氷眼のサイクロプス? 2
【ユグドラシルSIDE】
「ディーネ、どうしました? ……成る程」
ディーネが顔を真っ青にしているけれど、恐らくリリー様のいつもの癖ね。
今は離れすぎていて、流石にリリー様の心情を読み取るのは無理だけれど、リリー様の心情を読むために何度も中に入らせて頂いているユグなら分かるわ。
リリー様の夢に出てくる、厨二病というあれね。
ディーネは、自身を神に例えられた事が恐れ多いと心情で思っているようだけれど、リリー様自身が女神なのですし問題は無いと思うわ。
それに、一部の国では大精霊を神のように祭っている所も有りますしね。
「ユグちゃん先輩、リリー様が……」
「慌てないで、ディーネはリリー様の望みのままに協力すれば良いわ。だって、リリー様のいつもの癖ですもの」
「ユグちゃん先輩は、いつもこのような……」
「ディーネも早く、心情を読めるようになりなさい。リリー様やスノー様、それに葵様の心情を読むのは無理でしょうが、リリー様の近くに居るユグやシルク様の心情を汲み取りそこから推理をするように導き出せばね」
「それって、ディーネには乗り越える壁が高すぎますよ」
「もう、その話は後でちゃんと聞いてあげるからディーネの眷属達にも手伝ってもらって、厨二病の演出も兼ねてリリー様を楽しませなさい。ディーネもその方が、喜びを感じるでしょ?」
「はい、ユグちゃん先輩。でも、ディーネには厨二病の演出が分からないのですが……」
「そうね、こうディーネの心躍るような派手な演出と思えば良いわ!」
「はい、ユグちゃん先輩」
リリーの思いつきで苦労しつつも、自身の能力をリリーに使って貰える事の方が嬉しい召喚ちゃん達で有った。
※ ◇ ※
【カトレアSIDE】
こちらは、何時でも氷眼のサイクロプス……奴の急所を狙えるわ。
よし、リカステが大岩の頂点に到着した。
「うぉー」
あの馬鹿、大声を上げるな! クッ! 奴が気づいた。
でも、こちらも行くしか無いわ。
「疾風迅雷! 一点突破よ」
飛び降りたリカステが、大戦斧を奴目掛けて振り下ろす。
ジュッ!
奴が氷柱で防いだけれど、氷柱が真っ二つに切れたわ。
同時に駆けだした私は、リカステにしか眼が行っていない奴の心臓を狙い疾風迅雷の如く突きを細身の剣で捉えたと思った。
しかし、奴はどこからか出してきたもう一つの氷柱でリカステを吹き飛ばし巨体を捻り私の攻撃を回避した。
リカステを横目にすると、細い木々が衝撃を吸収し死を免れたようだ。
恐らく、ユグちゃんが守ってくれたのだろう。
ディーネちゃんが、リカステの元に行って回復してくれている。
私は体勢を立て直して、奴を狙う。
「疾風迅雷! 蝶の舞い」
奴が氷柱を連続で振り下ろすのを舞うように躱し、急所の心臓を狙い突く。
しかし、今度は左手で防がれた。
ジュッ ジュッ ジュッ ジュッ ジュッ!
連続で突きを入れたが、奴の腕は氷に包まれ回復した。
どういうこと? 足は、回復できていないのに?
あの光りが、特別な力を持っていたの?
だから奴は、足を回復できないんだ……。
私は、一端距離を取るとリカステも再び戦闘に参加してきた。
「スマン。気合で奴の頭をかち割るために、思わず叫んじまった」
「良いわよ。でも、そんなに気合入れなくても叩き切れるみたいよ?」
「だな……切れ味が凄くて、正直驚いた。リリーちゃんの付与、凄まじいな。奴の氷柱が真っ二つに切れたぞ。むっ! 奴が、睨んできた。カトレア、眼を合わせるなよ……」
「承知しているわよ。そんなことより、今度は私に合わせなさい」
「ああ」
私は奴の胸部を目掛け、突き刺した痕が蓮華の華の様な形になる、捻りを入れた連続の突きを繰り出す。
「行くわよ。疾風迅雷! 捻り蓮華突き!」
ジュッゴォ ジュッゴォ ジュッゴォ ジュッゴォ ジュッゴォ ジュッゴォ!
グギャー!
奴は右腕を犠牲にして私の攻撃を防ぎきった。
でも、今のは何? 私の技が、異常な威力になっていた。
「よっしゃー! もろた! 大戦斧回転撃!」
ブゥウォー! ダーン!
大岩に身体をぶつけた氷眼のサイクロプスは、氷の残骸を屑のように舞い上げ両腕を吹き飛ばし前に倒れた。
「やったか?」
「……いえ、両腕を氷で再生させているわ。吹き飛んだ両腕は、氷となって砕け散ったようね」
流石に危険種だけは有るわ。尋常ではない生命力……。
もしも、手負いじゃなかったら私達だけでは無理だったかもしれない。
でも、ユグちゃんとディーネちゃんもいるし。望みは、まだ有るはずよ。
「リカステ、奴の核は分かる?」
「恐らく、心臓部だろ? 俺の攻撃を、両腕を破壊されてでも防いだからよぉ。それが、証拠だ」
「そうね、私の攻撃も腕で防いだし……」
「だろ?」
「核を破壊しない限り、倒すのは難しいかもしれないわ」
「いやしかし、両足が再生してねえぞ?」
「あれは不可思議な光りで消されたから、再生しないんでしょ? 私も詳しくは、知らないけれど……」
「ああ、あの天を覆っていた光りか……」
「ええ」
「カトレア、もう一度さっきの連携行くぞ……」
「待って……様子がおかしいわ」
※ ◇ ※
【リリーSIDE】
あれか、氷眼のサイクロプスは……。
確かに大きいけれど、初めに見た巨大ゴーレムと比べると普通の消しゴムとドデカ消しゴム位の大きさに差が有るな。
例えが、微妙だろ! って言われそうだが、思い出したんだ。
大きさから考えると、例える大きさが丁度その位だったんだよね。
昔、消しゴム落としというのが小学校の頃に流行っていたのだけれど、大きい消しゴムほど有利だからって言ってドデカ消しゴムを持ってきていた子がいたんだよね。
まあ、反則ということで次の日から持ってこなくなったが……。
この話にオチは無いけれど。
そんなことより……あれ? また氷眼のサイクロプスが、脅えるように転移魔法陣から距離を取った。
断続的に怯えているようだけれど、一体何だろう?
様子を見ていると、後ろからオークの団体が襲ってきた。
しかし、氷眼のサイクロプスの方が気になり落ちていた石を後ろを向かずにオークの団体に投げつける。
プギーィィィィィィ!
投げた石は、オークを数体貫通させアイテムボックスに光りとなって収納される。
「うふふ」
オークのお肉が増えて行くから、シルクの大食い対策にでも使おうかな。
でもシルクって甘いお菓子とか、クッキーが特に好きなんだよね。
お菓子の材料になる、魔物が襲ってこないかな?
と勘考しつつ、投げた石をマウスLV2の立体瞬間移動を使用してキャッチし再び投げて辺りのオークを一掃した。
アイテムボックスの計数測定を確認すると、今日倒したオークだけでお肉屋さんが数店舗開けれそうな数値になっていた。
このオークの集団、何度も何度も近くで再復活するから邪魔すぎる。
「もぉー、まともに氷眼のサイクロプスを観察できないよ」
さっきも、この森の南東周りの魔物を一掃したのにいつの間にか再復活するんだよね。
俺は小さい方が見つかりにくいと思い、五歳の容姿と髪の色を先ほどまでのゴールドに変更し木に登り木の葉に隠れながら再び氷眼のサイクロプスを観察する。
しかし、オークに小腹が立っていた。
「もぉー、折角可愛い美少女巫女になっていたのに、また貴方達のせいで巫女幼女に逆戻りよ。本当にもぉー、プンスカプンプンよ」
そう言って、まだ下に再復活したオークが来る度に水の精霊達を使役する巫女幼女のように祝詞を唱えてオークに八つ当たりして倒していた。
そうして、氷眼のサイクロプスを観察していると一定の間隔で脅えているのが分かった。
「これ、もしかして威圧かな? ユグちゃんも圧を、ディーネちゃんに一度放っていたけれど、その脅えようにそっくり」
と言うことは、転移魔法陣には氷眼のサイクロプスを遥かに凌駕する何かがいるということだ。
ともあれ、氷眼のサイクロプスを放置して転移魔法陣には行けない。
それに、どの程度の強さなのかも気になるんだよね。
手負いだとはいえ、カトレア先生達にもう一体を任せちゃった手前。
しかし、あまりにも脅えている魔物を倒すのは何となく気が引けてしまう。
俺は鉄の槍をアイテムボックスから出して、オークは水の精霊達に任せトコトコと氷眼のサイクロプスの元に向かう。
すると、俺に気がついた氷眼のサイクロプスは
「ガァァァァァァ!」
っと、吠えた。
成る程、強い者には脅えるが見た目小さくて弱そうに見える幼女には容赦しないと……。
「はい、氷眼のサイクロプス君? 君、失格ね! 小さい子や幼女は、大切にするものよ?」
俺がそう独りで呟いていると、大きな石を投げてきた。
俺は、その石を指で弾くようにして粉々にする。
「はい、貴方は討伐対象となりました。正当防衛成立です」
魔物に対して、そんなことは成立しないが何となく言ってみたかったのだ。
近づいていくと、今度は周りの木を引っこ抜いて投げてきた。
俺はそれを片手で止めて、地面に埋め直す。
「君? 自然は大切にしないと、めっ! よ?」
そう言って小首を傾けると、今度は単眼に力を入れるように見つめてきた。
「あれ? 好きになっちゃった? でも、ごめんなさい。幼女なので、お断りします」
俺は氷眼のサイクロプスに、丁寧にお辞儀をして断りを入れた。
あれ? 違う? あっ! そうか。幼女が、珍しい?
そう言えば、幼女は独りで森の奥に来ないか。あははは。
今度は、単眼を大きく開け気合を入れ踏ん張るように見つめてきた。
「可愛いからって、私は君のお目々には入らないよ?」
うわー……怖いお兄さんみたいに、氷眼のサイクロプス君が眼飛ばしてきてるよ。
俺の元いた世界の地元だったら、君、確実にカツアゲされちゃうよ?
冗談はさておき恐らく、何か特殊な攻撃? いや、呪い? かもしれない。
凍らせられている魔物達から判断すると、相手を見つめて凍らせる氷化?
なんだろうけれど……何も起こらないよ?
大きな目を瞬きさせた氷眼のサイクロプスは、首を捻り考えた素振りを見せた後、今度は大きく息を吸い出す。
お腹が膨らんだかと思うと、その息を
ブォゥゥゥゥゥゥ!
吐き出した。
「ちょっと、臭い息吐かないで?」
俺は鼻を摘まんで、臭い素振りをする。
あれ? 後ろの木が凍ってる?
「フムフム、かなり強い冷気の息を吐くようね?」
でも、ユグドラシルがいるから大丈夫だろう。
「おじちゃん、お口臭いよ? 口臭ケア、ちゃんとしてね」
「ガァァァァァァ!」
俺の素振りか言い回しに怒ったのか再び吠えて、今度は氷柱を自身の能力で作り上げ突進してきた。
「氷柱で攻撃って……私、もぐら叩きのもぐらさんじゃないよ?」
そう言って全ての氷柱攻撃を手で受けて、氷柱を最後に拳で砕いた。
あれ? 氷眼のサイクロプスが、後ずさりしだした。
でも、これで大体氷眼のサイクロプスの強さが分かった。
別段強くもないし、カトレア先生達でもあの武器に付与している魔法で簡単に倒せるだろう。
それに、ユグちゃんやディーネちゃんには補助をするように言ってあるし、危なくなった時にはスミレちゃんに助けてあげるよう伝えてある。
まあ、スミレちゃんには剣技や魔法の使用は禁止してあるが、辺り一帯どころかこの森全体に被害が行くよりはましである。
これ位の魔物の力量なら、カトレア先生達でも大丈夫だろう。
氷眼のサイクロプスは氷柱を両手に作り出すと、それを俺に向けて何本も投げてくる。
ジュウ ジュウ ジュウ ジュウ ジュウ ジュウ!
俺は気にもせずに前進しながら、氷柱を当たる寸前で手に纏わせた凝縮された炎で全て気化させる。
更に、水蒸気で辺りが真っ白にならないよう風魔法で蒸気を散らしつつ突き進む。
そして、
「はい、捕まえた」
俺が捕まえた氷眼のサイクロプスは気化し、魔石と素材がアイテムボックスに収容された。
「次は、転移魔法陣と不思議な光点ね」
思っていたより弱かった氷眼のサイクロプスだったが、次の転移魔法陣の所にいる不思議な光点は氷眼のサイクロプスより遥かに強いはずである。
威圧だけで相手を混乱に陥らせ逃げるようにさせる為には、ユグちゃんとディーネ程の力の差が無ければ有り得ない事なのだから。
例え敵対を示さない光点で有ろうとも、人を示す光点でないのだから魔物で有る可能性が高いということは明白である。
「ここからは、慎重に行かないとね。雰囲気からして、恐らくユグちゃんと同等またはそれ以上かもしれないわ」
澱みの魔石を示す黒い光点ではない事から、管理者案件ではないのは分かるのだけれど……この国近辺で、不可思議なことがあまりにも起こりすぎだ。
俺は脅しの為に使用した鉄の槍を収納し、水の精霊や微精霊達にお礼を伝え、南の最奥にある冒険者達にまだ知られていない転移魔法陣に独り向かうことにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「寒……何? この寒さ。リリー、この巨大な魔石は、一体何?
冷た! テーブルが凍ってるわ。椅子もカチカチ……」
リリー「氷眼のサイクロプスのよ? この魔石がいっぱい有れば、冷凍庫が無い
家でも食材保存に便利かなと思って」
シルク「食材の事を気にするより……そんな、危険指定されている魔物の魔石
何処から買ってきたのよ? それに、そんな物沢山有ったら家が凍るし、
高額な魔石すぎて新しい家が建つわよ」
リリー「氷眼のサイクロプスを、ジュッっと溶かしたらポロっと出たの」
シルク「そんな、秘宝級の魔法剣を持ち歩いているのって、リリーくらい
でしょ?」
リリー「違うよ? 掌に超高温の炎を纏わせて触ったら、蒸発したの」
シルク「へー……」
改めて、常識外れなリリーの能力に呆れるシルクであった。




