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根性の作り方 根性は免疫

 数日後、水沢、世良、所沢、トレーナーの安部、他5名のボクサー達は河川敷にいた。

 ジムのロードワークに世良と所沢が帯同した形だ。

 世良はボクサー達と一緒に5km走り、これから800mを5本走るところだ。


「先生、タフですね」

「いや、私はこっちが本業ですから」

 世良と安部が談笑している。安部の言葉はお世辞ではない。

 ロードワークはいつも水沢が断トツとのことだが、世良はピッタリ付いてきて、終わり次第、息一つ切らさず安部と話しはじめた。


「800m3分で引けばいいですか」

 世良が言う。引くとはペースメーカーとして先頭を走ること。

「はい。1ラウンド動ける自信を付ける練習なので」


(あれ?)

 世良と安部の話を、それとなしに聞いていた水沢は、ふと疑問が浮かんだ。


(自信をつける?スタミナをつけるじゃなく?)

 普段、安部が言うのはスタミナと言っている。スタミナをつけた結果自信になるということだろうか?後で世良に聞いてみようと考えた。


 800m1本目。水沢は意地を見せ2分50秒で走った。世良は2分59秒。最後尾の選手は3分5秒。


「3分だと水沢さん余裕そうですね?次2分50で引きましょうか?それとも水沢さんだけ850mにします?」

 悪魔のような提案を世良が言う。

「そうですね。どっちがいい?」

 安部は概ね同意しつつ、選択は水沢に任せた。

「800を2分50でお願いします。。。」

 水沢は渋々答えた。

「じゃあそれでお願いします。他に気がついたことありますか?」

 安部が助言を求めた。


「1ラウンドの練習なら800m行かなくても3分で区切ったらどうでしょう?遅い選手はインターバルも短くなるので、集中が切れて練習効果も落ちるかと」

 安部一人でタイム管理をしている都合上、走り3分、インターバル1分と機械的に行っていた。だから3分より早く800を走りきると多く休め、3分を越えると休みも短くなる。

 世良の提案に選手達は一瞬、期待の目で安部を見た。

 しかし、安部が答える前に世良が補足した言葉で絶望した。


「もちろん、それだけならゆっくり走った方が楽になるので、足切りされた人には何らかのペナルティを付けるといいですね。足切り1回につき200m1本追加とか」

「それで行きましょう!」

 安部は即座に同意する。

 選手たちは絶望の顔を見せつつも了承する。安部は年齢こそ40代半ばだが、元日本ミドル級のランカーでジムの誰よりも体格が大きい。実際、本気でスパーリングをしたら今でも誰もかなわないという。安部には誰も逆らえない空気があるようだ。


 その後、世良の提案通りの800mを4本走った。

 世良は全て2分50で引き、水沢はなんとか4本とも付いて行った。

 水沢以外で足きりを全て免れた者はおらず、4本とも足きりの選手もいた。


「よし!じゃあ200行きましょう!800mが1ラウンドだとしたら、これはラスト30秒の踏ん張りをイメージしてくださいね!私が30秒で引きますので出来るだけ付いてきてください!インターバルはどうしましょう?1分でいいですか?」

 世良は活き活きと仕切り出すが、あくまで決定権は安部に委ねるスタンスを崩さない。

「お願いします!タイムは私が取ります」

「ありがとうございます!では行きましょう!ペース速いのである意味800よりキツいですよ!がんばりましょう!」

 言葉は丁寧だが、問答無用でペナルティランに入った。


「なんなんだあの人、化け物だな」

 水沢は200mを走っている世良を見ながら、隣の所沢に言った。

「専門だからそう見えるだけだよ。今日の800mのペースって、あの人が10km走るペースより遅いから、そりゃ余裕だよ」

「10km?!」

「うん。それでも高校生の陸上部の方が全然速い。イカれてる世界だよな」

「そっか。オレ達ヌルい練習してるって思ってるんだろうな」

「んなわけないだろ。専門が違うだけだよ。あの人だってお前とスパーリングしたら1分持たないよ。だから、そっちには出しゃばらないだろ」

「そんなもんか?」

 水沢は負ける気はしないものの、世良なら3分持つんじゃないかという気がしていた。


 二人が話しているうちに200mチームが戻ってきた。

「いやースプリント4本はシンドイね」

 そういう世良の表情は、マンガやゲームの話をしている子供のように活き活きとしていた。

「全然余裕そうじゃないっすか」

「タフすぎっすよ」

「これが専門だからね」

 いつの間にか他のボクサー達とも仲良くなっている。


「ボクシングやったらどうっすか?」

 ある者が何気なく言った一言が水沢の耳に止まった。世良はなんと答えるのだろう?


「いや、無理だよ。痛いの怖いもん」

「またまた。走る苦しさと変わらないですよ」

「いやいや全然違うよ。そもそも自分を殴り倒すために毎日練習している相手と戦うって怖すぎでしょ。無理無理!」

「そんなものかな。もう感覚マヒしているからよく分からないけど」

「そのマヒを作る為に練習してるんでしょ。素人が突然やってかなうわけないよ」


「マヒを作る為にですか?」

 水沢が割って入った。


「うん。ただマヒは言葉悪いな。免疫って言った方がいいかな。免疫は前に少し話した根性の要素の一つだよ」

 そこまで話して世良は安部を見た。

「興味深いですね。教えてやってください」

 安部が答える。

「ありがとうございます。でも、あくまで私の経験からの見解なので、ボクシングに合わないことを言ってたら訂正してください。それから・・・」

「それから?」


「腹減りません?何か食べながら話しませんか?試合近い方いないですよね?このロードワークだけでの消費カロリーにして700kcal前後あるから、よほど減量キツイ人でなければラーメンぐらい食えますよ」

「かまわないですが、ラーメンなんてパーソナルトレーナーの人も食べるんですか?」

 安部が質問する。

「普通に食べますよ」

 世良が答える。

「意外だな。そういう人達は体に良い物しか食べないのかと思ってた」

 と水沢。

「ラーメンは体に良いですよ。優秀なカロリーと水分と塩分のサプリメントです。優秀が故に過剰になりやすいだけですよ。カロリー、水分、塩分を大量消費するアスリートにはお勧めの食事です」

「へぇーそうなんだ」

 とボクサー達が関心する。


 いつもこれだ・・・と所沢は思った。勉強の為に世良に帯同することが増えた彼は、こういう場面を何度も目にしている。そして、自分の役割を果たす。


「これ、世良理論なんで、話半分で聞いてくださいね」

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