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美脚の見せ方 パーソナル

「なんでそう思う?」

 高田が古田に聞いた。

 先ほどまで話していた美脚トレーニングの一般的な内容が、この相手には使えないのではという古田の意見に対してだ。


「今、この人の過去動画をさっと見たんですけど、美脚は色々やってるんですよね。ヨガにバレエにエステにウォーキング・・・」

「ホントだ」

「ざっと見ただけですけど、ちょこちょこ似たようなことやってます。あっO脚矯正もやってますね」

「でも、その後の他の動画を見るとO脚はあんまり直ってないね」

「確かに」

 みんながそれぞれの携帯で動画チェックを始める。


「確かに色々被ってるけど、そこは、こっちがあんまり気にしなくていいんじゃないか?」

 高田が言う。

「むしろカブることを怖がりすぎて、トンデモ理論晒すよりいいだろ。たまにあるよな、そういうの」

「ありますね。スクワットや、ランニングや、プロテインや、定番のトレーニングとかサプリを無理やり否定するみたいなの」

「そういうのって、コメント欄見ると非難凄いよな。炎上商法なら承知の上かもしれないが、ウチがやりたいことはそれじゃない」

「ですね・・・」

「むしろ、正しいことやってれば必然的に何かしら被るよ。それはマイナスでは無いんじゃないか?」

「確かに」

 おおかた高田の意見に同意だが、古田はあまり納得していない様子。

「まだ何か引っかかる?」

 世良が古田に問いかけた。


「説明が難しいんだけどな・・・世良さんは、この人に定番のことやって、いいリアクションすると思う?」

「素人ならしないだろうね。ただ、向こうもプロだから、それなりに合わせてくれるんじゃない?どういう意図か分からないけど、そもそも美脚を指定したの向こうなんだし」

 答えながらも、世良は古田が言わんとしていることを、朧げに理解した。


「なんで美脚を指定したんでしょうね?」

 青田がつぶやいた。


「そこだよ!」

 古田と世良が同時に言う。


「ビジネス的な意向はもちろんあると思う。美脚が数字取りやすいとか。でも、他に比べて過去の美脚が飛びぬけて再生数高いわけでもないから、やっぱり彼女自身の要望が少なからずあるんじゃないかな」

 世良がホワイトボードに、いくつかの動画のタイトルと再生数を抜き書きしながら言った。


「でしょ。たぶん、今までのチャレンジでは納得できてないんだと思うんですよ。そんな人にビジネス的なリアクション取ってもらって体裁だけ整えるって、気持ち悪くないっすか?満足してないって分かってるのに形だけやるのってどうなんだろって」

 古田のその言葉を聞いて、青田は初めて世良と会った時の事を思い出した。


「その人はマニュアル通りが一番効果があるならマニュアル通りやればいい。ただし、マニュアル通りに見せないのがトレーナーの腕だ」

 世良はそんなことを言っていた。それ以来、お客様のメニューを考える際に、いつも気にしている言葉だ。今回はどうか?

 マニュアル通りでは駄目だと分かっている。しかし、そう見せないように『お客様が』演じてくれる。それって・・・


「確かに気持ち悪いですね」

 青田が言った。

「ねっ」

 世良と古田が同意する。


「お前らにそう言われちゃ何も言えないよ。でも、じゃあどうする?」

 高田が呆れたような、感心したような口調で言った。


 古田と青田が世良を見る。

 世良が凄い勢いでホワイトボードを消しているからだ。


「2軸で考えましょう!」

 と世良。

「やっぱ、そうっすよねー」

 と古田。

「うるせぇ」

 と高田。


「まずは、先ほどの青田さんがやってくれたパターンは活きです。何事も無ければこれでいきます」

 そう言って、『1.青田パターン』と板書した。


「しかし、本心は違う要望があることが十分想定されます。そして、その本心は出てこない場合があると想定します。何故なら彼女にはインフルエンサーとして動画を成立させなければいけないという制約があるから」

 世良は板書を続けた。


 1.青田パターン

 2.本心パターン

 ・想定本心(最悪ケースで)

 ・引き出し方


「まず、本心は何かというのを考えておきましょう。これは考えられうる限り一番青田さんがやりにくいケースで考えておきます。セットで、その本心を引き出す方法も考えておきましょう」

 世良がそこまで説明すると、すかさず古田が意見を言った。


「一番難しいのは、ふくらはぎもバキバキに筋肉付けたいって場合だね」

「なんで?」

 渡辺が質問をする。

「ふくらはぎって、なかなか筋肉つかないんですよ。普段から酷使される部位なんで、トレーニングが効きにくいんです」

「さっきは『ふくらはぎに筋肉付けないよう気を付ける』って言ってたよね」

「そこが厄介なんです。ふくらはぎって、細くしたい人の思う太さよりは太くなりやすく、太くしたい人が思うよりは太くなりにくいんです」

「なるほどね。でも出来なくはないんでしょ」

「出来ますが地味なんです。即効性が無いから、見せ方が一番難しい」

「スプリンターみたいにアキレス腱まで鍛えたいとなると、もっとやっかいだよ。1年はかかる」

 世良が話を膨らませる。

「でもそれなら見せ方はあるよ。青田さんに頑張ってもらう要素が増えるけど」

「何ですか?知りたいです!」


 会議は更に白熱した。

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