色々な人から色々な事を言われるのって大人でもキツイでしょ?」

 確かにと、孝太郎は陸上のフォーム練習をしている時を思い出した。


「弟さんには、とにかく家で練習をいっぱいさせてあげて欲しいんです」

 そう言って世良は板書に『練習量』と追記した。


「出来ない時って、気楽な環境で試行錯誤しながら、練習量を重ねた方がいいんですよ。列を作って、順番待って、他人に見られながら失敗するって、嫌ですよね?」

「ああ、なんか分かります」

「だから、家でお兄ちゃんに見てもらいながら、いっぱい練習するぐらいが、ちょうどいいんですよ」

 そう言って世良は板書の『練習量』の隣に『気楽に』と追記した。


「確かに。これで練習沢山すれば、なんか出来そうな気がします」

 幸太郎は、渡された練習用の跳び箱を持って言った。

「うん。極端な話、これを渡して、この動きだけ教えて、後は勝手に練習させても跳べる場合はあると思います」

 そう言って、世良は箱に両手をつき、手を着いたままお尻を上げるように何度かジャンプを繰り返した。

 

「手で跳ぶためには手の平に体重を乗せること。その為には、着いた手の平よりお尻が上がらなければいけない。これが先です。よく言われる『遠くに手を着く』を意識しすぎると、出来ない子はお尻が上がらなくなります」

 そう言って、世良はポイントに追記した。


 ポイント

 ・手で跳ぶ

 ・練習量(気楽に)

 ・お尻を上げる→慣れてきたら上げつつ開脚


 書いた後、実際に手を着いて、両足を開脚しながらジャンプする動作をやって見せる。


「だいぶ跳び箱っぽいですね」

 絵里奈が言った。

「うん。これなら出来そう」

 と孝太郎。

「それ!それを弟さんに思わせるのが一番大事。だから、少しでも出来たら『出来てる』『跳べそうだ』といっぱい言ってあげてください」

 幸太郎は強く頷いた。


「で、最後はこれです」


 ポイント

 ・手で跳ぶ

 ・練習量(気楽に)

 ・お尻を上げる→慣れてきたら上げつつ開脚

 ・箱を後ろに送り出す→背筋


「背筋?」

「そう。今時は背筋使うの苦手な人って多いんですよ。跳箱に必要な背筋動作は、これです」

 そう言って世良は両手を伸ばし、『前ならえ』の姿勢をした。そこから肘を伸ばしたまま手を下し、『気を付け』の姿勢になる。


「これに動作を加えると跳箱になります」

 今度は、両足を肩幅の二倍ぐらいに開いてから『前ならえ』をする。そして、手を下しながら上体もかがめた。両手は股の下を通る形になる。

「確かに跳び箱の動作ですね」

 と絵里奈。

「はい。これに何かしら抵抗をかけて背筋を鍛えると良いと思います。タオルを持って引っ張るとか」

 そう言って、世良は孝太郎にタオルの片方を握らせた。もう片方を世良が握り、握ったまま先ほどの『前ならえ』から『気を付け』の動作をする。孝太郎の力加減で抵抗がかかる形だ。

「なるほど。負荷はどれぐらいがいいですか?10回3セットぐらい?」

 と、孝太郎。

「筋肥大が目的じゃないんで、適当でいいですよ。背筋の使い方のコツを覚えるのが目的だから、回数をこなしてください。他には、シンプルにこういうのでもいいです」

 そう言って世良は、段ボール跳び箱にまたいで立ち、両手で股の下の箱を叩いて後ろに飛ばした。


「うん。跳箱っぽい」

 と絵里奈。

「こういうのをやってる内に、頃合いを見て跳ばせてください。言わなくてもコツを掴めば勝手に跳びたくなる場合もあります。もし途中で勝手に跳んだらそれでOK。他は教えなくても、後は好きに練習回数こなせば大丈夫です。で、跳べたら別の大きさの箱を作ったりして、後はひたすら練習です」


 そう言って、世良が練習用の箱を作るポイントを話した所で、ちょうど孝太郎の父が到着した。

 世良と絵里奈が簡単に挨拶を交わす。

 

 孝太郎は大事そうに箱を抱え、車に乗り込んで行った。

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