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強面の冒険者

 しかし俺は、ライムお姉さんから聞いた重要な話を忘れていた。

 南の森に向かっていると、ケモミミが動いて気になったのかスミレちゃんが尋ねてきた。



「リリーちゃん、葵ちゃんみたいにケモミミがひょこひょこ動いているよ」

「うん……」



 カトレア先生、擽ったくないのかな? 

 あれ? いつも、冒険者ギルドで親切にしてくれる強面の冒険者だ。

 こんなに沢山の冒険者達と一緒に南の森から出てきたけれど、どうしたのだろう? 



「こんにちは」



 俺は、冒険者達を指揮している強面冒険者に声をかけた。



「おっ、リリーちゃんか! この前の、スペシャル弁当上手かったぞ。また、飲食亭で販売してくれ。それに、疾風迅雷(シツプウジンライ)人形(ドール)(プリンセス)カトレアか……」



 強面冒険者は俺から目線を上に向けると、カトレア先生の顔を見てそう言った。

 実は、ここに来るまでにカトレア先生に無理矢理抱っこされたのだ。



「豪腕の強面紳士リカステ! 何で、貴方がこんな所にいるのよ? いつも暇そうに、冒険者ギルドの飲食亭で飲んだくれている癖に。それに、恥ずかしいからその名で呼ぶのやめてよね!」

「何言ってやがる? 現に、人形の様にリリーちゃんを抱えてるだろ。まだその癖、治ってないんか? それに俺の通り名は、豪腕のリカステだ! 余分なもの、付けるんじゃねえ!」

「私も、昔みたいに人形なんて抱えてないわよ?」

「いや、だから人形の様にと言ったんだ!」

「あっ……」



 カトレア先生が、頬を染めて俺を慌てて降ろした。

 やっぱり、抱きかかえるの癖だったんだ……。



「それに、カトレア聞いてないんか? 女冒険者パーティーがこの森でボブゴブリン率いるゴブリン達に襲われた話を? 傷を負ったゴブリン共は、俺達が全て倒した。だが、一体厄介な手負いの魔物が奥に逃げ込んだ。だから、ひよっこ共を今すぐ帰らせろ」



 そう言えば確か、ボブゴブリンと女冒険者の事をライムお姉さんが話していたな。

 でも、すっかり忘れていた。だって、ボブゴブリンとゴブリンなんて大して強くないんだもん。

 一応、ワールドマップで確認。フムフム。成る程、成る程。何か、いるね。



「リリーちゃん、ケモミミがひょこひょこ動いて可愛いね」



 スミレちゃんはケモミミに興味があるようで、頻りに触って来たり顔を覗かせてきた。

 もしかしたら、スミレちゃんもケモミミ付けたいのかな? 



「スミレちゃん、ありがと」



 リカステと先生が言い争っていると、伝令と思われる冒険者が森の奥から走って来た。



「リカステさん、見つけたよ。あっ! 疾風迅雷(シツプウジンライ)人形(ドール)(プリンセス)カトレアの姉さん……」

「だから、その名前で呼ぶな! リカステ、貴方が広めたんでしょ!」

「知らんな! で? 奥の様子は、どうだった?」

「はい、転移魔法陣から転移してきた魔物は粗方片づけました。それに、見つけた転移魔法陣は、指示通り破壊しました」

「そうか、よくやった。引き続き、転移してきた残りの雑魚はお前達に任せる。おい、カトレア! 半年前に冒険者から学校の教師になったが、腕は鈍ってないよな?」

「はー? 私は、今からこの子達に入口付近で狩りの実地演習を行う予定よ。手負いの魔物なら、貴方達で何とかしなさいよ」



 確かに、手負いのボブゴブリンやゴブリン程度であれば簡単に倒せるだろう。

 しかし、元々いる魔物は怪我を負いながらも南東と南西に集団で逃げているようだ。

 それに、再復活した魔物も同じように南東と南西に集団で逃げている。

 まあ、この南西にいる大きな光点を示す魔物から逃げたのだろう。だが……



「そうしたいのは山々なんだが……生憎、ここにいるAランク冒険者は俺とお前だけだ」

「手負いの魔物って、一体何よ?」

「俺も見たのは初めてだが……氷眼のサイクロプスで間違いないぞ。氷で出来た単眼と氷柱で出来た馬鹿でかい棍棒を持っていたからな」

「まさか転移魔法陣は、北の大陸にあるって言われる氷獄と繋がっていたの? それに私、伝説の危険種なんて倒したこと無いわよ?」

「俺もだ。しかし、王国騎士団なんて待っていられん。見ろ、森の奥が凍ってる。このままだと近隣にある村が氷に閉じ込められるぞ」



 カトレア先生が、俺達に向き直ると



「今日の授業は、これまでです。貴方達は、学校の寮に戻りなさい。私は今から、リカステと危険種の討伐に向かいます」



 と言った。

 エレモフィラ君達は、カトレア先生に従って学校に帰る準備をしだした。

 若い冒険者二名が、エレモフィラ君達を学校まで護衛してくれるようだ。

 スミレちゃんが俺の手を引いて『小声』で



『リリーちゃん、私達も手伝おうよ』



 と言ってきた。

 初めから手伝う気は有るのだが、ワールドマップの情報から手分けをした方が良さそうだ。

 カトレア先生は試験でスミレちゃんの実力を知っているが、経験不足で駄目だと言ってくるだろう。

 確かにその通りなのだが、カトレア先生達の戦い方を学ぶには良い機会なのだ。



『うん』



 俺は、もう一度ワールドマップを確認してから『使徒間個人テレパシー』を使用する。



『「スミレちゃんは、カトレア先生達に見つからないように、陰から先生達の戦い方を見てよく学ぶこと。私の戦い方じゃ、手本にならないからね。で、カトレア先生達が危なくなったら手伝ってあげて。でも、絶対に魔法と剣技は使っちゃダメよ? だって、まだ制御しきれていないもの。サポートに、召喚ちゃん達をつけるから」』

『「うん」』

『「それと、私の劣化武器もまだ制御しきれていないからダメ。だから、持参しているミスリルの剣を使うこと。王様から頂いた物だし、かなり扱いやすい筈よ?」』

『「うん」』

『「私は、もう一つある転移魔法陣の破壊とそこから出てきた奴を討伐してくるね……他にも何かいるし」』

『「分かった」』



 俺は『心証』でユグドラシルに伝える。



『「ユグちゃん、先生達とスミレちゃんの支援や補助は任せるね」』

『「リリー様、お任せ下さい」』



 更に、ウンディーネを召喚する。



「ディーネちゃん、出ておいで」



 水色の魔法陣からウンディーネが出てきた。



「リリー様、お呼び頂き感謝します」

「ディーネちゃん、ユグちゃんに内容聞いてね」

「はい、リリー様」



 俺は、左肩で話し合っているユグドラシルとウンディーネを乗せて、準備しているカトレア先生とリカステさんの前に来た。



「リリーちゃん、強いことは知っているが、連れていくことはできねえぞ」

「そうよ、リリーちゃん」

「いえ、支援役にこの子達をと思って」



 ユグドラシルとウンディーネが、俺の左肩でカトレア先生達にお辞儀をする。



「ユグとディーネが、リリー様の命によりカトレア様達を支援致します」

『「えっ? ……中偉聖霊様と大精霊様が?」』



 カトレア先生が『小声』でそう言った。

 すると



「はい。ユグが攻撃補助などを致します」



 そう言ってユグドラシルがカトレア先生の右肩に乗り、



「ディーネは、回復支援などを致します」



 そう言って、ウンディーネが左肩に乗った。



「――――」



 カトレア先生が何も言えないでいると、リカステさんが来て



「おっ! 疾風迅雷(シツプウジンライ)人形(ドール)(プリンセス)カトレアの本領発揮か?」



 そう言って、準備をしに戻っていった。



「リリーちゃん? あの馬鹿には、中偉聖霊様と大精霊様の事どう伝えれば良い?」

「伝えなくても、良いですよ。伝えて、支障をきたされても困りますし」

「そうね」

「あっ! 先生の武器とリカステさんの武器に、花の文様を象った火属性付けますね。花の文様が付いているとユグちゃんの力で増幅できるので」

「そんなこと出来るの?」

「はい」



 カトレア先生がリカステさんに伝える。



「リカステ、貴方の武器をリリーちゃんに見せてあげて」

「ああ、良いが。何するんだ?」



 そう言って、リカステさんは俺の前に大戦斧を出す。

 それに、付与魔法を無詠唱でかける。



「はい。出来ましたよ」

「え? もういいのか? ……赤い花の文様? リリーちゃん、これは何だ?」

「リカステさんの武器に、火属性を付与したの。はい、カトレア先生も出来ましたよ」



 カトレア先生の武器にも、無詠唱で付与魔法をかけた。



「私の細身の剣にも綺麗な花の文様が……」

「先生、それは炎華の花弁という特殊な火属性付与魔法です。敵を攻撃した瞬間に火属性の力が高まり相手に火の攻撃を与えるので、普段は熱くないですよ」

「そうなんだ……」



 俺は、ユグドラシルの能力でも暴走しない程度の特殊な火属性の補助魔法をカトレア先生とリカステさんの武器に付与した。

 特殊と言うのは秘密があるのだが、何か有った時はユグちゃん達が先生達に教えてくれるだろう。



「ユグちゃん、これ位の付与だと大丈夫だよね?」

「リリー様、ありがとうございます」



 ユグドラシルも、自身で向上能力をある程度調整できるようになったのだ。

 これで、カトレア先生達は大丈夫だろう。

 序でに、スミレちゃんにも先生達に見つからないように付与しておいた。

 全ての能力を上げる補助魔法をしてあげても良いが、スミレちゃんの勉強にならないしね。



「カトレア先生、氷眼のサイクロプスは南西にいますよ」

「えっ? リカステ、そうなの?」

「いや、逃げていったから分からん」

「リカステさん、幼女の感は鋭いのですよ」

「リリーちゃん、本当なのか?」

「はい、間違いないので信じて下さい」

「うーん」



 話していると、冒険者の伝令が来た。



「リカステさん、南西で氷眼のサイクロプスを発見しました!」

「ね?」

「ああ」

「なので、私は野暮用に行ってきます」

「はっ? おい、リリーちゃん? 何処に行くんだ?」

「だからー、野暮用ですよ-」



 魔法陣近くのもう一体は、光点からして大きそうだしサイクロプスか? 

 しかし、取り巻きのようなものが周りにいる。

 でも、この違う光点は? 一体、何だろう? 

 俺は、別の魔法陣と不明である魔物の元に独りで向かった。



「カトレア先生、リリーちゃん行っちゃいましたね」

「ええ、そうね……で? スミレちゃんは、なぜ皆と学校に戻らなかったの?」

「あっ! ……私は、陰からカトレア先生とリカステさんの戦い方を見て学びつつ、危ないときは助ける役でした」

「スミレちゃん、心の声が表に出ているから……。ユグちゃん? これって、もしかしてリリーちゃんの作戦かしら?」

「リリー様の禁則事項に当たりますので、ユグは何も言えません」

「ディーネも、何も言えません」

「スミレも、何も言えません」

「スミレちゃんは、さっき話していたでしょ。はぁー……もう良いわ。私とリカステで、相手にならない危険な相手と判断したら直ぐに逃げなさい。スミレちゃん、分かったわね?」

「はい、先生」

「リカステ、だそうよ」

「分かるかー!」



 カトレア達は、手負いである氷眼のサイクロプスの元に向かった。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カトレア いつもは寝る時だけ人形を抱くように我慢しているけれど、リリー

     ちゃんとスミレちゃんの剣技と魔法を見てから、最近手元が寂しい

     のよね。あっ、良い抱き心地。

リリー「カトレア先生、降ろしてくれん?」

カトレア あれ? いつの間にか、リリーちゃんを抱きかかえていたわ。

     うちにいる子達より、私のカラダに馴染むのよね。

リリー「先生、聞いていますか?」

カトレア「もぉ。リリーちゃん、動くと擽ったいわ」

     落ち着くわ。私の心が安心に満ちあふれてくる。それに、気持ちが

     良いかも。

リリー「ねえ、カトレア先生?」    

カトレア「私、寝る時にリリーちゃんが欲しいわ」

     あん! ぃやぃや、言わないで。

リリー「カトレア先生、私は抱き枕やなか」

カトレア 怒った顔も、可愛いわ。また、お家に泊まらせてくれるかしら? 

リリー「んー、んー。先生、おーろーしーてー」

    この後、何度もカトレア先生の抱っこに悩まされるリリーであった。

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[良い点] とても面白く一気に読ませてもらいました これからも更新頑張ってください 応援しています
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