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美脚の見せ方 プロローグ

 黒須スポーツ本社の会議室に世良は呼ばれていた。

 他には常務取締役の高田、広報部部長の渡辺、広報部副部長であり、トップトレーナーの古田、そしてトレーナーの青田。


「話は聞いてるか?」

 高田が聞いた。今日の会議の趣旨についてだ。

「おおよそは水野さんから電話で」

「そうか」

 とだけ髙田が言ったところで、会議室のドアが開いた。


「すみません。前の会議がなかなか終わらなくてね」

 勢いよく水野が入って来た。

 水野は専務取締役。毎日のスケジュールはほとんど会議で埋まっている。彼が会議に参加する時はいつもバタバタだ。

 水野は痩せすぎなほど痩せており、現場上がりの高田等と比べると、お世辞にも体力があるようには見えない。しかし、なかなかどうして、仕事に関しては異様にタフである。

「仕事してる方が楽なんだよ。休日なんていい迷惑だよ。働きたい人には好きにさせて欲しいよな。めんどくさい世の中だよ」

 親しくなると、水野はよくこんな愚痴をこぼす。

 もちろん、今時こんなことを取締役が社員に言ったら大問題なので、こういう愚痴を聞く人間は、ごく限られた人だけになる。


「ではやりましょう」

 席につくなり水野は仕切り始めた。

「だいたい聞いてるよね?というか、電話でボクが話したよね?」

 みんなが頷くのを見て水野は続けた。


「前に色々話した通り、トレーナー達がだいぶ育ってきたので、打って出ようと思うんだよ。でも、宣伝を打つにしてもパーソナルトレーニングって難しいよね。それは何故でしょう?はい。世良さん!」

 世良が唐突に振られた。

「中身が分かりにくいからですか?」

「中身と言うと?」

「パーソナルトレーニングってそもそも何するか分からない人が多いので、ただ値引きキャンペーンとかしても響かないとか」

「すばらしい!」

 水野が大げさに相槌を打った。

「その通りです。良く分からない物に対して『すごくいい物です。半額です』なんて宣伝しても誰も買わないよね。でも、中身を説明するにしても店頭ポスターやパンフレット、Webページではとても説明が難しい。じゃあ、どうしたらいいでしょう?古田さん」

「動画ですかね。実際にトレーニングしている様子とかの」

 と古田。

「その通りです。それが今回の趣旨です」

 やはり水野のリアクションは大きい。


「それでですね、こういうことを始める際に一番やっちゃいけないのは、すぐに自社で動画制作の専門部署作ることなんですよ。なぜだと思います?渡辺さん」

「素人集団なので、費用と時間がかかって、思うような成果も出ないからでしょうか?」

「その通り!」

 水野は今までで一番声を張って言った。

 世良、古田、渡辺が模範解答をしたのは偶然ではない。みな事前に、おおよその企画趣旨を水野から聞いていたので、ヒントは十分にあったのだ。


 水野は続ける。

「素人が自前でやろうとすると機材がどうの、勉強がどうのと時間とお金ばっかりかかるんですよ。そもそもウチがいきなり動画作ったって再生数増やすの簡単じゃないです。そんなに甘い世界じゃない!」

 水野はとても嫌そうな顔をした。

「それで上手くいかないとまた、お金払ってコンサルを付けたり、お金かけて動画のポスター作って店のあちこちに貼ったりね。。。宣伝するための動画を宣伝する為にお金かけるって本当に本末転倒です!」

 水野は止まらない。後に教えてもらえたが、前職で色々嫌な失敗を見てきたようだ。

「だから、既に作成ノウハウもあり、顧客を持っている所に外注するのが一番手っ取り早いです!自社でどうこうするのは、それで手ごたえを掴んでからでいい」

「ですね・・・」

 賛同したというより、みな勢いに押されて答えた印象だ。


「ということで、私のツテで美容系のインフルエンサーをかかえる事務所に依頼をしています。そして、事前調査をしてもらいました。向こうのスタッフにチケット渡して何人かにトレーニング受けてもらったんですね」

「えっ?!」

 これはトレーナー達は初耳で、お互い顔を見合わせた。

(知ってた?)

(いや、知らない)

 とアイコンタクトでやり取りをする。

 そんな様子を気にも留めず、水野が続けた。


「その結果、動画にして受けそうなのが、ここに呼んだ3人だそうです」

 世良、古田、青田は、やはりお互いの顔を見合わせる。

 当然だという顔の古田、喜びを隠しているつもりで隠し切れない世良、喜び以上に緊張する青田。

「ただ!」

 水野は区切るように言った。


「全員100点ではありません。それぞれ一長一短があります。これは本当にボクの皆さんの評価と一致するので面白いですね」

 水野はニヤリとした。

「読みます。古田さん、キャラクターは面白いし、トークも上手い。ただ、圧が強く距離感が近すぎるので、引く人はいるかも」

 世良が噴出した。

「世良さん、博学でとても興味深い理論を話し、説得力もある。ただ、マニアック過ぎて人を選ぶ」

 古田が噴出した。

「青田さん、人柄も、トークも、全て及第点で万人向け。女性らしい細やかな気配りも好印象。ただ、インパクトが弱い」

 世良と古田が大笑いした。

「よく見てますね」

 と古田。

「だいたいその通りですね」

 と世良。

「この二人と比べてインパクトと言われても・・・」

 と青田。

「お前ら、足して3で割れたらいいんだろうな」

 と高田。

「その通りです!やっぱり高田さん、わかってらっしゃる」

 水野が一段と張る声で言った。

 全員が水野に注目する。


「やはり、インフルエンサーの方にトレーニングをするのは青田さんがいいでしょう。そのブレーンとして古田さんと世良さんがついてください。テーマを先に決めておけば可能でしょ?」

「まぁそうですね」

 古田と世良が答える。

「先方の要望は美脚トレーニングだそうです。一応、2週間ぐらい準備期間を下さいと伝えてますので、それまでに中身を練っておいてください。これが先方のプロフィールです」

 水野は全員に資料を配った。

 皆が、一斉にそれぞれに渡された資料を読み込む。


「では、ボクは次の会議があるので、後は高田さん、お任せします。何かあったらいつでもご相談ください」

 水野は嵐のように去っていた。


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