美脚の見せ方 理念と現実
「好き放題言って去って行ったな」
水野が会議室を出た後、高田がつぶやいた。
「さて、これからどうしましょう?」
と渡辺。
「どんな内容にするか大まかな案だけでも話しておきますか。このままだと分からな過ぎて青田さん不安だろうし」
と世良。
青田がブンブンと頷いた。
「いいっすね。そのまま仕切りお願いします!」
と古田。
髙田を見ると頷いている。いつものことなので、世良は席を立ち、進行を考えながらホワイトボードに向かった。
そして、ホワイトボードに3行だけ書いた。
・確定事項:インフルエンサーに美脚のトレーニングをする
・やりたいこと(案)
・やってはいけないこと
「いきなり、カッチリしたものは出来ないので、まずはこの辺からネタ出しをしたらと思うんのですが・・・」
世良は下の2行を指して言った。
「まぁやりたいこととしては、まずは、これですかね。ウケなきゃいけないワケだし」
そう言って世良は自分で追記した。
・やりたいこと(案)
・その場で足を細くする
「そんなこと出来るの?」
渡辺が聞いた。
「出来なくは無いですよ。手段を選ばなければ」
古田が言う。世良も頷く。
「物騒だね。危ないことはやめてよ」
「体は危なくないですけどね。細く見せる『見せ方』って色々あるので」
と古田。やはり頷く世良。
「怖いな。そうだ、それで思い出したんだけど」
渡辺が言った。
「『やってはいけないこと』で法に触れることはダメだよね。特に薬機法。SNSは結構まだ緩いみたいだけどさ。でも『1日で簡単に痩せます』みたいなの、ボクらみたいな企業がやるとアウトだから」
「ですね。。。それで言うと、個人的には大げさな見出しも嫌ですね」
世良が言う。
「分かるなぁ『これだけで痩せる3つのポイント』とか『○○やってる人!今すぐ止めて!』とかね」
古田が乗って来た。
「そうそう。『○○業界の闇を暴く』とか『削除覚悟!○○の真実』とかな。だいたい、たいしたこと言ってないよな」
「高田さんもそんなの見るんですか?」
「ああ。見るよ。分かってるのに見て騙されてムカツくんだ」
「みんな一緒なんですね」
「私もそう思うんですけど・・・」
青田が申し訳なさそうに口を挟んだ。
「何?」
「今見たら、このインフルエンサーの方の動画、そういう見出しいっぱいあります・・・」
「うわー・・・」
全員が自分の携帯を取り出してチェックした。
「こういう見出し、止めてくれとは言えないもんですかね・・・」
と古田。
「向こうも仕事でやってるからな。。やめろと言うなら向こうが納得する代案出さないと、この話自体流れかねないな」
と高田。
「完全に個人じゃなくて事務所に所属しているようなので、目に余るものは止められると思いますが、それで動画が受けなかったら宣伝効果も無いし、難しい所ですね」
と渡辺。
「やりたくはないけど・・・理念と現実の狭間ですね・・・」
「販促って、いつもそうだよ。その狭間」
「それを言ったらビジネスはみんなそうだ」
みんなが沈黙する。
「大丈夫ですよ!要は、誇張ではなく本当にすごいネタ作ればいいいいんですよね!」
こういう時、前向きなことを言うのは、だいたい古田だ。
「そうだね。ということは、中身を作る際に、見出しにしやすいようにって観点も必要ですね」
「そうですよ!お願いします!世良さん!」
こういう時、実働をするのは、だいたい世良だ。




