表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/77

美脚の見せ方 一般論

 世良はホワイトボードを見ながら腕組みをしている。

 他のメンバーも無言だ。

 完全に無音ではないのだが、言葉らしい言葉が出てこない。


 スゥーーーという息遣い。

 うーーーんという唸り。

 難しいなぁーという呟き。

 ふーーーっという溜息。


 そんな時間が1分ほど続いただろうか。高田が口を開いた。

「世良」

「なんでしょう?」

「見出しの件は一回忘れねぇか?ゴールが遠すぎてなんも思いつかん」

「ですね。。。」

「まずは、一般論で美脚のトレーニングって何するかネタ出ししよう」

「ボクもそう言おうと思ってたんですよ!」

 と古田。

「うっせえ」

 と高田。


「これ消していいですか?」

「ああ」

 世良はホワイトボードを勢いよく消した。

 そこかしこに消し残りがあるのだが、気にせず殴り書きする。

 世良は書くことで思考のリズムをつかむタイプなのを知っている他のメンバーは、彼がこうなったら見守ることにしている。


 一般的な美脚トレーニング

 1.筋トレ:太もも、臀部

 2.ダイエット

 3.立ち方

 4.歩き方

 5.むくみ取り


 ここまで書いて世良は口を開いた。

「こんなもんでしょうか?」

「だね」

 と古田。

 青田は無言で頷く。


「筋トレって腿と臀部だけなの?」

 と渡辺が質問した。

「そうですね。それだけってワケではないのですが、ふくらはぎを太くしないように気を使うのが他の筋トレと違うところですね」

 世良が答えた。

「そもそも美脚とは何か?って話なんですが、一般的には足を細くしたいという要望が多いんですよ。お尻は形よく、腿はほどほどに筋肉があり、ふくらはぎは細くってのがまぁ一般的な美脚ですね」

 古田が補足した。

「ただ、最近では女性でも、腿とお尻はボリューム出したいと行く人もいるので、どのぐらいにするかはカウンセリングで決める感じです」

 青田も発言する。当初はベテラン揃いの中では委縮することが多かった彼女だが、最近はどんなメンバーでも物おじせず発言するようになってきた。


「さっき古田君が言ってた『その場で足を細くする』ってのは?」

 渡辺が更に質問する。この中でトレーナー畑ではないのが彼一人なので必然的に質問が多くなる。

 逆に他のメンバーからすると渡辺の質問が素人の、すなわちお客様の意見、感想に近いので、それに答えることで思考を整理し、ヒントを探すことが出来る。

 自然とそういう時間になって来た。


「それは3.4.5ですね」

 古田が渡辺の質問に答える。

「むくみ取はなんとなく分かるけど、立ち方で細くなるの?」

「細くはなりませんが、細く見えるようになります。青田さん、説明できる?この間研修でやったよね」

 古田が青田に話を振った。


「はい。そしたら・・・世良さん、こっちに来て立ってもらっていいですか?」

「ほい」

 世良が直ぐにコの字にした会議テーブルの中に来て、渡辺の方を向いた。

「両足の踵とつま先をピッタリくっつけて立ってください」

 世良は意図を理解し、青田の望む通りに立った。


「渡辺さん、見えますかね?この状態で世良さんは膝と膝の間が5cmぐらいあります。間が空いてるので脚も外に広がって太く見えます」

「O脚ってヤツね」

「はい。厳密にはO脚って色々なタイプがあるんですが、美脚希望の女性はこのタイプのO脚が多いです」

「ほうほう」

「では世良さん、踵を付けたまま爪先を開いてもらっていいですか?90度ぐらい開く感じです」

 世良は指示通りに動く。

「そうすると膝と膝がくっつきますよね。足のシルエットも綺麗になります」

「ほんとだ!これだけで」

「はい。よくO脚はガニ股というイメージを持っている方が多いですが、このタイプのO脚は内股なんです」

「へぇー」

 初見の渡辺は普通に驚いた。


「でもこれだけじゃないんです。内股はお尻も大きく見えます!渡辺さんも立っていただいていいですか?」

 青田は止まらない。

「自分のお尻に手を当ててください」

 そう言いながら身振りでやって見せる。

「お尻に手を当てたまま、今の世良さんの爪先を開いたり閉じたりする動きをやってみてください。爪先を開いた時にお尻がキュッと上がるの分かります?逆に内股にすると、お尻は広がりますよね?」

「本当だ!」

「これがその場で出来る一番簡単なヒップアップです。お尻には股関節を外旋がいせん、つまり外股にする為の筋肉が多いので、この動きをすれば自然にお尻が締まるんですよ」

「へぇーーー。じゃあ普段からこうしてた方がいいの?」

「そうですね。ただ、女性の場合、分かっていても難しいです。普段ヒールのある靴を履くことが多いので。ヒールを履いてこの姿勢を取ること、そしてこの姿勢のまま歩くことって難しいんですよ。ちょっとやってみてください」

 やはり青田は身振りで爪先立ちの誘導ををし、渡辺はそれに従う。

 青田は爪先立ちのままモデルのように見事に歩くが、渡辺はよろける。

「ああ、確かに先生みたいに出来ないね」

「ちなみに、今度はやや内股で、骨盤を軽く前傾させて爪先立ちして見てください」

 渡辺は指示された通りにする。

「この方が安定するね」

「ですよね。何もしなければ、ヒールと相性がいいのは内股なんです。でも、これはトレーニングで変えることが出来ます!だから、それを踏まえた筋肉のトレーニングと、ストレッチ、バランス、歩き方の練習をしましょう。そうすれば立っても歩いても無理なく脚がスラッと見えるようになりますよ!」

 青田はそこまで言い切った。そしてふぅと一息ついて言った。

「こんな感じです」

 後半はいつの間にかロールプレイのようになっていた。

「すげぇな」

 高田が拍手した。

 他のメンバーも続いて拍手する。

「成長したねぇ」

 古田がしみじみと言った。


 落ち着いたところでみな席に戻る。


「うん。だいたいイメージ出来た。動画もこれでいいんじゃない?というか、これってO脚矯正ってうたえないの?『矯正』はマズイかな?でも別に危険じゃないし何か別の文言でも」

 渡辺が言った。

 マズイと言ったのは薬機法のこと。医師では無い者が治療行為とみなされることは法律で禁止されている。治療行為を匂わせる『矯正』といった言葉も迂闊には使えない。


「うーーん、薬機以前に矯正してないですからね・・・矯正ってこうですから」


 そう言うと世良は、両足の踵と爪先をつけたまま、開いていた膝と膝の間を閉じた。


「えっ?どうやったの?今?」

 渡辺が驚く。


「一緒ですよ。私の膝を見ていてください。これがO脚」

 そう言うと世良は、踵と爪先をつけたまま膝、股関節だけ内股になった。それに伴い膝と膝の間が5cmほど開き、足全体のシルエットも外側にたわんで見える。いわゆるO脚の状態。


「で、これが正常」

 やはり、踵と爪先をつけたまま膝がクリッと正面を向き、膝と膝の間が閉じた。脚は真っすぐになる。


「えーーーっ!そんなことできるの??」

「足首の角度を調整できれば出来ます。逆に言うとこのタイプのO脚の人はこの位置で足首が固まっています」

 世良はまたO脚の状態を作った。


「だから、矯正するなら腕のいいカイロプラクターとかに、足首を調整して貰わないと難しいですね」

「ウチのトレーナー達は出来ないの?」

「自分と古田さんは、やれと言われれば出来ます。後は・・・誰だろう?」

 世良は高田を見た。

「たぶん、もうお前らだけだ。この辺を教えたことあるヤツらはみんな辞めたからな」

 高田が言った。

「常務ってそっち方面なんですか?」

 青田が驚く。

「知らなかった?高田さんはDCだよ」

 古田が答えた。

 DCとはドクターオブカイロプラクティック。カイロプラクティックが医療行為と同程度のステータスのあるアメリカで、大学で6年勉強して得る資格だ。


「昔は組織も小さかったし自分の目が届いたので教えた人間もいますが、もう教えてません。足首は生半可な者が調整すると怪我リスクが高まるので。世良と古田にも今は禁忌にしてます。だから矯正系の話はあまり動画で深堀りしたくないですね。色々問題があるので・・・すみませんが」

 高田が言った。

 役職は高田が上だが年齢は渡辺の方が上なので、高田は渡辺には敬語を使う。

「分かりました。リスクを考えるとしょうがないですね。しかし、やはりベテランは色んな爪を隠し持ってるんですね」

 さも残念そうにしつつ、渡辺が同意した。

「こんな爪はいっぱいありますよ。使いませんが」

 と古田。

「使えないの、もったいなくない?」

「トレーナー技術もつきつめれば解剖学になりますから、使わなくても持ってるだけで役には立つんですよ」

 と世良。

「そうですか・・・」

 渡辺はまだ残念そうにしている。


「それはそうと、話を変えてすみません」

 古田が自分の携帯を見ながら言った。

「そもそも、このネタって、この方には、あまり使えないんじゃないですかね・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ