サプリメント今昔 伝統の長さ
「だってフェアじゃないと思いませんか?」
世良は一堂に問いかけた。もちろん、これだけで理解する者はいない。みな、世良の続きの言葉を待った。
「和食は健康的だといわれる時に紹介される和食は、全然伝統食じゃないんですもん。各地の伝統食を寄せ集めて、今の栄養学に当てはめて考えたメニューです。こんなメニュー、流通も整備されてなく、冷蔵庫も普及していない時代に一般家庭では常食できないです」
「なるほどですね」
汐野が感心の声を漏らす。
世良は続けた。
「そんなメニューを一般家庭で常食していた時代があるとしたら、冷蔵庫の普及した1960年から1985年ぐらいかと思います」
「言われてみればそうだね」
最年長の渡辺が言った。
「1985年と言ったら、ちょうど自分が10歳の頃だな。その時既に言われたよ。お前らは欧米化した食生活してるから長生きできないって。でも蓋を開けてみたら、自分が子供頃の40代50代より今の40代50代の方が若いもんな」
「そうなんです!」
世良が反応する。
「それに、自分が子供の頃すでにウチの爺さん普通に洋食好きだった。和食ばっかりは食べて無かったかも」
「そうなんです。だから、実績があるとしても、たかだが20年ちょっとの実績しかないんです。生涯通して『健康的な和食』を食べ続けた人はかなりの富裕層で、かつ、こだわりがあった人だけでしょう。これを『昔から』とか、『伝統』なんて言っちゃいけない。あくまで説の一つであり、実績でいったらサプリメントと歴史の長さは何も変わらないんです」
「そう言えば、ウチは実家が雪国なんですけど」
佐々木が言った。
「伝統料理といえば、かなり塩気が強い保存食が多かったですね。よく婆ちゃんに言われました。この漬物は旨いけど、食べ過ぎると胃に悪いから、ほどほどにしとけって。伝統だからって、健康にいいって訳でもないですね」
「そういうこと。もっと言えば江戸時代の町人なんて漬物と簡素な汁物だけで大量の白米を食べてた。だからビタミンBが不足して脚気が大流行し、当時脚気のことを江戸患いなんて言ってた。この江戸の町人の食事だって伝統食だよ。『伝統』とか『昔ながら』って思考停止を引き起こす厄介な言葉なんだ。現在進行形で研究、努力している人たちの成果から目を背けるべきじゃない」
「なるほどね。要は・・・」
古田が言った。
「栄養の知識がある人が和食をを切り貼りして考えたメニューと、サプリを組み合わせることって本質的には違いがないってことですね。どちらも、現代の栄養学の知識を元にデザインしているだけなので。そして、そのデザインにおいて、サプリ使うのが不自然で嫌というなら塩も砂糖も使うなと」
「そういうことです。。。」
古田はあっさりと、世良が長々と語ったことを、簡単にまとめてしまった。
こういう所が彼がトップたる所以なんだろうと、世良は実感してしまった。
「うん。古田が言ったことの方が、簡潔で分かりやすいな」
高田がとどめを刺す。
「返す言葉もありません。。。」
と世良。
「いや、世良さんの説明があってこそですよ!」
と古田。
「世良さんのお話、私は面白かったです」
「自分も興味深かったです」
と青田と所沢。
「自分はこの話30回ぐらい聞いてますから新鮮味はないですけど、蘊蓄好きなお客様にはウケますね。ただ、ちょっと長いですけど」
と佐々木。
「ん?お前の地元の話って、お前らの持ちネタだったの?嫌にタイミングいいと思ってたけど」
高田は鋭い。
「バラスなよ!まぁそうです。。。」
「まぁいいじゃないですか!世良さん、これ集合研修開いてトレーナー達に話してくださいよ!」
古田はどこまでも明るい。
「そうっすね。。。でも、古田さんも一緒にやりましょう。。。ちょと台本は考えますので。。。」
世良が力なく言った。
「そだな。お前ら二人でやった方がバランス良いよ」
高田は容赦なかった。




