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男の産後ダイエット モチベーション維持方法

 気が付けば2枚のホワイトボードはビッシリと色々書かれていた。

 世良はそれを一度写真に撮ってから大部分を消しにかかる。

 結果として、次の2行だけ残した。


 ・運動:1回200kcal消費×週3回 = -600kcal

 ・食事制限:-300kcal×週3.5回 = -1050kcal


「うん。だいぶシンプルになりました。後はこの二つで具体的にどんな指導をするかと、どんな管理をするかですね。どうやってネタ出ししようかな・・・」

「まず一番ツマらない手段を考えてみたらどう?」

 渡辺が言った。

「今日話してて思ったんだけどさ。世良君って、面白いことしようと考え過ぎなんだと思うようよ。それは長所でもあるんだけど、今回はそれでハマったわけでしょ。戸塚君も世良イズムにだいぶ染まって来てるから、まずはツマらないけど結果だけは出るって方法で作って、それをいじった方が進むんじゃない」

「確かに!」

 世良が答えた。

「ブレストですね」

 所沢は覚えた言葉をすぐ使いたがる。

 満足げな所沢を尻目に、世良は勢いよく板書を始めた。方向性が見えた時の彼の仕事は非常に早い。


「こんなもんでしょうか?」

 ホワイトボードは瞬く間に埋まっていた。


 ・1回200kcalの運動例:

   ・通勤を利用したウォーキング1時間

   ・ジョギング30分

   ・スクワット500回 etc


 ・食事制限-300kcal例:

   ・自炊する際に自分の量を半分にする

   ・子供の残りを食べない


 ・管理方法:

   ・運動や食事のメニューを渡す

   ・奥様にも共有する

   ・日誌を付けてもらう

   ・来店時に日誌確認


「うん。確かにまったく面白くは無いけど、まぁこういう指導もあるよね。後はこれに対して本人が面白く感じる要素を味付けすればいいんじゃない」

 渡辺が言った。

「ええ。そうなると、この方、近藤哲也さんが、どんなことに面白味を感じるかなんですが、これがあんまり情報が無いんですよね。そもそも来店も本人の意志と言うよりは奥様発だということなんで、痩せることにそんなにモチベーションを感じない可能性もありますし」 

 世良は改めて本人のプロフィールが書いてある紙を眺めた。

 もう幾度となく見ているので、内容はすっかり暗記しているのだが、これはもうクセになっている。


「逆に言えばだよ」

 渡辺が言った。

「真の顧客は奥様とも言えるから、ガチガチに管理して結果だけ出せばいいという考えもあるよね。まぁ、それじゃ世良君は納得しないと思うけど」

「いや、最後はそういう割り切りも必要なんじゃないかとは思ってます。でも、できることなら、何かしら楽しんでは貰いたいですね。でも趣味の情報も携帯ゲームぐらいしかないし。。。」

「そうか」

 渡辺が何かを気づいた顔をした。


「世良君が行き詰ってた理由がもう一つ分かったかもしれない」

「えっ、なんでしょう?」

 渡辺はニヤリとして言った。

「世良君さ、ストレートに言うと、この方、近藤さんは気の毒だと思ってるでしょ。日々仕事と家事と育児に追われて、楽しみは携帯ゲームぐらいしかないって」

「そこまでは言いませんが・・・だいたいそんな印象です」

 渡辺は『だよねぇ』と呟きながら何度か頷いた。

「ボクの印象は逆でさ、近藤さんは今、結構充実してるんじゃないかなって思うよ」

「えっ?」

 世良と所沢は同時に間抜けな声を上げた。


「世の中は結構育児に対してのネガティブキャンペーンのような情報も多いけどさ、育児って楽しいよ。特に、40前後で出来た子供なんて、可愛くてしょうがない。それに限られた時間でのやりくりや、トラブル対応なんて、まさに仕事のタスク管理そのものだからさ、やりがいもけっこうあるよ」

「そうなんですか?」

「うん。特に上の子が5歳だから、もう5年もそんな生活してるんでしょ?根性だけじゃもたないよ。もちろん辛いこともいっぱいあるけど、それ以上に子供が可愛いんじゃないかな?ってボクは思った」

「そうなると、何か新しい趣味を考えて提案とかは・・・」

 世良が申し訳なさそうに言った。

「大きなお世話かも。育児が充実してると、あんまり他に興味がいかないんだよね。そろこそ携帯ゲームぐらいあれば十分って気持ちはよく分かる。手軽だからね」

「そうか。。。ありがとうございます!しかし、ナベさんもやるんですか?ゲーム?」

 世良は何か吹っ切れたような気がした。それにしても、新しい考えはすぐには浮かばないので、軽く話題を変えて見た。


「やるよ」

 渡辺も軽く答えた。

「どんなのやるんですか?」

「特に決まってないかな。テキトーなのを3か月から半年やって、重課金しないと進まなくなったら止めて別のをやるって感じ。今はこれやってる」

 渡辺は自分の私用携帯の画面を見せた。

「あっ広告でよく見ます。面白いですか?」

 戸塚が聞いた。彼がこの手のゲームをよくやっているのは世良も知っている。

「まぁまぁだね。でも、育児中は、まぁまぁぐらいが丁度いいんだよ。いつでも止められるから」

 渡辺の言葉を受けて、世良はホワイトボードにいくつかメモをしている。


 ・手軽

 ・まぁまぁぐらいが丁度いい

 ・いつでも止められる

 ・3か月~半年


「自分はあんまり携帯ゲームやらないんで、教えて欲しいんですが」

 世良は自分のメモを眺めつつ言った。

「まぁまぁ面白い程度のものを半年もやるんですよね。自分の知ってるTVゲームって相当面白い物でも、せいぜい1か月ぐらいしかやらないと思うんですが、携帯ゲームって何が違うんでしょう?」

「1回の時間が短いですからね。せいぜい10分前後、ログボ貰うだけなら1分です」

 先に答えたのは戸塚だった。

「ログボって?」

「ログインボーナスの略です。1日に1回、ゲーム画面開くだけで何かアイテムとか貰えるんです」

「へー。それってどのゲームもそうなの?」

「だいたいそうですね。とにかく、1日に出来る行動回数とかに制限があるから、進めたくても進められないんですよ」

「なるほど。目的ってどんなのが多いの?ストーリーを進めるの?」

「いや、ストーリーはオマケだね。自分のキャラクターを強くすること」

 渡辺が答えた。

「それで飽きないもんなんですか?」

 世良はホワイトボードの箇条書きに『・強くなる』と追加しながら聞いた。

「やること無くなったら飽きるよ。でも強くすることが細々とあるんだよ。自分のレベル上げたり、武器揃えたり、仲間増やしたり、スキル身に付けたり。それで、定期的にイベントがあって、やることが増えるんだよ。やることはいっぱいあるけど、その1つ1つはたいして時間かからないから片手間で出来るんだ。飽きるほど長時間やらないってのが答えなのかもね」


「なるほど・・・似てますね・・・」

 世良が呟いた。


「育児の片手間で出来ることってのは、そういうシステムにした方がいいのかもな」

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