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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
2nd Deduct 死のない願い

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28/99

努明衣忘れること勿れ

「じゃあ早速だけど、そのNG殺人について知りたいから行こっか?」

「は?」

 命綱に頼って休み時間を無事に終えたかと思うと、昼休みに探偵様は学生の本分を忘れたようなイカれた発言を繰り出した。

「何言ってんだお前。元々倫理観の育ってないヤバい奴だと思ってたが遂に時間も読めなくなったか」

「初歩さ」

「何のだよ」

「時間の使い方についてね」

 屋上での昼食は頼る相手が明衣しかいなくなる都合で実質的な監禁状態になるので嫌いだ。そんな事はお構いなしに彼女は肩を密着させながらお手製の弁当に手をつけていた。

「二十分……凄く長い時間だよね。私は真実を明らかにする探偵だよ、こんなに時間があるのに何もしないなんて持つべき者の怠惰だよね」

 NG殺人の響きにハイテンション気味な明衣は、一段と訳のわからない論理を展開して俺を丸め込もうとしてくる。付き合わないという選択肢はないとはいえ、もう少し気分は落ち着かせておきたい所だ。

 何をするか予想が出来なくなる。お弁当の厚焼き玉子を渡してみると、大口を開けて「あーん!」と食べてくれた。

 ……効果なし。

「助手は何と言われようが付き合うだけだ。好きにすりゃいいけど、商店街で何があったかはせめて教えろ。どうせ行くのはそっち方面だろ」



「死体がね? 見つかったの」



 お返しにと、明衣は長いウインナーをくれた。食べ物に罪はないので貰う。探偵じゃなくて料理人になってくれないだろうか。

「死体の話しながら食べさせるセンスはどうかと思うが」

「乃絃君、気にしないじゃん」

 それは語弊があるので心の中で訂正しておく。


 今更、死体の一体や二体気にするのは時間の無駄というだけだ。


「夜にしては珍しく複数人で目撃しちゃって、でも警察が来る頃には死体が消えてたの」

「……それって」

「そうっ。NGで死んだって事だね! 死んだのは三〇歳くらいの男の人。でもそこまで生きてるんだからうっかり破るようなNGでもない。誰かに殺されたなら犯人を捕まえるのが探偵の役目でしょ? そう思って昨日は見に行ったんだけどNG殺人なんて正にそれだよね」

 話を聞いている限り本当に居たらしい。ちょっとだけ嘘が継続されてる可能性も考慮したがこのテンションの高さは勝手に点と点が繋がったから舞い上がっていると考察している。

 分かりやすく言うと明衣はぼんやり事件性のありそうな騒ぎに首を突っ込もうとしていたが、それがNG殺人という名前のついた事件だった為にとてもやる気になったという事だ。

 一応刑事事件として扱われている事はない、と明記しておく。露骨に揚げ足は取られないとする悪癖が出た。さっきも取られかけたし。

「捜査は放課後やればいいだろ。どうせ今、捜査しても俺が帰る時間は変わらないんだから」

「おや、乃絃君はやけにやる気がないっぽいね。何で?」

「やる気がないのはいつもだ。助手としての仕事で付き合ってるからな」

「そうなの。その割には心が上の空って感じだけど」

 探偵を名乗るだけあって目敏いのは相変わらずだ。気にしているのは鬼姫さんの事。俺が口を滑らせたばかりに明衣の標的にされたらと思うと凄く申し訳なくなる。無関係の人に妙な因縁を押し付けるなんて、最低な奴だ。だがどうすれば回避出来たのだろう。

 あんな単語聞いたらこいつを問い詰めないなんてそれこそあり得ないのに。

「……もっと効率よくお金を稼ぐ方法がないかなと探ってた」

「私と気持ちいい事してその映像を売るとか?」

「地獄行き決定だな」

「冗談っ。乃絃君って口は悪くても紳士だからそんな事しないって分かってるよ。ふふふ、だーよーね」

 もう単なる逆張りで、ただコイツにそう評価されたのが気持ち悪かったので制服越しに胸を掴んだ。男性の本能としては興奮しているが、精神状態はただならぬ軋みを上げている。

「……映像撮るなら、それでもいいよ。屋上に人は来ないから」

「くそ、両対応かよ……ろくでもない」

「助手が望むなら心も身体も全部管理するよ。そういうのって推理の妨げになるもの。無理しないでね、乃絃君。助手を二人も三人も連れる気は全くないからさ」

「冗談じゃねえ。俺以外に助手なんか作るな」

 惚気というよりも据え膳というよりも脅しか犯行予告だ。俺でさえまともに制御出来ているか怪しいのに他に助手が出来たらそいつはどうなる? ただの被害者だ。言う事を聞かない助手は要らないし、自分のせいでゴミのように死ぬ無辜の人々を見てまともで居られる人間はそう多くない。

 

 ―――俺以外の犠牲者なんて、居たら駄目だ。


 かといって鬼姫さんと明衣を引き合わせる訳にもいかない。どんな化学反応が起きるか脳内で試したが全く想像出来なかった。あの人はNG殺人について探っているようだけど、だからって名探偵と会わせるものか。もし話が聞けるならその時は俺一人で。コイツは必要ない。

「……分かった。商店街の方に行こう。ただ、チャイムが鳴ったら帰らせろ。俺はまだ学生で居たいからな」

「うん、そうと決まれば早く食べちゃおうか。情報は鮮度だし、早く行かないとね」























 昼休みに学校外へ出る生徒は珍しくないが、そうは言っても外出先の多くがコンビニ、家が近いなら家と、ある程度は想定の範囲内だ。商店街に制服姿で繰り出す高校生は珍しいを通り越してあり得ない。

 明衣の奇妙な髪色も相まって、とても嫌な目線に晒されている。

「失礼。昨夜この辺りで殺人があったって聞いたけど……」

「え? いやあ、そんな話は知らないなあ」

「…………そうですか」

 

「めいおねえちゃん~!」

「おねえちゃんだー!」


「あ、なゆきちゃんとこうせい君。こんにちは、今日はママとお買い物?」


「昨夜この辺りで―――」

「え! マジで!? 俺は知らないなあ……」


「あ、め、めいさん……」


「ノッポ君。見た感じ彼女さんへのプレゼント探してるね? 私には分かるよ、だって―――」




「少しはてめえが探せやああああああああ!」




 行き交う人々に知り合いが居る事も驚きだが、それ以上に探偵が捜査していない事の方が驚きだ。真面目に聞き込みしているのは俺だけ。全てが助手任せ。何が腹立つって、助手という単語が分からない子供には俺が恋人に見えているという事だ。ああもう、子供だからって言っていい事と悪い事がある。距離が近かったら手が出ていた。

「んだてめえ、手抜きしやがって。俺だって捜査したくないんだ、お前の仕事に付き合ってんだぞ。やれよ」

「でも乃絃君、私が嘘吐いてるって思ってるから死体の話から聞いてるんじゃないの? 嘘吐いてないし、その確認に付き合う義理はないよ」

「嘘……そういう考え方か。お前が見た死体とNG殺人は繋がってる。その死体が正にNG殺人の痕跡だったんだろ。なら触れられる事さえ憚られるNGより死体の話を振った方が分かりやすいってもんだ。違うのか?」

「あ、そっちかー。ごめんごめん勘違いしちゃった。そうだよね、助手が私の言う事を疑うなんておかしいよね。怒ってる?」

「お前と出会った時からずっとな」

「そっかそっか。じゃあお詫びしないとね」

 明衣は俺を商店街の中心まで誘うと、逃げられないように小さく腰を抱きしめて唇を重ねた。

「………………」

「路地裏に入って足で組み付いた方が嬉しかった?」

「何でこれがお詫びになると思ったのかその神経がおかしい。病院で神経消してこいよ」

「まあまあ、いいじゃない」

 衆人環視の中で平然と行われた接吻に、外野は否応なく色めきだっている。明衣は手ごたえを得たようにニコニコ笑って耳元で囁きかけた。





「こうして注目を浴びたお陰で、情報持ってそうな人は絞り出せたんだから」




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