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19 訓練終了後

 かな~り、お久しぶりです。

 短いですが、どうぞ。

 電車に揺られて泥のように眠りこけて、駅についたらまた銀輪車を漕いで、へろへろになりながら博人たちの行進訓練部隊が駐屯地域に到着したのは、つい昨日のことだ。

 あのあと、半日程度の仮眠を取って、博人は分隊の装備等の整備は小阪兵長に一任して、整備終了の報告を受けたのはついさっきだ。

 その間、博人は作戦・訓練課の事務室で今回の訓練にかかわる報告書をまとめていた。


「大変な事態になっていたようだね」

 博人の報告書を読んだ秋山少佐は、椅子に座ったままギョロリと目だけで博人を一瞥すると、報告書を机の上に置いた。

「はい。ですが、教育隊の練度が掌握できました。一般軍籍の我々と違い、彼らはつい1ヶ月も前までただの民間人でしたし、年齢も27という現役の兵卒としてはギリギリの年齢です。しかも、銀輪歩兵科諸元にある行進能力は未だ有していません。訓練指導上の立場として見落としていた私の責任です」

「本気で言ってないだろ」

 博人の言葉に、秋山少佐は呆れたため息をついて言った。

「君のことだ。練度不十分は教育隊下士官の練兵の怠慢、そう感じたのじゃないのかね? 大隊付銀輪指導官殿?」

 秋山少佐の言葉に、博人は深々とため息をついて答えた。

「それもまあ、確かに感じています。少佐……この部隊は最前線で主力の盾になる部隊ですよね? 主力に足がついていけないようじゃ、どうにもなりません。戦闘も大事ですが、行進を前提とした訓練を教育隊は増やすべきです。戦闘技術はその後かと」

 博人の言葉に秋山少佐はお茶を一口啜ると、おもむろに口を開いた。

「そうもいかん。時間も装備も訓練資材も、この部隊には不足している。お前の指導官としての意見は聞いてやるが、聞いてやるくらいしかできん。与えられた条件で、君が出来るベストを尽くしてくれ」

「了解しました。時間がないなりに、尽力いたします」

(そら、そうなるわな)

 博人は秋山少佐に敬礼をして、自分の机に戻ろうとしたのだが、

「ああ……ちょっと待て」

秋山少佐に呼び止められた。

 なんだろう? と首を傾げていると、秋山少佐は机の中から一冊のファイルを取り出して博人に手渡した。

「来月、第3師団の機動力調整会議がある。近畿地区防衛を想定した師団管内の各部隊との連携にかかわる戦略会議だ」

「え? ……それって去年、第3師団はやりましたよね? 2年に1回のはずじゃ?」

「第3師団長が今年から年に1回やると決めなすった。しかもだ……懲罰大隊が初めて参加する記念すべき戦略会議だ」


「えええええええええええええっ!!?」


 機動力調整会議とは、師・旅団が駐屯する地域において行われる戦略会議で、さまざまな敵情を想定し、各部隊を迅速に展開させる戦術機動を話し合う場である。

 各部隊の幕僚や機動にかかわる専門家が集まり、立体地図上に各部隊を模した駒を並べてそれぞれの部隊練度に応じた速度で動かし、戦略戦術をシミュレートするのだが……これが大変面倒くさい。

 銀輪機動はもちろんのこと、騎兵や乗馬歩兵の速度や、鉄道の稼働状況、さらには装備や地形・天候、部隊練度やその士気や疲労度、あらゆる要素を考慮して我が部隊の可能行動を見積もり、それに応じて各部隊長や幕僚たちが自分たちの受け持ちを調整しあいながら行う図上戦。この見積もりの算定が、特に大変なのだ。

 だいたい3日がかりで、算定手は基本徹夜。各部隊の算定手は、歩兵部隊なら部隊銀輪指導官がやるのが定番だ。

 何より博人の頭を悩ませているのは、彼は近畿地方の土地勘に疎いということである。

 一応、兵要地誌は一通り読み漁ってはいるが、大隊以上の大きな部隊が全て目的地に無事たどり着ける経路を、瞬時の判断で選び算定できるほどの理解はないし、資料も不足している。

「まあ、なんだ。機動算定をお前一人でやれとは言わんから、各中隊の銀輪係の誰か1人を副官として連れて行け。お前の人選で文句言うやつがいたら、俺が黙らせる。ベテランなら、第2中隊の船越軍曹なんてどうだ? 鉄道機動にも詳しいし、もと乗馬歩兵だから各種部隊緒元にも詳しいはずだ。伝令も2人までなら認めるから、来週までに調整しておいてくれ。資料収集に外出が必要なら、いつでも許可印くらいくれてやる……って、もうすぐゴールデンウィークだな。時間は十分あるから、頑張りたまえ」


 連休(ゴールデンウィーク)、消えた(泣)。

 独身軍曹は不憫です。

 家庭がないから良いだろ、みたいなノリで休日でもこき使われるのです。

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