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サプリメント今昔 マニュアル化の悩み

「話を戻しますが」

 気を取り直して世良が続けた。


「今まで話したのが攻守でいう守の部分です。効くかどうかの話をする際には典型的なアンチ意見を把握しておかなければいけないので。ただし、アンチ意見に反論できたとしても、だから効くかどうかは別問題です。サプリの種類は大量にありますから。最初の話に戻りますが、結局、『効果は物による、人による』以上のことは言えません」


「自分で聞いておいてなんですが、そもそも『効く』って言葉も良くないですしね。。」

 汐野が言った。


「そうですね。まぁ慣用的に裏では使っちゃいますけど、本来NGですね」

 世良が答える。


「なんでですか?」

 所沢が聞いた。


「薬機だよ!それぐらい知っておけよ!」

 青田ツッコんだ。この二人は同期とのことで、青田は所沢にだけはフランクな言葉を使う。


「そう。薬機法です。医師じゃない者が医療効果があるようなことを言っちゃいけないし、医薬品でもない物の薬効をうたってはいけない。また、医師じゃない者が診断をしてはいけない。そういう法律です。少し前まで薬事法と言われてました」

 汐野が解説した。


「それがらみのクレームってあるのか?」

 高田が聞いた。


「時々ありますよ。『不健康だと脅されて商品買わされたけど、医者でもない人が、そんなこと言っていいんですか!』みたいなの。ちょっと詳細は忘れちゃいましたけど」


「ありそうなので言うと、疲れやすいって人に『鉄欠乏性貧血だ』とか言って鉄サプリ売るとかかな」

 古田が言った。


「ああ!そういうのです!サプリの販売強化で一番心配なのそこなんです」

 と汐野。


「ダメなんですね。。でも、今、そういう解説するような動画は、けっこうありますよね。『これが当てはまる人○○です』みたいなの。そういうの出してる人の中には、医者じゃない人もいません?」

 所沢が悪気なく質問する。


「そんなもん、参考にすんな!」

 3人ぐらいが同時に指摘した。


「あれは、まだ規制が追い付いてないだけだよ。ウチみたいな、そこそこの企業がやったらアウトだから気をつけて。店のスタッフブログとかにも、迂闊なこと書いちゃだめだよ」

 渡辺が冷静に諭す。


「そこも、再教育しないとだな。所沢みたいなのは、他にもいっぱいいるだろうから」

 高田はそう言って、深いため息をついた。


「いると思います。ウチらの同期は半分ぐらいそうです」

「すみません。。」

 青田と所沢が答えた。


「言い方を気を付ければいいだけだから、そんな難しい話じゃないんだけどな。サプリなんて毎日勧めてるけど、クレームなんて受けたことないし」

「お前はな!」

 古田に対して高田がツッコみを入れた。


「今回はマニュアル化しなきゃいけないので、そこが悩み所なんです。誰でも出来るように、かつクレームが起きないようにしないといけないので」

 世良は、正直その答えを持っていなかった。いや、答えはあるにはあるのだが、それが現実的とは思えなかった。


「例えばですけど、世良さんはどんなマニュアル作ろうと考えてます?」

 古田が聞いた。


「まず販売強化対象商品を絞ろうと思ってます。具体的に言うとプロテイン、マルチビタミン、マルチミネラルといったベタなものに」

「なんでベタなの?」

 渡辺が聞いた。


「歴史が古い物の方がリスクは少ないし、今後も消えることはまず無いし、対象顧客も多いので」

「なるほどね。でもインパクト無いんじゃない。お客様にもトレーナーに教えるにしても」

「そうですね。研修しても、そんなの知ってるってシラケる悪ベテランがいそうです」

 渡辺の疑問に佐々木が追従した。


「そこは・・・うーんと・・・まぁいいや。世良さん続けてください」

「なんだよ古田、何かあるなら言えよ」

「すみません。ちょっと考えが、まとまってないので、世良さんの話一回聞かせてください」


「はい。そのピックアップした商品に対しての、商品特性、対象顧客、対象顧客の見分け方、勧め方の台本、やっちゃいけないことなんかをまとめるつもりでした。でも、かなりのボリュームになるのが難点です」

 世良は各項目を板書しながら話した。


「商品絞っても難しいですか?」

 汐野が聞いた。


「はい。問題は、こことここなんです」

 世良は板書した「対象顧客」と「対象顧客の見分け方」を指した。

「1つの商品に対して、これは複数あるので。例えばプロテインに対しても筋肉をつけたい人、減量したい人、忙しくて食事に気を遣えない人等色々あり、その見分け方も色々あります」

「なるほど。マニュアル作るの大変ですね」

「いや」

 世良は苦笑いした。


「作るのはいいんです。好きなんで。ただ、教えるのが難しい」

「世良さんの好みで作るとマニアックすぎるんで、若手が引くと思います」

「佐々木は世良に厳しいな。まぁオレもそう思う。で、古田は何が言いたい?」

 高田が再度古田を促した。


「はい。いくつかあるのですが・・・まず対象商品をベタにするの賛成です。インパクトは気にしなくていいと思います。インパクトのある商品を売った所で、それは商品の手柄であってトレーナーの手柄じゃないですから。今回のプロジェクトって、トレーナーが手柄を立てることに意義があるんですよね?」

「確かに」

 全員が納得した。


「研修するなら言ってやりますよ。ベタが売れないヤツは二流だって!」

「カッコいい!」

「まかせてくださいよっ!」

「分かったから続けろ」


「すみません。マニュアルですが、世良さんのマニュアルは、あった方が良いと思います。でも、それは辞書なんで1つ1つ教える必要はないかと」

「じゃあ、何を教える?」

 高田が聞いた。


「はい。自分が考えてたマニュアルはちょっと違ってて・・・ここスタートなんです」

 古田はホワイトボードの前に来て、世良が書いた「顧客の見分け方」を赤丸で囲んだ。


「ほほー」

 世良は腕組みをした。そして目を閉じて、下を向き、何度も頷いた。

 どんなマニュアルになるかイメージしているのだ。


「そうか!そうっすね!」

 世良が叫んだ。


「いいと思いません?」

「いいっすね!出来そうな気がしてきました!」

「お前ら二人で盛り上がってないで説明しろ」

「すみません!」

 高田の指摘に世良と古田の声が揃った。

 世良は、自分が持っていた黒のホワイトボードマーカーを、古田に差し出した。


「さっきの鉄サプリの話なんですけど、自分はどう売ってるか考えてみたんです」

「ほう」

「まずスタートは気がつくこと。ダメなヤツはここが気づけない。気づけないから大量に機会損失している。だから、マニュアルは気づき方が、スタートかと。例えば・・・」


 古田は少し考えてから続けた。


「この人は走り込んでるのにタイム落ちている、オーバーワークっぽいけど、聞いてみたら練習頻度はそこまで多くない。貧血かな?と疑う」

「走ると貧血になるんですか?」

 と高田。

「そう。着地の衝撃で足裏の赤血球が壊れるの。だから走ったり跳んだりすることが多い競技をやる人は、鉄を多く取った方がいい」

「へぇ。面白い」


「話を戻すと、疑ったら食生活を聞く。やはり鉄が足りないなと思たら、貧血で競技力が落ちる場合があること、今の食生活だと鉄が足りない可能性があることを伝える」

 古田はキーワードを板書しながら話した。


「そうすると、だいたい『何食べたらいいですか?』って聞かれるんですよ。そこで初めて食事提案をします。聞かれるまで提案しないのが大事」

「聞かれなかったらどうするんですか?」

 青田が聞いた。


「聞かれなかったら提案しない。でも聞かれなかったら、見立か説明が悪いんだよ。そこは自責で考えた方がいい。ボクはだいたい聞かれるけどね!」

「すごい。もう1つ聞いていいですか?」

「遠慮すんな。どんどん聞け」

 と高田。

「ありがとうございます。提案するのは食事提案なんですか?サプリじゃなく?」


「そう。食事で摂るならこういうメニューって話をして、面倒ならサプリもありますよって話をして、興味ありそうなら、一回試してみます?って勧める」


「勧める言葉は、『面倒なら』ってだけなんですか?」

 青田が質問する。


「うん。でも、だいたい面倒だよ。大人の生活習慣って、趣味とか仕事とか家族とか、何かしら意味があって出来ているものだから、変えるのは面倒だよ」


 青田は何度も頷きながらメモをとっている。


「本質ですね。サプリって本来補助食品。つまり食事で摂るのが面倒な栄養を楽に摂る食品なので」

 世良が付け加えた。


「これこそマニュアルじゃないですか!」

 汐野が感嘆の声を上げた。

「こんなノウハウあるなら、もっと早く共有しろよ」

 高田は責めるように言うが、これも彼なりの褒め方だ。


「いや、ヒントはさっきの世良さんの話ですよ。和食だろうがサプリだろうが、現代の栄養学を元にメニュー組むなら、本質的な違いはないって。そういや、自分、そうやって勧めてるなって気がついたんです」


「なるほどな」

 高田は世良と古田を交互に見た。


「やっぱ、お前ら二人で研修やった方がいいよ」

 

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