表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/77

男の産後ダイエット エピローグ

 近藤家では朝の6時に目覚ましが鳴る。

 朝の6時から7時までが長男がTVゲームをやっていい時間としているからだ。

 長男涼太はゲームの為に、毎日あきれるほど規則正しく起きてきてくる。

 次男功太と妻はまだ布団でもぞもぞしている。別に寝坊ではない。涼太が早いだけで家族としては7時起床なのだ。


 しかし、ここ最近は哲也も涼太に合わせて起きている。

 ゲームを始めた涼太を横目にキッチンに向かい、冷蔵庫を開け、麦茶を取り出す。

「リョウも飲むか」

「うん」

 自分と涼太のカップに麦茶を注ぎ、涼太の分をテーブルに置いた。

 哲也は自分の分の麦茶を飲み干すと靴下を履いた。格好は既に上下ジャージを着ている。

「着替えるというプロセスが朝は特に億劫ですからね。すぐに外に出られる格好で寝るのがお勧めです」

 という世良の言葉に従っているのだ。

「今日もシュギョーしてくるの?」

 涼太が聞いた。

 最近ハマッているアニメの影響で、トレーニングのことを修行と言う。

 少し前まで可愛らしい世界で生きていたのに、すっかり可愛いは卒業し、カッコイイを好むようになった。

「そうだよ。パパ強くなるんだ」

 子供向けのリップサービスではない。実際にやればやるだけ何かしらの成果が出るので、そこに面白さを感じ始めていた。

「ふーん」

 涼太は少し何かを考えたような目で父親を見ていた。


 強くなるために修行する男は、両手にゴミ袋を持って外に出た。

 公園に行く道すがら、所定の場所にゴミ袋を捨て、網をかける。


 5分ほど歩いて公園にたどり着くと外周を5周走った。1周は約500mだ。

 その後に公園に入り、だいたい50mの木と木の間を跳ねるように走る。それを1往復。

 そして、ベンチに手をついて腕立てを20回、鉄棒で斜懸垂を10回、ジャングルジムを利用してストレッチを5分程度行って帰宅する。

 時間にして30分程度。

 しかし、これを繰り返すと1500m走、50m走、立ち幅跳び、柔軟性の数値が向上する手ごたえがある。

 背筋力や握力も多少は上がるかもしれない。

 垂直飛びや投擲関係は昔からどうも苦手なので手を付けていない。

 それよりも、長いこと出来なくなっていた懸垂が、10年ぶりに出来そうな期待感が大きくなってきた。

筋力強化と同時に、体重を後1、2キロ軽くなったらできそうだ。

 ダイエット開始から約2か月。まだ1kg程度しか体重は落ちていないが、運動をしているせいか随分体が軽くなった感触がある。

 もうちょっと食事制限する回数を増やしてみるか?この生活にも慣れてきたし、たぶん、週にあと2回ぐらいは増やせそうだ。次にトレーニングに言った際に世良に相談してみよう。


「月1回のトレーニングならば、そこでの運動だけで痩せることは出来ません。普段の生活で頑張ってもらうことになります。それならば、月1回の来店時は普段の答え合わせとして体力テストをしましょう」

 世良がそう提案した。

 大人になるとなかなか測る機会の無い体力テストをやってみようとのこと。

 それも、ダイエットの取り組みをすれば記録向上が見込めるものの中から、哲也の興味のある種目を選んで測定してくれるという。

 最初は(そんなに上手くいくものか?)と半信半疑だったが、初日の測定の際に、ちょっとした走り方、跳び方等のコツを習ったら思ったよりも動けたのが面白かった。

 そして、より記録を伸ばすための練習方法を教えてもらった。

 何より、個人練習をする為のコツが分かりやすかった。

「運動すると決めた日は、とりあえず公園までの往復だけしてください。これは携帯ゲームのログインボーナスみたいなものです。気が向かない時はログインボーナスだけ貰ったら他は何もしなくてかまいません」

 実際にやってみると、この最低限ログインボーナスだけ取りに行くというやり方は、自分の生活、性格に合っているようだ。

 そして、いくつになっても自身の体力が、数値として向上するのは面白いものだ。

 そんなことを考えながら帰路についた。


 帰宅すると、妻が次男功太と格闘していた。

「ナイスタイミング!」

 妻が声をかけてきた。

「うんち?」

 まわりに散乱しているオムツとおしり拭きで一目瞭然である。哲也はオムツを回収しウンチの状態をチェックした。

 少しゆるめだが風邪と言うほどではない。飲み物を飲ませ過ぎたのかもしれない。ただ、ゆるさと量の多さでオムツに収まり切らなかったのが一番の問題だ。

「背中までウンチまみれなんだ。一緒にオフロで洗ってくれない」

「わかった。とりあえずこれ、トイレ流してくるね」

 そういうと哲也はオムツの中身をトイレに流し、オムツと使用したお尻拭きをビニール袋に封印した。

「よし、コーちゃん、おふりょ行くか」

 抱え上げた功太は既に全裸にされている。

「おーりょ」

「そう、おーりょ、おふりょ、おふろな」

「『おふろ』言えたねぇ!パパとおふろ行ってきてね」

 哲也達が会話をしている様子を長男涼太がじっと見ていた。


「どうした?まだ時間あるからゲームしていていいぞ」

「あのさー・・・リョウさー・・・」

 涼太は少しもじもじしていた。最近、強がって自分のことを『オレ』と言うが、何かお願いがある時は、以前の一人称の『リョウ』を使う。

「何?リョウも一緒にオフロ入る?」

「そうじゃなくて」

 なんだろう?

「明日もシュギョーする?」

「うん。晴れてたらね」

「じゃあ、明日リョウもパパとシュギョーする!」

「ゲームしなくていいの」

「いい」

「そうか、シュギョーは厳しいぞ!大丈夫か?」

 涼太の目が輝いた。

「大丈夫!リョウも強くなってママとコウちゃん守る!」

お読みいただき、ありがとうございます。

この後も連作短編の形で続く予定です。よかったらまたご覧ください。


■内容についての蛇足

小さいお子さんがいらっしゃる中でのダイエットって本当に大変だと思います。

というか、私は大変でした。。。

だから「〇〇ダイエットがオススメ」という話はどうしても現実的にならないので、こんな形にしました。

先の「ダイエットの嘘と方便」もそうなのですが、ダイエットに関しては、現実的なことを書こうとすると、どうしても地味になってしまいます。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 男性のダイエットって、個人でやるとすぐ「根性!」って方向に走りがちで…… (友人でもろにそんなタイプがいます。四十過ぎて毎日5キロ以上走るのをいきなり日課にしたりする。膝は消耗品だと言って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ