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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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スカルチック・ゴースト

「占い師?」

「え。知らないのもしかして」

「……インチキ臭い奴は明衣みたいで嫌だな。俺が当然そんな奴を知っている筈もなくって感じだ。まず色々言いたい事があるんだが、占いっていうのは手相だか水晶だかタロットだか知らないけど、それで人の運勢を見る職業だろ。この際占いが本当かどうかはどうでもいいんだが、現場が何処かなんて分からないと思うんだ」

「え、そうなの」

「……お前、知らないで言ってたのか?」

「もっと万能なモノだと思ってた」

 有能というのは撤回するべきだ。遥は想像以上に何も考えていなかった。やれやれと溜め息は吐きながらも、俺だって全面的にその提案を拒絶するつもりはない。

「まあ占い師、それも評判がいいなら色んな人の話は聞いてるかもな。占いはともかく事情を知ってる可能性はあるから、行ってみるか」

 公園を通って行けばあの人にも会えるかと思ったらそんな事もなく商店街へと入ってしまった。手っ取り早いのはもう一度あの二人に会う事だ。別に敵対関係にある訳でもなし、鬼姫さんなら聞けば教えてくれるだろう(教える気がないなら何故中途半端に漏らしたのか、という事になる)。

 夜と言っても健全な時間帯だ。これが深夜に差し掛かると人通りは絶無だが、多くの人間が晩飯を食べるような時間帯ならまだ全然人はいる。居酒屋ならむしろ商売時だろうし、立ち食い蕎麦のような屋台もまあ、稼ぎ時なのではないか。

「―――まあ、流石に昼と比べると人は居ないんだけどな」

「シャッター通りって感じ」

 だが寂しいと思った事はない。それは見慣れた光景であるから。NGの事など関係なしに、俺と明衣がこの町に引っ越してきた時から商店街はこんな有様だった。高齢化に伴う営業時間の短縮、もとい就寝時間。老人達の朝は早く、夜も早い。それは何も、疑うようなおかしい事ではないだろう。

 ライトで細かく床を照らしてチェックしているが、血痕を追わせる痕跡は少しも見つからなかった。いや、当たり前なのだが。仮にNGによって死んだのなら痕跡は絶対に残らないし、NGによって死ななくてもその痕跡は何者かによって消されているだろう。

 ただ、もしかしたらという事もある。探偵気取りの素人なりに最善の方法がこれだった。虱潰しは何にも勝る捜査なのだと知らしめていきたい。

「…………」

「―――? どうしたの」

「いや、人の距離を見てる。俺は別に密着してなきゃ駄目って程の事でもない。正確な距離は不明だけど、ある程度まばらに人が居たらお前とも離れられるし、その方が効率が良いだろ」

 家の壁越しに人が居てもセーフかどうかも曖昧だ。その手の調査はアウトラインをどうしても踏み越える必要があるから、俺に限らずありとあらゆるNGの正確な範囲の調査には不向きだ。破った瞬間死んだとして、ここはゲームじゃない。俺達にコンティニューは使えない。

 遥はこちらを咎めるように睨みつけて軽く俺の足を蹴って来た。

「痛い」

「危ない事はやめて」

「俺なんて常にそうだろ。それよりも占い師はどの辺りで構えてるんだ? 俺の偏見だと外で椅子を構えてる筈だけど」

「もう少し進んだら居るって聞いた」

 

 ―――占い、ね。


 人の運勢を調べる職業なのは分かっているが、俺には簡単にインチキかどうかを見分ける方法がある。過去が分かる奴なら俺と明衣の関係について尋ねればいいのだ。多分誰も答えられない。未来が分かる奴なら明衣と俺の関係が今後どうなるかを聞いてみればいい。

 多くの人間に不本意にも恋人と思われる事はもう分かった。同じ様な認識が他人の間でも広がるなら、こういう聞き方は恋人との進展を訪ねているようにも見える。会話の流れなどと曖昧な概念に引っ張られるような奴はインチキだ。

「因みになんだが、お前は占いって信じてるのか?」

「…………あんまり良い結果出ないから、そこまで」

「はっ。まあそうだよな。いや、俺は良いと思うぞ、その信じ方」

 自分にとって都合が悪い事を言うから信じない。それもまた一つの信仰だ。毎度毎度己の星座を最下位にする占いがあったら信じるどころか目を通したくもないだろう。俺はそれよりも昔からラッキーアイテムとやらの概念が疑問だったが、占いなんて半信半疑程度で聞くのが十分すぎる。むしろそれ以上は危険だ。

「ん? 誰だ?」

 ライトの光が床から真正面に切り替わる。それとほぼ同時に誰かが建物の隙間に逃げ込んでいくのを俺は見逃さなかった。『妹』は普通に見逃したようだが、直ぐに隙間へ駆け寄るとライトを翳して中の通りを照らしている。

「……誰か居たの?」

「ああ、居たよ。どうだ遥。入れるか?」

 入れるけど、と言いながらも難色を示している。原因は壁の汚れや虫か。確かに、ちょっと怪しい人物に粘着する為にそこまでする必要はないか。


 丁度お目当ての人物も、向かい側のシャッターを背中に座っているし。


 明衣とは似ても似つかぬ黒髪混じりの白髪を団子状にまとめた老年の女性が目を瞑ったまま来客を待っていた。あれが人気の占い師かどうかなんて確認の必要もない。そうじゃないなら不審者だし、灰色の花っぽい着物なんか、まるで家元のような重圧を纏わせている。如何にもその道には精通していますよと言わんばかり、

「……」

 遥はNG回避が不自然にならないように黙り込んでしまった。この手の聞き込みはどうしても俺が話さないといけない。彼女は飽くまで助手であり、その立場は無理なく会話から排除する為のものだ。

「すみません。えっと、人気の占い師さんですか?」

「………………」

「あの」

「座りな」

「え?」

「客でもない奴に言う事なんかないよ。さっさと座りな」

 物腰穏やかな対応は期待していなかったが、ここまで喧嘩腰だといっそ素直に言う事を聞いてやりたくなる。占いなんて当てにならないとは思いつつも席に座ると、老婆はカッと目を見開いて、俺の視線を咎めるように見つめ返した。

「アンタ、あれだね。昨日来た子の彼氏だね」

「……昨日来た子?」

「郷矢乃絃。違う?」

 目は口程に物を言うのか、返事をする前に老婆は一方的に話を続ける。

「もう分かったからいいさね。それなら分かるだろ、昨日来たのはアタシよりも白髪の生えた今にも死にそうなピチピチの子だよ。白髪はまるで髪の老化だけど、あそこまで行くと違うね。あれじゃまるで、雪を見てるみたいだ」

「明衣は何の為にここに?」

「確か―――」




『御婆さん、占ってよ。恋愛相談したいなって思ったから来たんだ』

『具体的には何さね?』

『私ね、世界で一番大切な人が居るんだけど、その人はどんなプレゼントを喜ぶのかちょっと分からなくて。誕生日にあげたいんだ。占いで分かったりしない? そういうの』




「…………んな感じの事を話しとったわ」

「聞いといてなんですけど、他の客の発言をそうやってあっさり言っちゃうのは守秘義務としてどうなんですか?」

 占い師がちゃんとした職業かどうかは置いといて。人の悩みを聞くなら守秘義務の一つや二つを意識しないのだろうか。少し離れた所から様子を見る遥を時おり視線で安心させていると、突然机の上に置かれていたカードを殴り飛ばし、老婆が息を荒げて立ち上がった。

「は! 客でもなかった奴の話なんざ守る道理もないさね! 大体あのガキャ、私の仕事道具使って勝手に占い始めやがったんだ! この私を馬鹿にして! 勝手に納得して帰っていきやがった! クソガキが、なーにが伝言じゃ! 薄幸そうな奴が話しかけるってどうして分かった!? クソ、クソ、クソ、クソ!」

 机の裏に溜めてあったお金もばら撒いて老婆はヒステリックに喚いている。聞いている限りはそこまでの事はされていないが、仕事道具に思い入れでもあったのだろう。勝手に占いを始めたというのは気になる。アイツの性格上、直前の発言とは関係ない可能性もあるのだ。

「あ、そうだ! 占い師さん、すみません。そう言えば昨夜死体があった場所ってどの辺りかご存じですか? 俺達それを探してて」






「ああ!? んなもの、あそこに決まってるだろ!?」








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