男の産後ダイエット 何が難しい
「何が厳しいの?1年に5kgってそんなに目標高くないと思うけど」
所沢の呟きを渡辺が拾った。
「はい。目標は高くないです。でも、結果が出し辛いんです。月一回じゃどんな運動しても痩せませんから、結局普段から自分で頑張ってもらうしかないんですよ」
「そういう人には家での運動指導とか食事、生活のアドバイスとかするじゃないの?」
「そうですね。そうなんですけど、そういう時に一番成果の出る糖抜きがNGで、有酸素運動にも制限があるとなると、かなり地道な管理をするしかないんです。これは、とても成功率が低いんです」
「そうなんだよな」
世良は頷いた。
「もう少し詳しく教えてもらっていい?」
渡辺はまだ腑に落ちないという顔で聞いた。
「ほとんど世良さんの受け売りですけど・・・」
「いいよ。話してみ」
世良が発言を促す。
「はい。ダイエットは結局は消費と摂取のカロリーのバランス管理に行きつきます。太っている人はこの管理に問題があり自分じゃ管理出来ていないのが現状です。だから正しく管理すれば痩せます」
「そうだね。合ってるよ。続けて」
所沢は不安そうに世良をチラチラ見ながら話すので、世良は続きを促した。
「ただ、現状管理出来ていないのには、それなりの理由があります。だから『管理しましょう』と言った所で出来ないのが普通です。そこを工夫するのがトレーナーの仕事なのですが・・・工夫が入る余地があまりに少ないというか・・・」
「そうだね。特にこの方の場合、管理出来ない理由が育児だから、生活に手を入れるのが難しい」
世良がそう言うと、渡辺は一瞬首を傾げた。
「じゃあ、今まではどうしてたの?産後ダイエットなんて初めてじゃないでしょ?」
これはもっともな意見だが、これが世良にも戸塚にも答えづらい質問でもある。
「いや、実は今までも産後ダイエットは簡単じゃなかったんですよ。ただ、今までは運動や糖質制限が可能だったり、来店頻度が週一程度確保できたり、本人のモチベーションが高かったりで何とかなってたんですが・・・」
相手が渡邊なので世良は正直に答えた。正直今までも綱渡りだった。しかし、今回は綱すら霞んで見えないので覚悟を決めて助けを求めたのだ。
「なるほどね・・・」
渡辺は腕を組んで、一回何かを考えるように背もたれにもたれかかった。
「世良君だから何とかなったけど、他では何とかならないケースもあったってことか」
「はい」
ダイエットに限らず、目標を持って来店されても、そこにいたる前にトレーニングを止められる方は一定数いる。渡辺が言うのはそのことだ。
「ハッキリ言ってトレーナーの平均年齢が若いウチの弱点だと思ってます、産後ダイエットは。そもそも産後の生活がリアルじゃないから、来店頻度を上げられない方にはツマらない一般論しか指導できない。だから成功、失敗はお客様のやる気にかかっているのが正直な所です。だから今回しっかり対策を立てようと思いまして」
「なるほどね」
渡部はもう一度「なるほどね」と呟いた後、手を頭の後ろに組んで軽く背伸びをしながらホワイトボードを見た。
見ながら何かを考えている。
そして、考えても分からないという顔で言った。
「おおよそは分かったんだけどさ・・・やっぱり、おおよそしか分からないんだよね」




